番外話 ある日森の中でケモミミ少女に出会った(後編)
それから1ヶ月間、ユエにいろいろなことを教えてもらい、狩りや食べ物採集を手伝って過ごした。
「セーイチ、コレ焼けたヨ」
「ありがとう」
カタコトながらようやく、こっちの言葉もしゃべれるようになってきた。
言葉が通じるようになってから、この世界のことを教えてもらった。
文明レベルは中世ヨーロッパぐらいで、この国は小さいながらも安定した政治を行えてるようだ。
この国は比較的平和なほうらしいが、最近戦争があったせいでユエも負傷したと聞いた。
ケガが直って体調も戻ったら、街に案内してくれるといってくれた。
オレが異世界からきたという事情を話すと、ユエはぴんとこなくてとりあえず遠くからきたと思っているようだ。
それから、食事のときなどはお互いのことを話すことが多かった。
「ネェ、セーイチが住んでたトコロってどんなところだったの?」
「平和なところで、いろんな人種の人たちと自由に話せるところだったよ」
猫好きが集まるサイトで、いろんな国のひとから自分ちの猫の話をしたり画像をもらったりした。
「イイなぁ。ワタシみたいなニンゲンでも、住めるのかなぁ」
「ユエみたいにかわいい子だったら、みんなかわいがってくれるよ」
リアルネコミミ少女が日本にきたら、みんな驚くだろうけどなんだかんだで受け入れそうだ。
話は変わり、ユエがこの辺を治める領主様のところでメイドをしていたと知った。ネコミミメイド姿をぜひ拝見したくなった。
「領主様ってどんな人なの?」
「リョーシュさまはマジメな方なんだけど、息子のリョーシュ代行のほうがチョト問題なんだヨ」
話を聞いていると、仕事の掃除中に嫌がらせをするし、不慣れな場所に連れまわすしでイヤなヤツらしい。
だけど、話をしているときのユエの顔はすごく楽しそうで、おれのことを近所のおばちゃんに話す母さんと似ていた。
寝ているときに
「アレキサンダー様、ごめんなさい」
とつぶやきながらうなされている姿を何度かみた。
気になったが、深く踏み込めないようなことだと思ったので聞けなかった。後になって、オレはこのときのことを、深く後悔した。
やがて、冬も過ぎたようで暖かい日が続くようになってきた。
この頃には、ユエの傷も治り体調もかなり良くなったようだ。
「セイッ!」
ユエが川の中ほどに立ち、水面をのぞいていたと思うと、こちらに魚が飛んできた。
「おおー、すっげぇな。クマみたいだ」
体調がよくなってからのユエの動きは段違いだった、ウサギを足で追いかけて仕留めたり、水を泳ぐ魚を手で地面にはじき出したり、本物の猫顔負けだった。
しとめた魚を枝に差して、焚き火で焼いていた。
「セーイチ、もう体調もよくなったし、そろそろ街にいこうか」
「マジで!?おっしゃー」
オレはガッツポーズをとり喜んだ。森に3ヶ月近く過ごしからの、はじめての街にテンションが上がった。
明日、出発するために準備を整えてうろの中で寝ていると
「セーイチ、いままでありがとうね」
「なに言ってんだよ、むしろ助けられたのはオレのほうだろ」
ユエがいなきゃ、いまごろ森のなかで野垂れ死んでただろうな。
「ううん、セーイチがいてくれたからわたしはニンゲンでいられたんだよ」
「そうか? どういたしまして」
しんみりした調子でユエがいってきて、なにか意味ありげにいわれたが、とりあえず返事をかえしておいた。
次の日の朝、とうとう出発のときがきた。
「それじゃあ、いこうか」
「おー」
住み慣れた大木のうろに別れをつげて、森のなかを2時間ほど休憩しながらすすんでいくと、森が開けてきた。
「道だ!!」
おれは足早に森を抜け出すと、そこには平原が広がり、森の脇を通るように道が通っていた。
「やったぜ!!ありがとうな、ユエ」
「うん……」
振り向くとユエはフードを目深にかぶり、暗い雰囲気だった。
「どうしたんだ?」
「なんでもない、街へ急ごう」
おかしな態度のユエがきがかりだったが、先を急ごうとするユエの後についていった。
道をあるいていき夕方になったころ、ヨーロッパの城塞都市のような城壁でかこまれた街が見えてきた。
「おお~、すっげぇ~」
おれが見とれていると、ユエが後ろで立ち止まった。
「それじゃあ、これをもって孤児院のタニアばあちゃんってひとのところにいくといいよ。口は悪いけど、いいひとだから」
そういって、鎖のついた小さい金色のプレートをわたしてきた。プレートには、読めない文字となにかの模様が彫ってあった。
「なに言ってんだよ、おまえもくるんだろ」
