3-20 タイプBの接近(2)観察
会議室に入ると、一斉にノートPCやタブレットの操作をし始める。千春君には、とりあえず見ていてもらうように告げた。
壁に並んだ複数の大型ディスプレイに、地図や複数の衛星画像が映し出される。
「アリスが発見した場所、出すよ~」
陽菜乃ちゃんの指がキーボードを叩くと、地図上に赤い点が出現した。
「ここから直線距離で、約100キロ。たぶん、3か所で火事が発生」
ディスプレイに、赤外線映像が三つ並ぶ。それぞれ、激しい熱源の反応があり、白や黄色の光が揺らめいている。
「ここは、以前の地図だと小型スーパー、幼稚園、公民館です。どれも国道沿いで、小規模な避難所になっていた可能性が高いですね」
「時間は、昼過ぎと夕方とついさっきか。襲撃して、火をつけて、移動してを繰り返してるなら、かなり悪質なやつらかもしれねぇな」
レオさんと田村さんが、データを遡って確認している。
「次、これが武装勢力らしき集団」
陽菜乃ちゃんの操作で、別の衛星画像が映る。火事の現場近くの国道を、五台の車両が連なって移動していた。三台の大型SUVと二台の物資を積んだトラックだ。
「マズいな。こいつら、このまま進むと、明後日にはこの辺りに来るぞ」
田村さんが、地図にいくつかのルートを表示させながら呟いた。
俺は、ディスプレイの前で立ち尽くしていた。
──何故だ。
俺の前世の記憶では、武装勢力がこの地方に来るのは、まだ九か月以上は先のはずだ。だから、その時期までに、できるだけあちこちの避難所に防衛を促すつもりだったのに。
「どうして……こんなに早いんだ……」
呟きが、口から零れる。
俺が計画的に積み上げてきたものが、ガラガラと崩れていく感覚。足元が砂に吞み込まれていくようだった。
「バタフライエフェクト」
レオさんが、静かに言った。
「例えば、『ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきが、テキサスで竜巻を起こす』──そんな可能性があると言われています。ちょっとした違いで、神崎さんの記憶と時期がズレてもおかしくありませんよ」
「それに、神崎君の記憶と同じ武装勢力とは限らねぇぞ。大丈夫だ。万全とは言えねぇが、準備はできてる」
田村さんが、ポンポンと俺の肩を軽く叩く。
ゆっくりと会議室を見回すと、千春君と目が合った。
彼は、今まで口を挟まずに、ずっと静かに座って、状況を観察していた。
「神崎さんの記憶……ですか?」
千春君が、一瞬目をつぶってから、ニカッと笑った。
「よくわかんないけど、大丈夫!……って、俺の勘が言ってるような気がする」
「うっわぁ……チィちゃんって、ワンコ枠だと思ってたけど、不思議ちゃん枠だったのか~」
「ひでぇ……」
「いやいや、褒めてるんだよ~、たぶん」
二人のやり取りを眺めるうちに、俺の動揺は少し収まった。
「桐島博士、いらっしゃいますか?」
俺が呼びかけると、消えていたディスプレイの1つが点いて、桐島博士が現れた。
背景は医務室だ。子供たちは映っていない。
『はい、聞こえています。皆さんの様子も、最初から見させていただいてました』
「ご意見、ありませんか」
『火事が気になりますね。放火症であれば、精神疾患なので手の打ちようはありません。ですが、計画的な放火であれば、統率された集団として動いていると考えられます。逆に、単なる享楽的な放火──つまり、略奪の興奮に任せた場当たり的な行動によるものなら、予測不能で突発的な暴挙に出てくる可能性も考えられますね』
いつも通り、落ち着いた冷静な声だった。
『それから、千春さん、はじめまして。桐島と申します。これから、よろしくお願いしますね』
「あ、よろしくお願いします!」
千春君が、急に背筋を伸ばして、大きく礼をした。
「もしも計画的な放火であれば、後続の動線を断つための橋やトンネル、物資がある倉庫や役場も狙うはずです。そういった組織的な行動の可能性は低そうにみえますね」
