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一人で生き残るつもりだった。死に戻って最強の離島シェルターを築いたら、仲間と未来を作ることになった。  作者: 雪凪
第2回本土進出編

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3-16 高専の若者たち(3)

 千春君が、寝癖を押さえていた手をゆっくりと下ろす。その目が、少し覚醒したように陽菜乃ちゃんを真っ直ぐ捉えた。


「え? 橘って……もしかして、あの橘か?」


「ん?」


「中学2年でU-22のゲームプログラミング大会、優勝したやつ。ぶっちぎりのスコアで」


 陽菜乃ちゃんはキョトンとしている。


「あの擬似感情生成カーネル、マジで衝撃だった。同じ県に同じ学年でこんなすげぇヤツがいるのかってビビったよ」


「あぁ、あれか。あれ、大会に参加したら不登校の出席日数を加点してくれるって言われたんだよね~」


 陽菜乃ちゃんは少し顔をしかめて答えた。彼女にとっては、あまりいい思い出ではないのだろう。


「俺、決勝の中継見てたんだ。途中でさ、NPCが『死にたくない』って泣き出したとき、会場の空気が凍りついたよな。ただのフラグ管理じゃあんな表現できないって」


 千春君の声の温度が少しずつ上がっていく。


「なぁなぁ、あれ、感情の揺らぎを複素平面上のベクトルとして定義したって本当か? 虚数軸を後悔の値に使ってるとか? それにしても、あの橘陽菜乃が、DMでやり取りしてた橘だったとはなぁ。俺、会ってみたかったんだ、ずっと」


 千春君の言葉に、陽菜乃ちゃんがゆっくりと得意げな顔になっていく。


『なぁ~んだ、チィちゃんって、あたしのファンじゃん。ふふん』


 陽菜乃ちゃんの小さな声が聞こえた。マウント競争は必要なくなったようだ。


「あ、そうだ。せっかくだから、ちょっと見てほしいところがあるんだけど」


「え? なに?」


「岩塩投射機。姿勢制御がうまくいかなくてさ。重い岩塩を飛ばすと反動が強すぎて、機体ごと暴れるんだよ」


 陽菜乃ちゃんが、ピクッと反応する。


「……PIDの手動調整はやった?」


「やった。けど、衝撃がパルス状に来るから、単純な後追い計算じゃ間に合わないんだ。たぶん予測モデルに切り替えないと無理っぽいんだけど、センサーのデータに、ちょっとノイズが多くてさ」


「わかった、行く! あ、待って」


 陽菜乃ちゃんが俺たちの方を振り返った。明らかな期待がこもった眼差しだ。田村さんが、苦笑して手を振った。


「いいよ、行ってこいよ」


 言いながら、自分のスマートグラスを叩いて見せる。「報連相」のサインだ。陽菜乃ちゃんも、自分のスマートグラスを同じようにトンと叩いて、嬉しそうに頷いた。

 そのやり取りを見ていた千春君が、少し目を細めてから大きく見開いた。


「えっ……もしかして、それスマートグラス? カメラがついてる! じぃちゃんが欲しがって鯖江に行きたがってたやつだ」


「ほぅ」


 一瞬で見抜かれると思っていなかったのだろう。田村さんが感心している。


「でも、そっちのおじさんと、橘のレンズ、色が違くない? あぁ、電子調光レンズなのか」


「えっ?! あーっ!!」


 陽菜乃ちゃんが、一瞬フリーズした後に叫んだ。


「そうじゃん! 電子調光機能を付けたら、サングラス兼用にできるよ! 悔しぃぃーー! なんで思いつかなかったんだろっ」


 うつむいてタブレットを両手でギュッと握りしめてから、キッと顔を上げる。


「チィちゃん、どこ。部室に連れてって。私、プログラムは得意だから! 怖くないもん3号のソースを使えば、投射機の姿勢制御なんて秒でできるんだからっ!」


「えっ……あ、うん」


 千春君は少し気圧されたように頷くと、大股で歩き出した陽菜乃ちゃんの後ろをついて行く。


「待って、歩くの早い。俺、寝起きでまだ脳が起動してない」


「寝起き!? もう昼前だよ!?」


 賑やかな声が、廊下の向こうへ遠ざかっていく。


『宮内千春さんは信頼できる人物のようですね』


 スマートグラスの骨伝導スピーカーから、桐島博士の落ち着いた声が届く。


『発言の論理性、初対面での距離感、視線の動き──観察した限りでは、悪意の兆候はありません。陽菜乃さんの様子は、こちらで追います』


『引き続きお願いします』


 俺は小声で短く返した。陽菜乃ちゃんの映像と音声をリアルタイムで確認してくれるなら、何かあれば即座に介入できるだろう。


 



