整っていく日常〜(レイナ)
ご無沙汰しておりました。活動報告でもお伝えしましたが…
大変慌ただしく過ごしておりました。
入院した主人も集中治療室から一般病棟へ移り、本格的なリハビリが始まりました。
本当に……一時はどうなるかと……お医者様に感謝です。
さて!お知らせです♪(o^^o)♪
10月8日。書籍発売です!
https://www.kadokawa.co.jp/product/302608000708/
書籍は「解離性同一障害」と言う言葉を使わない事で、ちょびっとファンタジー色が濃くなりました(╹◡╹)
SSも書かせて頂き、応援店では特典ペーパーが付きます。
どうせなら特典ペーパーゲットして頂きたいので、購入して頂けるなら。
書泉 芳林堂・ゲーマーズ・応援店。をお勧めします。
新章入ります!
王妃宮の客室———。
少し早く起きたレイナは、窓を開けて朝の空気を大きく吸い込んだ。
「さぁ。今日は忙しいわよ!」
自分への気合いが溢れたその声に、部屋の端に置かれた椅子に座る女性護衛騎士がクスリと笑った。
「随分と張り切っておいでですね」
「だってドレッサーが届くんだもの」
レイナは振り返り柔らかな笑顔で返す。
新しく付いた護衛騎士マーリエ・グランドは夜間の見守りを任されていた。
深い緑色の瞳で、肩までの長さの癖のある黒髪をハーフアップに纏めている。
マーリエもキャロルと同じく妃陛下専属の護衛だった。
マーリエは椅子から立ち上がると続き部屋の扉へ向かう。
レイナが過ごしている客室は侍従の控え室が付いていて、二人分の寝起きが出来るスペースの部屋は今、侍女ではなく護衛騎士の控え室になっている。
マーリエがノックすると直ぐに扉が開かれた。
「キャロル、交代できますか?」
「はい」
早朝にも関わらず、キチッと身なりを整えているキャロルは、部屋を出てレイナに向けて頭を下げる。
「レイナ様、おはようございます」
「おはようキャロル」
レイナはキャロルに柔らかい笑顔と挨拶を返した。
「では、私は下がります」
「ええ、お疲れ様」
レイナの労いの言葉を受け取り、マーリエはキャロルと交代して控え室に消えた。
▽
ウィリアムがドケーシス公爵夫妻に謝罪した日から五日が経った。
あれから王室領はどこもかしこも慌しく……。
王城や王妃宮の侍従や使用人達は、妃達を受け入れる為の準備に追われている。
レイナとエタンセル、王太子妃となる二人の居所は王妃宮に決まった。
本来ならクレアはウィリアムの暮らす太子宮の側に建つ太子妃宮に住む筈だったが……。
クレアの障害に対応するなら、王妃宮の方が手厚くサポート出来ると判断された。
エタンセルには、これから妃教育が始まるが……本来なら何年も掛けて学ぶ内容を、早急に習得しなければならないので、そのサポートをレイナと王妃自らが行うべく、エタンセルの住居も王妃宮になった。
なによりエタンセル自身の『レイナ様のお側で過ごしたいですわ』と言う強い希望が大きかった。
後宮となる側妃候補達の居所はかつての太后宮が充がわれた。
もう何十年も主人のいなかった太后宮だが、常に手入れはされている。
昔、外国から嫁いで来た姫の時代に建てられた太后宮は、外国の建物の様式を多く取り入れた作りになっていた為、ごく稀にだが、外国からの来賓の滞在に使われることもあった。
来賓の滞在に対応出来る数の使用人を常に確保しているので、三人の側妃を急遽迎え入れる事にも対応出来た。
そうしてこの日は、ドケーシス公爵家から家財道具やドレスや日用品など、クレアの使っていた物が全て運び込まれる。
レイナは自分達の部屋になる場所には、仕掛け引き出しのドレッサーを置きたかった。