「そうだな。それに、この車列。少しでも警戒心があるなら、小回りが利くSUVを前後に配置して、動きが鈍いトラックを挟んで守るはずだ。だがこいつらはSUV3台の後ろをトラック2台が走っている。考えが甘い素人だな」
レオさんや田村さんの分析には納得だ。だが、桐島博士が言うように、素人集団の突発的な行動は、逆に対応が難しいとも言える。
「もう少し情報収集して、武装勢力の対応を考えましょう」
俺の声に、みんなが頷いた。
翌朝、早朝。
会議室に集まると、陽菜乃ちゃんが大型ディスプレイに詳細なレポートを表示した。
「武装集団の情報、アリスがまとめてくれたよ~」
昨晩から、3機の偵察ドローンを武装集団に張り付かせていた。
完全ステルス仕様。高性能カメラとショットガンマイクで、映像と音声を拾い続ける。マイクが拾えなかった会話は、唇の動きから分析する。それら全てを元に、アリスが武装集団の概要レポートを作成したものだ。
こうした対武装集団用の解析機能は、以前から準備してきたものの一つだ。
ディスプレイには、様々な分析が並んでいた。
─────────────────────
対象:武装集団
自称:最強連合 バーニングソウルエンペラー
─────────────────────
構成:成人男性17名
戦闘経験:ど素人
脅威度:低
<武装>
火器はVz 61(スコーピオン)のみを物質化で入手。
射撃技術はフルオート乱射が主体で、命中率は極めて
低いと推定。▶
<組織>
規律なし。夜間は全員が泥酔して、歩哨なしで就寝。
リーダー「ヨシマツ」への依存度が高く、指揮系統
は脆弱。仲間でも切り捨てる。▶
・
・
・
─────────────────────
「バーニングソウルエンペラー……絶妙にダサッ……」
千春君が小さく呟いた。
「戦闘経験がど素人って……アリス、辛辣だな」
田村さんが、思わず笑っている。
「アリスの性格って、橘の調教なの?」
「あーね、否定はしないかな~」
千春君の質問に、陽菜乃ちゃんが肩をすくめる。
「えっとね、項目の横の三角マーク、ここを押すと根拠動画が再生されるよ。アリスは、必ず証拠をセットにして、確実な分析をするようになってるんだ~」
俺は、<武装>の項目の▶をクリックした。
ディスプレイに、武装集団の映像が再生される。
それは焚火を囲んで缶ビールを飲む3人の集団だった。
『俺の物質化、銃弾だけだぜ? クソだせぇー』
『お前はマシだろ。俺なんか物質化させてもらえねぇんだぞ』
『ぎゃははっ、お前、最初に山ほどタバコを出して、邪魔だからもう出すなって殴られたもんな』
『やっぱ、一番かっこいいのは、ヨシマツさんの機関銃だよなー。あれのおかげで、俺らは世界最強だぜ!』
「……スコーピオンは短機関銃だけどな。それにしても世界最強、ねぇ」
田村さんが、頭をガシガシかきながら呆れる。
「あれは、一時期、旧東側から大量に密輸された銃だ。ヨシマツとやらがヤクザと繋がりがあって物質化できたのかもしれねぇな。ヤクザが服の下に隠し持つような銃なんだ。軽くて小さいから扱いやすいが、中型魔物の鱗も貫通しねぇよ。最強には程遠い」
パワーも射程距離もUZIの圧勝らしい。
俺は、少しホッとして、続けて<組織>の▶を押した。
今度は、トラックの荷台に寝転がって煙草を吸っている4人組だ。
『おい、このスニーカーいいだろ?』
『それ、ミツハシの宝物じゃん。あいつ、お前が崖から車ごと落とした時は、めっちゃスカッとしたぜ』
『あったり前だろ。仲間でも、イチイチ説教するやつは要らねぇよ。マジでウザかったし』
『女たちも、一緒に落として正解だったな』
『えぇぇ、先輩の彼女のリカさん、すげぇ美人だったのに。もったいなかったっすよ。泣きながら殺さないでーって言ってたじゃないすか』
『あの女、俺が他の女とヤるとギャーギャー文句ばかり言いやがって』