「あのぉ……それ、スマートグラスなんですね」


 二人が出て行って少し気が抜けた会議室で、最初に口を開いたのは、三宅先生だった。


「ちょっと、見せていただけますか?」


 その横で、葛西校長代行と若林先生も無言で頷いている。さっきまで「メガネ」と聞いて首を傾げていた三人が、千春君のひと言で完全に興味を持ってしまったらしい。技術者というのは、どこも一緒だ。


 レオさんが、携帯バッグから取り出したスマートグラスをテーブルの上に置いた。


「こちらに予備があります。物質化を引き受けていただけるなら、二本ほど置いていきますよ。簡易アプリもお渡しできます」


 三宅先生が、半分腰を浮かせかけたところで、葛西校長代行が小さく咳払いをした。


「では、早急に話し合って、今日中にお返事させていただきます」


 さっきまでの、「内部で検討させてください」という持ち帰り口調から、明らかに熱量が変わった。田村さんが苦笑している。完全に身を乗り出している三宅先生に、レオさんがいつもの穏やかな笑みで、タブレットを使って機能の説明をはじめた。





 一通り説明が終わる頃、田村さんが、立ち上がって窓に近づいた。グラウンドの方からは、相変わらず賑やかな学生の声が聞こえてくる。


「それにしても、食べ盛りの生徒たちの食事を、一日三食用意するのは大変でしょうね」


 思わずという感じで田村さんがつぶやくと、若林先生がにこやかに説明してくれた。


「いえ、実はそうでもないんですよ。物質化の担当決めの時に、女子生徒が素晴らしい提案をしてくれたんです。カレー用野菜の水煮パックを物質化してはどうかと。それで、サラダも十五品目入りのカット野菜パックですし、筑前煮用の根菜水煮パックなんかも便利に使っています。下処理が全部終わってる状態で出てくるので、調理時間がかなり省略できてますね」


「なるほど、その手がありましたか」


 田村さんが、驚いた顔で振り返った。


「そうなんです。最初は、ジャガイモとかニンジンとか一人一つの担当を考えていましたが、『どうせこの人数ならカレーか豚汁でしょ? タイパ上げようよ』って女子学生が言い出して」


 俺も、内心で唸った。なるほど、物質化をうまく利用している。下処理済みのカット野菜なら、調理時間も生ごみも削減もできて効率的だ。コンビニでもそういった食材が並んでいたし、俺の備蓄にも加工食材はある。それなのに、前世の一人一つという記憶に影響され過ぎていたようだ。生存の先にある「日常生活」が見えていなかったようで、少し悔しい。


「アレンジも、図書館の本で調べているようです。例えば、カレー野菜パックは、ポトフや肉じゃがやポテトサラダにアレンジしています。ネットが無くても図書館が利用できるのは、ありがたい環境ですね」


 葛西校長代行が、嬉しそうに付け加えた。三宅先生も、思い出し笑いをしながら話し始める。


「その女子学生のアイデアを聞いて、ある男子学生が黒毛和牛のステーキ弁当を物質化に登録しようとしたんですよ。ですが、それはエラーになってしまって、多くの学生が悔しがっていました。女子学生の一人もカットフルーツ盛り合わせがエラーになって、慌てて冷凍フルーツミックスに変更しましたが、こちらは毎日スムージーが飲めると好評です」


「加工で一体化したものしかダメということでしょうか? これは掲示板サイトで意見を聞いてみたいですね」


 レオさんが、楽しそうにタブレットにメモしていた。


「私も、学生のアイデアを聞いて、便乗しようとしたんですよ」


 若林先生が、恥ずかしそうに話を続ける。


「ホテルのアメニティセットって便利じゃないですか。シャンプーやボディソープから、基礎化粧品やシェイバーまで全部入っているやつ。でもダメでしたね。慌てて他のものに変えました」


