幕間 ハザイド・ヒートティア ②
『お兄様、私最近推し救済貯金を始めたの!』
「あぁ? なんだって?」
『だから推し救済貯金よ! ノルケーシア様が窮地に陥った際に私が彼を救うための資金をためているの』
「女に助けられなければ自分の危機を乗り越えられない奴なんて放っておけ」
『お兄様、なんてことを言うの! 私はノルケーシア様を幸せにしたいの!!』
相変わらず俺の妹、クライネアはおかしい。有能な妹がなぜだか執着しているノルケーシア・チェレンダのために全力を尽くしている。
あの少年にクライネアが動くだけの価値があるのか俺には分からないし、気に食わないというのが正直な感想だ。
……通信用の魔道具越しに妹の顔は見えない。ただ凄くはしゃいでいるだろうというのは想像が出来る。
クライネアは分家とはいえ貴族令嬢ではある。ただ割と感情豊かな方だ。こんな妹でも家の集まりでは大人しくしているというのだから案外猫かぶりが得意だ。
それに『幻妖の魔女』なんて呼ばれていて、本当に何処を目指しているんだか。
「それで、その貯金がどうしたって?」
『額が増えていくだけでも幸せよね。ノルケーシア様のためにこれだけの資金を貢ぐ準備が出来ているのが幸せでならないの!』
「……クライネアは駄目男でも量産する気か?」
『いえ? そんなことはしないわ。それにノルケーシア様は駄目男なんかじゃないもの。かっこいいもの。きちんと何かあった際も自制出来る方なのよ?』
どこからその自信がくるのかさっぱりだが、クライネアはノルケーシア・チェレンダに対して過分なほどの信頼を向けている。
「そうか」
『そうなの! お兄様はどう? 最近は? 好きな子とか出来た?』
「何を気にしている」
『だってお兄様は侯爵家を継ぐのでしょう? なら跡取りだっているじゃない! お兄様って顔も良くて、天才なのにそう言う話聞いたことがないから気になるの』
クライネアは俺の恋愛話をよく聞きたがる。クライネアはそう言う話を聞くのが好きだ。
自分は推しだ云々と口にして、婚約者を作ったりなどもしていないのに他人のことは気にする。
というか、この妹は推し活などというよく分からないことを口にして、ノルケーシア・チェレンダの周りで暗躍しているわけだが、本人は婚約者なども作る気はないらしい。妹ならば別に結婚などしなくても生きていけるだろうが……。
「それはそのうち考える」
『もう、お兄様ってば他人事だわ! 結婚相手はちゃんと考えた上で選ばないと駄目なのよ? お義姉様になる方が不幸になるのは嫌だからね? イケメンはちょっとぐらい冷たかったり、不義理でも許されるものだけど、私のお兄様がろくでなしとして広まるのはちょっと嫌だもん!』
「分かった」
……クライネアは割と我儘な人間である。というか俺に向かってこういう要望をぽんぽん言える存在なんて早々居ない。
ノルケーシア・チェレンダのために尽くしてはいるがそれも本人がやりたいからやっているだけのことだ。
クライネア本人もそれを自覚もしているし、ノルケーシア・チェレンダに何かを求めてはいない。ただ、本人が幸せになって欲しいなんて良く分からない状況で動いているだけだ。
俺の妹がこれだけ動いているのに何も知らずにのうのうと生きているノルケーシア・チェレンダには、勝手にいら立ちは感じている。何か行動を起こしたらクライネアに叱られそうだから動かないが、それでも面白くないものは面白くない。
もし仮に婚約者を作るとしても、クライネアに悪影響がある者だけは却下である。正直結婚相手なんて最低限の働きをしてくれればそれでいい。余計な真似をせずに、干渉もしてこない相手がいいだろう。
そうは思っているものの、クライネアは俺がそういう結婚をすることを望んではいないだろう。そう考えると婚姻相手探しは少し時間をかける必要はある。
適当な相手を選んでクライネアから文句を言われるのも出来れば避けたい。
『少しでも気になるお相手が出来たら教えてね。私が徹底的に調べるから』
「クライネアが個人的に調べる必要はないが」
『私が調べたいの。だって私のお兄様を任せられる相手かどうかは確認する必要があるの! お兄様が悪い女性に騙されたりしないように、私が守ってあげるから』
「ははっ」
本当に俺の妹はおかしい。俺を守るなどと口にする存在は、早々居ない。俺は一人でも何でも出来るから。
大多数は俺を守るなんて思考には至らない。それだけの行動をこれまで示してきた自覚もある。
それなのに俺よりも一つ年下の妹は、当たり前みたいに俺を守るなどと口にするのだ。クライネアらしいと言えばそうであるが、俺がどれだけ戦えるかなども把握しているのにこんなことをいう妹は本当に面白い。
『お兄様! 冗談だと思っていない? 私は本気だからね? 自分は騙されるわけないって思っている人に限って、騙されるんだからね?』
なんて、そんなことを言われて俺は「分かった」とそう答えておいた。
これからも妹は、推し活などといってノルケーシア・チェレンダを幸せにしようと動くだろう。
その様子を俺は兄として一先ず見守ることとしよう。