『途中で拉致った女たちも、もう使い物にならなかったしな。瀬戸内に着いたら、また調達すりゃいい。もっと美人がいるさ』
会議室の空気が、一気に冷えた。
千春君が、画面をにらんで「……マジかよ」と低く呟く。
仲間を崖から突き落とし、彼女すら物のように扱う。
彼らの会話には、罪悪感のかけらもなかった。
「武力と言う意味での脅威度は低い。だが、連中は、抵抗できない相手を嬲ることに躊躇しない。油断は禁物だ」
田村さんが、表情を引き締めた。
「えぇ、普通のコミュニティが襲われたら、ひとたまりもないですね。女性と物資を漁って、用済みになればすぐ火をつけるのでしょう」
レオさんも、冷たい眼差しで画面を見つめていた。
俺は、アリスのレポートと根拠動画を見つめながら、深くため息をついた。2項目でお腹いっぱいだが、敵の情報はできる限り把握しておかなければいけない。目をそらすわけにはいかなかった。
彼らは北関東のグループで、北陸経由で瀬戸内地方を目指しているようだ。災害直後のテレビニュースで、津波と噴火の被害が一番少ないと報じられたかららしい。
行き当たりばったりの無計画で、カーナビだけを頼りに移動し、目についた避難所を襲って物資を確保。物資が不要でも、気分で襲撃。火を付けるかどうかも気分次第のようだ。
ある意味、わかりやすいステレオタイプな武装勢力のようだった。
武装勢力の分析を終え、田村さんが、いくつかの作戦を提示した時だった。
「あの……」
千春君が、躊躇いがちに口を開いた。
「高専の時のように、ドローンで銃撃したら、こいつら、すぐに倒せますよね。何でそんなにまどろっこしい作戦ばかり考えるんですか?」
田村さんが、大きく頷いた。
「いい質問だな、千春君。でも、俺たちには、対人戦闘に関して決めた方針があるんだ」
田村さんが、ホワイトボードに三つの原則を書き出した。
・直接的な殺人は、最終手段とする
・我々の存在の痕跡を残さない
・責任は全員で負う
「みんなで話し合って、代替手段がある限りは、間接的な方法を優先すると決めたんだ」
「これ、絶対に守るんですか? あんなクズ相手でも?」
千春君が、少し顔を歪めて画面のレポートを指差す。
「ああ。理由は、いくつかあるが、例えば2つ目は、俺たちにとっては重要なんだ」
田村さんが、続ける。
「俺たちは、色々な理由からできるだけ存在を表に出さないように注意している。だが、銃で撃たれた死体や、おかしな爆発跡があれば、いつか俺たちに辿り着くやつらが出てくる可能性がある。それに、もしも人を攻撃するドローンを誰かに見られたら、今後、ドローンで物資輸送をして避難所を支援することも難しくなるだろう」
レオさんが、いつもの穏やかな微笑みで、穏やかではない説明を続ける。
「千春君、十数人もの死体の処理って、現実的にはかなり大変なんですよ。それに、武装勢力の車両や物資も、人目につかない場所で処分する必要があります。我々とは関係ない場所でね」
桐島博士も画面越しに、穏やかに、だがハッキリと告げる。
「3つ目の『責任は全員で負う』。これは何よりも必要な方針です。殺人は、たとえ相手が100%悪者だとしても、メンタルへの負荷が大きいですから。そういった様々な理由から、たとえきれいごとでも、間接的な手段を優先することにしたのです。今回ならA-13やC-2bの作戦も検討してみてはいかがでしょうか」
俺は、桐島博士が話し合いで言っていた意見を思い出した。
いずれ成長したら、莉子ちゃんや悠真君も対人戦闘に参加することになるだろう。だがその時に、たとえきれいごとだとしても、できるだけ間接的な手段を優先させてほしいと真摯な姿勢で頼まれた。みんな賛成して、それから、少しでも早く情報を掴んで対策を立てられるように、衛星画像解析で武装勢力を見つけ出す方法の検討が始まったのだ。
「それなら、A-13はありかも。人も車も一気に処理できるよ? カーナビのハッキングも、純正なら秒でできるツールも開発済みだし~」
千春君は、しばらく腕を組んで考え込んでいた。