「いやでも、若林先生のカリウム石鹸のペーストはとても役に立ってますよ。お湯で溶かせば液体ソープ、 濃度を変えれば食器洗剤にもシャンプーにもなりますから」


「そうですかね。一瞬、工業用脱脂石鹸と迷ったんですけど、汎用性を優先しました」


 少し胸を張った若林先生の隣で、葛西校長代行が穏やかに頷いている。他にも、色々な物質化の工夫をして、コミュニティ全体で必要なものを揃えているようだ。

 俺は、笑顔を保ちながら、内心で頭を抱えていた。完敗だ。備蓄にあぐらをかいていた。

 田村さんも、似たようなことを考えていたのか、ふっと小さく笑った。


「大変、勉強になりました」


 短い感想に、色々な響きが籠っていた。


 



「ところで先ほどの『安全に魔物ポイントを稼ぐ』方法について、もう少し具体的に説明をお願いできますか?」


 背筋を伸ばした葛西校長代行の質問に、田村さんが答える。


「掲示板に出ている『モノリス』を利用したポイントコントロールの話は、もちろんご存知ですよね」


「ええ。この近くでも2本ほど壊しました」


「我々のチームでは、短期間でモノリスから安全にポイントを稼ぐサポート体制ができています。武器の訓練をしてもらいますが、一日で4人くらいは1,000ポイントを──」


「待ってください、武器……ですか?」


 葛西校長代行の眉間にしわが寄る。


「えぇ、拳銃の発砲訓練です。結論から申し上げると、拳銃が一番、安全に魔物を狩ることができます。距離を取れるし、習熟までの時間が短く、かつ、対魔物の制圧力が圧倒的に高いのです」


 三人の先生の顔が、みるみる強張っていった。若林先生が立ち上がる。


「ダメです、拳銃なんて! 危なすぎます」


「いえ、拳銃が一番、安全に効率よく──」


「ほとんどがまだ10代の学生なんですよ? 拳銃なんて、触らせるわけにいかないわ」


 葛西校長代行も、ゆっくりと続けた。


「田村さん。私が教育に携わって、三十年以上になります。子どもたちには、暴力ではなく、対話で解決する力を身に付けろと、ずっと教え続けてきました。薙刀やアーチェリーでも、最初は反対したんですよ。それでも、対魔物に限るという条件で、ようやく折り合った。それが、拳銃だなんて……」


 言葉を切って、葛西校長代行は深く息を吐いた。


「申し訳ありませんが、許可できません。この話は無かったことにしてください」


 田村さんが、サングラスを少しずらして、ジロリと睨む。


「あなた方も掲示板サイトを見てるだろ? 武装勢力が暴れてる動画も、何本も上がってる。海外じゃ、機関銃の応酬になってる地域もあるんだ」


「そんな、機関銃なんて自衛隊しか持ってませんよ。日本は銃社会じゃないですから」


 三宅先生が苦笑まじりに答える。


「そうですよ、あれは海外の映像でしょう? 日本で、武装勢力なんて出るわけないじゃないですか、あはは」


 三宅先生が、笑顔で手を振った。

 軽く、本当に軽く、笑い飛ばしながら。





 ──立派な信念だ。


 頭のどこかで、そう思った。

 教育者として、暴力にNOを突きつけてきた人たち。大災害が起こっても、その信念を簡単に手放さない。立派だ。本当に、立派だと思う。思う、けれど──目の前が、ふっと暗くなった。


 



 俺の前世も、最初はそうだった。


 大学の避難所、最初はみんなで協力していた。世界が変わったあの日の後も「米担当」「水担当」と分担を決めて、笑い合っていた。

 武器を持っていたのは、運動部の後輩たち。彼らは魔物を倒してくれて、頼もしかった。


 このまま助け合いが続くと信頼していた。


 いつから変わったのか、ハッキリと思い出せない。気付いた時には、俺は「米野郎」と呼ばれて、配給の最後尾にいた。文句を言えば次の日の食事はない。魔物の囮として使われ、殴られ、それでも「米を選択した自分が悪い」と思い込んでいた。武器を持たない者に、発言権はなかった。


 そして最後は──あの日、日本刀よりもっと強い武器を持った武装集団がどこからか来て、運動部の後輩たちは殺された。校舎の外では重くて激しい銃撃音と笑い声が響いていた。


 あれは、日本人同士の出来事だった。 


 