「ごめん、わたしはいけない…」
オレはユエの顔を見ようとしたが、夕日が逆光になってよく見えなかった。
「できればわたしのことは、あまりひとに言わないでくれると助かるな。それじゃあね……」
「おい、まてよ!!」
走っていくユエは、あっという間に遠ざかっていった。
「んだよ、あいつ…」
オレはいらいらする気持ちを押さえつけて、一人で街の入口にある門までむかった。
遠くの村からきたという設定で説明すると、名前を聞かれただけであっさり通してくれた。
ユエの助言に従って、孤児院に向かった。
「タニアっていう人に会いたいんだけど、いるかな」
入口で応対してくれた女の子にいうと、奥から杖をついた老婆がでてきた。
「あたしに用があるってのは、あんたかい」
「はい、ユエっていう子からここに来るようにいわれて」
タニアさんの眼力に気おされながらも、金のプレートを見せた。
「こいつは!? これはどこで手に入れたんだい」
「えと…」
ユエからはあまり言いふらしてほしくないといわれていたから、周りにいる子供たちをどうしようかと見ていると
「ふん、訳ありかい、奥までついてきな」
タニアさんの後について、奥の部屋に入った。
「ほれ、ここならガキどもにも聞かれないだろう」
「実は……」
森でユエにあったところから街の前で別れるところまで簡単に説明した。
「はぁ~、あの子はどこかひとと壁をつくってるところがあったけど、そういうことだったのか。このことは他のひとに話したのかい」
「いいえ、話してないです。というか、頭に獣の耳が生えてるのって普通じゃないんですか」
「そんな珍妙な姿をしたやつなんぞ、この街どころか国中にもおらんさね」
やっと、ユエの妙な態度に納得がいった。異世界だからネコミミが生えてるのも普通だとおもってたけど、こっちでも異質だったんだな。
「それで、ユエはいまどこにいるんだい」
「わかりません。街の入口で別れたっきりどこにいったのか… 」
「そうかい… しょうがない子だよ、まったく」
タニアさんは怒った口調だったが、心配しているのがわかった。
「まあ、そのうち戻ってくるだろうさ。あんた、行くところがないなら、ここにいな。ただし、ちゃんと働いてもらうよ」
こうして、オレは孤児院でお世話になることになった。初めは、子供の世話をしたり、ヤンやパロマという年長の子と一緒に働きにいっていた。
ある商家の資材運搬の手伝いにいったとき、たまたま自分が計算ができるということがわかり、それ以来その商家で働くようになった。
商会の王都の支店に出向し、在庫の管理から売り上げの計算などこき使われたが、たくさんの人や商品を取り扱うことで貴重な経験となった。
意外にも、自分には商売の才能があったようで、独り立ちをし自分の店をもつことができた。
そのとき、働いていた商会の主が少なくない援助をしてくれた。
身元も確かじゃない自分に、なんで、ここまで良くしてくれるのかきいたことがあった。
商売を成功させることができ、ここまで商会を大きくすることができた。そうすると若いころにしてきたことを思い出すようになり、せめて罪滅ぼしになるようにと、能力のある若者の支援をするようにしているらしい。
もちろん借りは返してもらうよと、黒い笑みを浮かべていた。
自分の狭い常識のせいでひどいことをしてしまった妻と子を、いまでも気にしているらしい。
始めた商売は、日本でも夢であったペットショップに似たもので、ネズミとり用の猫の斡旋から、ペット用の希少な猫の手配など、猫に関するなんでも屋をはじめた。
そして、いま、もうひとつの夢をかなえようとしていた。
さんざんお世話になったが、ろくにお礼をすることもできなかった少女に、なにかを返したかった。
そこで、オレはネコミミメイドカフェを開くことにした。秋葉原ではおなじみのやつだが、こうやって、地道にネコミミの魅力を広めていけば、リアルネコミミ少女も受け入れてくれるはずだ。
やがて、知るひとぞ知るその喫茶店は口コミで客が増え、密かにネコミミブームが起きていた。そして、店内の入口に飾られた、透き通るような白い髪をしたネコミミ少女の肖像画は、その店のシンボルになっていた。
これでおまけ部分も終了となります。
長かったような短かったような、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
別作品を随時あげていく予定なので、そちらも手にとってもらえたら幸いです。
※話を作るうえでの裏話のようなものを活動報告に上げる予定です。