それから、普通に話し合いに参加している陽菜乃ちゃんをじっと見てから手を挙げた。
「あの……俺も、作戦に参加させてください。運動神経はあんまりよくないけど、特殊な機械を作ったりできます。あ、ドローンの操作も得意です」
「チィちゃんは、ここで待っててよ。お家の人や高専の友達に、あんま秘密は増やさない方がいいよ~?」
「あんな連中がうちの村や高専に来たら、俺、直接でも間接でも戦うよ。藤堂さんが作った対人討伐隊でも、ちゃんと話し合って決めてるんだ。もしも、平和な世界に戻ったら、みんなで警察に自首しようってー」
「ククッ。お前らすげぇな。俺も、その時は自首するよ」
田村さんが笑って、ディスプレイの地図に印を入れ始めた。
「じゃあ、作戦の検討を始めよう。俺のおススメはA-13とB-11の組合せだ」
武装勢力の進路、彼らの行動パターン、心理分析、地形、こちらの装備、武器の改良、タイムスケジュール、そして「直接的な人殺しはしない」という方針。プランBも含めて、2時間ほどで、作戦が決まった。
レオさんが、休憩用に淹れたコーヒーをみんなに配ったタイミングで、千春君が少し遠慮がちに質問してきた。
「あの……他に用意してある作戦を、教えてもらうことはできますか?」
「お? 興味あるなら、一通り見るか? 高専で使える作戦もあるかもしれねぇしな」
田村さんに言われて、陽菜乃ちゃんが、ノートPCから別の資料を呼び出した。
ディスプレイに、対武装勢力用の作戦リストがざっと並んだ。
「え、ちょっと待って、その燃料気化爆弾って本物ですか?」
「空気中に可燃性ガスを散布して、引火させる。爆発の威力は通常の爆薬の数倍だ。半径100m以内は、空気が一瞬で消えるだろうな」
「えっぐ……」
目を見開いた千春君に、レオさんが解説する。
「だから、範囲が広すぎて今回の作戦には使えないんですよ。武装勢力17人に対して、周辺の山林ごと焼くわけにはいきませんからね」
「広範囲なら、なんたってこっちのEMP兵器だよ~! 半径、なんと2km!!」
陽菜乃ちゃんが、得意気に別の項目を差すと、田村さんが呆れ顔で言い返す。
「今回は破壊する電子機器がねぇだろ。車の足止めでドローン1機を失うわけにはいかねぇぞ」
「そうなんだよねぇ……相手が軍隊なら、司令部にドローンテロしたら効果抜群なんだけどなぁ~」
「橘、えっぐ……でも、後で見せて」
千春君は、EMP(電磁パルス)と聞いた瞬間に、目を輝かせていた。
「こちらは逆に、生物だけを狙えますよ。高専でも使えるかと」
レオさんが、別の項目をハイライトする。
「食料にボツリヌス菌を混入する案です。これは変異株で酸素にも強いです。無味無臭で、6時間後に呼吸停止しますよ」
「ただし、口にしないやつが一人でもいると面倒だがな」
田村さんが、コーヒーをすすりながら言う。桐島博士も参戦(?)してきた。
「毒素でしたら、温室にダチュラからトリカブトまで、色々な毒草もありますよ」
ディスプレイの中の桐島博士は、優しい笑顔だ。
「ボツリヌス毒素を利用するのであれば、解毒剤とセットで自白強要も可能です」
「えっぐ……自白強要ってか、拷問じゃ……」
千春君はしばらく独り言を呟いていたが、気を取り直して、再びリストの確認を始めた。
「あれ、これは何ですか?」
千春君が、画面をスクロールしながら、別の項目を指差した。
「C-2、塩酸プール……って、あの塩酸?!」
「それは、なかなか美しい作戦ですよ。動画がありますが、ご覧になりますか?」
「チィちゃん、お昼ご飯が食べられなくなるから、やめときな?」
陽菜乃ちゃんが止めると、千春君は画面からスッと目を逸らした。
「……とにかく、あらゆることがえぐい。高専とレベチすぎて参考にならない」
お昼ご飯にカップ麺2つと唐揚げを食べ終わった千春君が、ぐったりとテーブルに伏せて呟いた。
「高専も頑張ってるよ。俺はね、準備が9割だと思ってるんだ」