 声が、勝手に出ていた。


「あれも……あれだって、日本人同士の出来事だったんだ!」


 俺は、立ち上がっていた。椅子が、後ろに倒れる音が、遠くで聞こえた。


「落ち着け、神崎君」


 田村さんの声が耳を通り過ぎていく。


『私、戻る! 平和ボケしたバカが神崎さんの地雷を踏み抜いた!!』


 骨伝導スピーカーから聞こえる陽菜乃ちゃんの叫び声も遠い。





『神崎さん』


 桐島博士の声。落ち着いた優しい声。


『神崎さん、深呼吸を。今、目の前の方々は、前世であなたを傷つけた人たちではありません』


 そんなことはわかってる。


『集団心理の危険性のページを思い出してください。心理学では、正常性バイアス、という現象があります』


 博士が、ゆっくりと続けた。俺の頭に言葉が染み始めた。俺は、無言で、テーブルの縁を握りしめたまま、博士の声を聞く。


『「自分は大丈夫」「ここは安全」という思い込みは、経験の蓄積と密接に関係しています。年齢が高いほどそういった傾向が出やすいのです。葛西先生は、戦後の平和教育の中で、人生の大半を過ごされた方です。若林先生や三宅先生も、平和な日本の価値観の中で大人へと成熟した世代です。武装勢力が日本人同士で衝突する光景を、想像する材料を、彼らは持っていない。それは、彼らの怠慢ではなく、彼らが生きてきた時代の幸運です』


 ──幸運。


 その言葉が、俺の中の何かを、わずかに緩めた。俺の前世が「不運」だったのなら、彼らの今までは「幸運」だった。それは、責められるべきことじゃない。

 ただ、その幸運は、もう終わったのだ。


 


 ゆっくりと息を吐いて、倒れた椅子を窓のそばに置いて座り直した。

 先生たちが、戸惑った顔をしている。

「対話」を信じてきた人たちの顔。

 俺は、その顔を見ながら、静かに口を開いた。


「もう……今は、平和な日本ではありません」


 短く、それだけ言って、スマートグラスの側面をタップした。


「アリス。コード203E78SZだ」


『コマンド受領。コード203E78SZ。実行します』


 透きとおった声が、短く返事をした。

 コード203E78SZ──俺だけが発令できる、最優先コマンド。アリスの判断系を一時的に上書きして、俺の指示を最大優先で実行させる命令系統。サーバーを構築する時に注文した特別仕様で、アリスも従うように陽菜乃ちゃんに頼んでいた。田村さんもレオさんも桐島博士も存在を知らないコマンドだ。


「ドローン四機ともスクランブル。俺の背面窓まで降下。ホバリング待機」


『了解。降下開始。到達まで、八秒』


 葛西校長代行が、俺の言葉を聞いて窓の外に目をやり、驚愕の表情に変わる。

 窓の外で、低いかすかな羽音が重なった。そして、その音が急速に近づいてくる。


「な──」


 三宅先生が、立ち上がった。


 窓の外、地上2mの高さに、四機のドローンが、隊列を組んでホバリングしている。シンプルなグレーのロービジ塗装。周囲に溶け込むはずのマットなその機体は、静かな存在感を放っていた。一機は、一瞬で網膜を焼く高出力が可能なレーザー照射機を搭載。残りの三機は、機体下部に、麻酔銃ユニットが固定されている。


『ヤバい! 魔王降臨した!!』


 陽菜乃ちゃんの叫び声が耳に入る。


「あの……あれは……」


 ドローンを指さす葛西校長代行の声は、少し掠れていた。


「お見せしたくはありませんでした」


 俺は、低く、しかし、はっきりと言った。


「だが、状況を、正しく、理解していただく必要があります。物資の奪い合いは、現実に、世界中で起こっているのです。日本国内だって、これと同じ装備を持って、悪意ある使い方をする人が出てこない保証なんてどこにもありません。もはや、平和な日本ではないんです」


 会議室が、静まり返った。


 


 

 葛西校長代行が、ゆっくりと、ドローンから視線を戻した。

 俺の顔を、真っ直ぐ見る。


「神崎さん、あなたは──」


 言いかけて、ふっと言葉を切った。続きを呑み込むように、喉をゴクリと鳴らす。


「あなた方、何者なんですか」


 俺は、答えなかった。田村さんが、サングラスを片手で押し上げて、葛西校長代行の方に向き直った。


「俺たちも、ただ必死に生き残ろうとしている一般市民だよ」


 低く、それだけ言った。





 その時、会議室のドアが勢いよく開いた。


「神崎さん!」


 息を切らして最初に飛び込んできたのは、陽菜乃ちゃんだった。

 その後ろに、男子学生が五人、続けて入ってくる。窓の外でホバリングしているドローンを見て、全員がハッと息を呑んだ。

 男子学生5人が、すぐに背面から武器らしきものを取り出して構える。黒い円筒形のプラスチック。陽菜乃ちゃんを押しのけた千春君が、迷いなく親指で側面のスイッチを入れると、先端から青白い火花が飛んだ。


