603.【後日談7】猫パ その7
・トミタ(猫)視点
パーシー君とマック君の慰謝料をめぐる裁判は、ネコ科魔獣裁判員がパーシー君の味方をし、人間裁判員がマック君の味方をし、過去に例を見ないほど大荒れした。
ま、そもそもネコ科魔獣には、浮気や結婚という概念が無いからな。
だから、マック君の言い分に全く共感出来なかったのだろう。
裁判の結果は、マック君の不妊の原因を作った事と、その期間3年半ほどを無駄にした事に対して、パーシー君へ賠償3億マタタビが請求された。
パーシー君にそんなお金は無いので、代わりに牢獄で3年間働くことでチャラとする、という判決になった。
これにて一件落着。
はぁ……
「猫さん、痩せました?」
「にゃー(食欲が無くてな)」
宿屋の受付カウンター横に新設されたお土産売り場のハンカチコーナーで丸くなっていると、ヨツバが話しかけてきた。
「そのまま健康体形になるまで、食事抜きがいいと思います」
ひょい。ヨツバは俺を持ち上げる。
そして、床で転がって毛づくろいしていたサバトラ猫のサバさんの横に、ぽいと投げる。
すたっ。4本足で着地。
サバさんは、ちらっと俺の方を見て、興味無さそうに毛づくろいを再開する。
……
…………はぁ
その後、俺の憂鬱な気分は2週間程度で収まり、食欲が戻って体重も元通りになったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
猫パ前日の昼。
中央広場では、臨時の魔獣お風呂大作戦が決行されていた。
猫パ参加予定者達が、お風呂で洗われている。
この都市の外に居る連中は、汚れやノミダニ等がいっぱい付いているからな。
「ぐんにゃう(ちょっとぉ。あたしをそんな安物のシャンプーで洗う気ぃ?)」
「そうだ、大人しく洗われておけッ!」
「ぐんにぃう(強引ねぇ……それによく見るとイケメンねぇ……)」
文句を言いつつオリバー君に洗われているのは、カザド国からやって来た青毛な普通猫大の魔獣、ネクロミャンサー。
死霊使いと言われているが、実際に彼女が使役出来るのは、猫やネコ科魔獣の死体のみである。
「……」
「わ~、尻尾が沢山あります~」
そのネクロミャンサーを静かに睨んで洗われている、人間大の、尻尾を9尾持っている白猫魔獣。
中央都市チザン闇ギルドの『猫耳天国』リーダー、ネコショウだ。
闇ギルドといっても、やっている悪い事といえば窃盗程度で、それも金持ち相手限定。
盗みで得た利益は、貧乏なネコ科魔獣に還元している、義賊みたいな奴らだ。
本当は、そういう富の再分配は、政府の仕事なのだがな。
そして、なぜネコショウがネクロミャンサーを睨んでいるかというと、
「ぐんにゃい(それで、あなたは何であたしにお熱な視線を送ってるのかしらぁ?)」
「……グァウル(ベロと、リックスの死体を返せ)」
「ぐんにぃ(嫌よぉ、あたしの彼氏を渡すなんてぇ)」
ネコショウの仲間の死体を、ネクロミャンサーが持って使役しているからである。
ネクロミャンサーが殺したわけではない。墓穴から盗んだだけだ。
そもそも死体は誰のものでもないのだがな。
「ぐんにゃう(あぁ、駄目よぉエルフさん。いくらあたしが好きだからって、あなたとあたしは別種族。その恋は実らないわぁ)」
「何を意味不明なことを言っているッ? やめろ体をこすり付けてくるなッ、濡れるだろッ!」
ちなみにネクロミャンサーは惚れやすい性格をしている。
そして自分に優しくしてくれたオスを、勝手に彼氏認定している。
オリバー君は、お眼鏡にかなったようだ。
こうして明日の猫パの準備が着々と完了していくのだった。