俺が千春君に冷たいお茶を渡しながらそう答えると、陽菜乃ちゃんと田村さんが、顔を見合わせて笑った。
「神崎さんの備蓄とか設備の準備って、えぐいどころじゃないよね~」
「あれが無かったら、そもそもできない作戦がほとんどだもんな」
千春君が、伏せていた顔をゆっくりと上げた。
「準備が9割……納得です。俺も頑張ります」
俺を見て、何度かまばたきをしてから、ふっと笑った。
午後から翌日にかけて、千春君の「えぐい」をBGMに、俺たちはそれぞれの準備に取りかかった。
翌々日の朝。
俺たちは、本土拠点の車庫で、最後の確認をしていた。
戦闘装備は、島での魔物退治の時と同じだ。しっかりとヘルメットを被り、グロック2挺を身につける。ゴーグルとマスクは、いつでも装備できるように首にかけた。長袖・長ズボンに防護ベストは、夏素材とはいえ暑い。
「うっわ、これ俺ももらえるんですか!」
千春君が、配られた装備を見て、目を輝かせている。
「おぉぉ。スマートグラスも腕時計も、マジでカッコいいぃー!」
「どれも特殊機能山盛りだよ~。このペンダントは、絶対に外さないでね」
陽菜乃ちゃんが、一つ一つ説明するが、さすが現役理系男子高校生。呑み込みが早く、すぐに使いこなしていた。
「陽菜乃ちゃんと千春君は、ここで待機してくれ。作戦は全てここから実行してもらう。指示を聞き逃さないように注意してくれ」
「「了解――!」」
そして、陽菜乃ちゃんにはグロック、千春君にはレミントンM870が渡される。
「使うことはないと思うが、念のために携帯しておいてくれ」
「これ、爺ちゃんの猟銃より重いけど、同じポンプ式だから簡単でしたー」
「千春君がどうして18歳でそんなにショットガンに慣れてるのかは聞かねぇが、確かに、昨日の発砲訓練では神崎君より上手かったな」
「ちょっと、田村さん、俺を出す必要はないでしょ?」
また、コンプレックスが再発しそうだ。
千春君はヒョロッとしているが、身長は高いし、ゴツイ戦闘装備が似合っている。
「俺、車の仮免許持ってるから、いざという時は、皆さんを助けにいきますよ!」
「えぇー、チィちゃんずるいぃ! 運転、教えてよ~」
笑顔で頼もしい発言をする千春君に、陽菜乃ちゃんが、頬を膨らませて拗ねる。
今から戦闘だと思えないほど、みんなリラックスしていた。
ひとしきり笑い合った後、田村さんが、車庫の奥に停めてある車両に乗り込んだ。
今回、使用する車両は、軍用の73式小型トラックだった。オリーブ色のボディは、購入時のままで、荷台には灰色の防水カバーが掛けられている。そして、そのカバーの下には──M240機関銃が、改良した固定マウントに据え付けられていた。
陽菜乃ちゃんが開発した自動迎撃システムモードにすると、設定した対象を自動追尾して掃討してくれる。ただし、車も相応に跳ねるが。
千春君が、車を一周して目を輝かせる。
「神崎さんの『準備が9割』って、マジで凄いです! どうやってこんな車両を準備したのかは謎だけど、ここは、本当に宝の山ですねー。俺、ロボコン部で、搭乗用ロボットを作るのが夢だったんだけど」
「うん?」
「神崎さんとこ、もっとヤバいモンが作れる気がします!」
「いやいや、チィちゃん、ヤバいロボットなんて倫理委員会通らないからね?」
「もう国際法もロボコンの規約も、関係ないよ。橘は固いなぁー」
「チィちゃん、ダークサイドに堕ちるの早すぎっ!」
俺は、賑やかな二人を残すことに、少し不安を感じながら助手席に乗り込んだ。レオさんはノートPCやタブレットを持って後部座席だ。
陽菜乃ちゃんと千春君は、本土拠点の会議室で待機して、遠隔操作を担当。桐島博士は、嶺守島の医療棟から、みんなの心拍数や血中酸素濃度を、リアルタイムで確認し、全員のバイタルチェックや医療的なアドバイスをしてくれる。
「行くぞ」
田村さんが、73式のエンジンを始動した。
ディーゼルエンジンの低い唸りが、車庫に響いた。
準備は、整った。




