幕間 ハザイド・ヒートティア ①
8/6 三話目 お兄様side
「お兄様! どうしてヒートティア家の養子になることを教えてくれなかったの!! 私だけ知らなかったとか、悲しい!!」
俺、ハザイド・ヒートティアに向かって、両親ともに同じ妹であるクライネアが文句を告げている。
俺はヒートティア侯爵家の分家の一つであるルーファブル家に産まれた。ただ優秀さを買われてヒートティア家を継ぐことが決まった。
……昔から俺は天才だとか、他の子供とは違うだとか、そんな風に言われることも多かった。
周りの同年代の子供とは、話が合わない。そもそも仲良くしたいとも思えなかった。
ただそんな俺に対して、妹だけはいつだって無邪気だった。兄である俺が、自身を害することはないと心から信じ切っている。妹は、そういうところ馬鹿だ。でもその愚かさが、俺は嫌いじゃなかった。
「別にいいだろう」
「なーんーでそんなことをいうの? 私、お兄様が居なくなるの、凄く悲しいんだよ?」
「別に俺がヒートティア家に行ったとしても、何も変わらない」
「えー? 本当?」
「ああ。何かあれば連絡しろ。すぐに返事する」
「それなら、いいけど……! それにしてもお兄様があのハザイド・ヒートティアかぁ。想定外だったなぁ。お兄様かっこいいから、分かる! って思うけれど」
「何を言っている?」
俺の妹であるクライネア・ルーファブルは変わり者だ。言ってしまえば、変である。
こんなに変な子供、俺は他に知らない。
俺と一つし変わらないわけだが、無邪気に見えて、何だかんだ冷静だったりする。
その見た目は兄妹というだけあって俺に似ている。ただし、本人は目立ちたくないなどという意味の分からない理由で髪色などを変えてしまっていた。俺は、そのことは少し気に食わない。
俺と同じ、美しい銀色の髪をなぜ隠すんだと文句を言いたくなる。髪色を変えている妹は、何処にでもいるような茶色の髪に変化している。
それに眼鏡もかけて、その目も見えにくいようにしている。
……それがノルケーシア・チェレンダのためだというのも、考えただけで嫌な気持ちになる。
そう、妹はなぜか、会ったこともないだろうノルケーシア・チェレンダに心惹かれているらしい。
それでいてその男のためだけに、頑張ろうとしているのだ。なんで、俺の妹がチェレンダ家の息子の為に一生懸命だ? と何とも言えない気持ちだ。
クライネアはなぜか、ノルケーシア・チェレンダの前には出たくないらしい。存在も知られずに見守りたいなどというよく分からない考えらしい。好意があるなら表に立てばいいのに。
ただ妹が望まないのならば現状はその気持ちをばらすつもりはないが。
それによく分からないことをいつもブツブツ言っていて、その様子を見ていると何を言っているんだかといつも思う。
「クライネア、俺は家を出るがお前が望めばいつでも会ってやる」
「ふふっ、ありがとう。お兄様! でも人目につかない場所で会おうね?」
「なんでだ?」
「私はモブ! 目立たないように生きていきたいから、お兄様とはかかわりのない方向で進みたいの。だから、お兄様、ひっそり密会しよう!」
キラキラした目でそんなことを言われて、やっぱりこの妹は訳が分からないと思ってしまう。
妹は、徹底している。
子供の戯言のように見えるのに、全くもってそうではない。
ギルド設立に関してもそうだ。冗談かと思っていたが、本気だったし、設立したギルドは軌道に乗りつつある。
俺も手伝いはしたけれど、基本的に妹が主導で全てやったものだ。
俺の妹は有能である。……俺と比べて自分は普通だと思っているらしいがそんなことはない。
俺としては、妹とは表立って会いたい気はするがクライネアが密会を楽しみたいというのならばそれにのるとする。
……こんなことを考えている時点で俺も妹に甘いのかもしれない。下僕たちにはたまに「妹思いですね」などと言われて、少し気に障ったので模擬戦でとっちめておいた。
「分かった。なら、徹底的に表だっては交流を絶つか」
「うん! それがいいよ! それで実は裏でこっそり仲良しなのも面白いでしょう?」
にこにこしながら妹がそう言った。
クライネアはそうやって、普段はこうだけど実は……的な関係が好きらしい。本当に変わり者だ。
俺はこれから、ヒートティア侯爵家を継ぐために家を出る。
だけれども、クライネが俺の妹であることは変わらない。これから先もきっと面白いことを幾らでもしてくれるだろう。
俺の妹は、ずっと面白いから。
……ノルケーシア・チェレンダを気にしすぎているのは、気に食わないが、まぁ、これから先も俺は妹のことを見守るとしよう。