『自作のスタンガンもどきだ。距離を取れば問題ない』


 田村さんのささやきが聞こえる。


「あなたたち、それは何なの? いいから、部室に戻りなさい!」


 若林先生が、信じられないという顔で、生徒たちの方に進み出ようとした。

 一番後ろにいた茶髪の男子学生が、左手でスマホを高く掲げながら前に出てくる。


「私は、学生代表をしている、藤堂と言います」


 場慣れした感じの落ち着いた話し方だ。視線は、ドローンを意識しつつも、俺たちから外さない。


「あなた方が、敵対行動を取るのであれば、警報を発令します」


 田村さんが、俺の方をチラリと見たが、俺が動かないのを確認し、フッと笑って俺の隣に歩いて来た。


「手っ取り早くまとめて理解してもらおうか」


 頭にかけていたサングラスをゆっくりと下ろし、両足を肩幅に開いて、軽く重心を落とした。グロックに手を伸ばしていないが、いつでも抜ける構えだ。

 レオさんも、静かに席を立ち、スッと田村さんと反対側に位置取った。レオさんは、小型の携帯用催涙スプレーを握っているようだ。



 藤堂君──学生代表の彼がその動きを見て、即座にスマホの画面を長押しした。


「発令!」


 ウィ──ン ウィ──ン

 ウィ──ン ウィ──ン


 学生たち五人のスマホが、一斉に鳴動して警報を鳴らし始めた。

 そして、その音は校内のあちこちから聞こえてきた。

 窓の外、グラウンドで遊んでいた男子学生たちの声が、ぴたりと止まる。

 代わりに、何かが、慌ただしく動き始める音が、校舎全体から立ち上ってきた。

 足音。短い指示を出し合う声。何かを引きずる音。


「あなたたち……それは何なの。いつの間に、そんなものを……」


 若林先生が、半分振り返ったまま、固まっていた。


「二か月前です」


「二か月も……前から……」


 葛西校長代行が、呟いた。声が、わずかに掠れていた。


「掲示板サイトの暴動の動画を見て、代表委員会で話し合いました。多数決で俺たちも防衛体制を強化することに決まりました」


 藤堂君の声は、淡々としている。


「先生にも、一度、相談しましたよ?」


「……」


「俺たちも、何か準備した方がいいんじゃないかって。動画を、お見せして」


 葛西校長代行が目を彷徨わせてから、ハッとした顔になった。


「あ……あの時の……」


「『心配しすぎだよ』って、笑って終わりましたよね。だから、僕たちは、僕たちで準備することにしました」


 葛西校長代行は、何も言えなかった。唇が、わずかに動いて、何かを言いかけて、止まる。何度か、それを繰り返した。三宅先生も、若林先生も、声を出せずにいる。


 藤堂君は、視線を俺たちの方へ戻して、静かに告げる。


「非常召集を発動しました。5分以内に、武器を持った30人がここに集まります」


 千春君が、慣れた手つきでスタンガンの出力上げた。


「これでも、あなた方を無力化することはできます」


 眠そうな目は相変わらずだが、武器を構える手に迷いはない。何度も訓練してきたことがうかがえる。他の生徒も、それぞれに構えた。

 藤堂君の威圧的な声が響く。


「動かないでください。両手を、頭の上に」


 



 若者の柔軟性は、やはり素晴らしい。だが、それでも足りない。


「甘いな」


 俺は、口の端を、ほんの少しだけ上げた。


「アリス、ターゲット指定。教師3、学生代表1。レーザー照射、ホールド」


『了解しました』


 窓の外で、ドローンが滑らかに動いた。

 葛西校長代行、若林先生、三宅先生、そして藤堂君──四人の額に、赤い点が静止した。


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えがっだえがっだ……。 危機感を持ち足らぬとはいえ精一杯『現実に即して策を取ろう』ともがく人達が、現場にいたんだから。これは不幸中の幸い。 『話し合いで解決しましょう(微笑み)』の方々って、うん、基…
複数いれば勝てる!は相手が単発武器しか持ってない場合だけだよな。複数を殺れる武器持ってたら的が増えるだけで何の脅しにもならん。
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