引き出しにシェイムとの交換日記を入れて、シェイムが現れた時に連絡が取れる様に……と。
その事を話したらリッター医師は。
『それは良いですね。ならばクレア様の自室を可能な限り再現しましょう。どの人格にも一番安心できる場所は馴染みのあるクレア様の自室でしょうから……ドレッサーだけじゃなく、他の家財道具も全部運んでしまいましょう』
『えっ? 全部?』
レイナは驚きに目を見開く。
その事自体は嬉しかったが……とんでもなく大掛かりな作業では無いか? と困惑した。
それでもリッター医師が言うには。
『もしもクレア様やシェイム様が現れた場合、馴染みのある物が近くにあった方が良いでしょう』
と譲らなかったため、医師の見解の下[お部屋そっくりそのままお引越し]は決定した。
決定したは良いものの……。
王妃宮の中にドケーシス公爵邸のクレアの自室に近い部屋が無い。
そもそも建物のタイプが全く違う上に一部屋のサイズが大きい、王家の人間が住まう場所なのだから当然の事なのだが……。
結果[部屋の中に部屋を作る]と言う様な形で話は纏まった。
クレアの部屋を再現する様に家具を配置して、壁の代わりにカーテンで囲おうと言う事に。
そうすると[部屋の中に部屋を作る]のならば、看護師や護衛達のスペースも作ろうと言う事になり……。
これにリッター医師は。
『安全面の確保の目処が立って良かった』
と安堵の溜め息を吐いていた。
これによりレイナの居室は王妃宮の一階にある大きな部屋に決まり、仕切る様に天井から床までピッタリと軽くて薄い絹地のカーテンが幾重にも垂らされた。
そこまで準備出来た部屋に、今日は家具を搬入する。
△
マーリエが控え室へ下がった直ぐ後、客室の扉をノックしてアニタが入ってきた。
「おはようございます」
「おはようアニタ」
レイナはアニタに手伝ってもらい身支度を始める。
「先程、ウィリアム殿下がまた訪ねて来られた様です」
アニタがレイナの髪をとかしながらそう言うと。
「じゃあまた追い返されちゃったのかしら?」
そう苦笑しながら言うと、アニタも小さく苦笑を浮かべて
「はい。その様です」
と答えた。
それを聞いていたキャロルもやはり苦笑を浮かべていた。
あれからレイナはウィリアムと会っていない。
正確には、王妃がウィリアムとレイナが会う事を許さない。
▽
ウィリアムがドケーシス公爵夫妻にリールとの事を告げ、謝罪をし……ウィリアムを責め立てる夫人を公爵が宥めた所でレイナは意識が途切れた。
次にレイナが現れたのは、王妃宮の応接室だった。
ーーーーーーーーーー
(……?)
レイナは涙でグシャグシャの顔を、ドケーシス公爵の胸に押し付ける様に力一杯抱きついていた。
背後からは王妃の泣き声と謝罪の声……母クラリスの泣き声も聞こえる。
振り向くと王妃と夫人が床にへたり込み、抱きしめ合って激しく泣いている。
(え〜〜〜〜⁈)
王妃の立場から……そして公爵夫人の立場からも、見せてはならない状態にレイナは動揺する。
周りにいる侍女達もオロオロと、これ以上無い程に戸惑っているのが分かった。
「……レイナかな?」
そう優しく声をかけられて向き直ると、公爵は困った様な笑顔でレイナを見下ろしていた。
「お父様……これは一体……?」
「あ〜〜……さっきまでレアだったんだが……クラリスと妃陛下の取り乱し様に驚いてしまってね。つられて泣き出してしまったんだよ」
そう言って公爵は、取り出したハンカチで、レイナの頬を濡らしている涙を拭う。
「ほら、我々はウィリアム殿下との面会の後、王妃宮に呼ばれていただろう———。しかし私達の顔を見た途端に妃陛下が……感情が溢れてしまったみたいでね……それにクラリスも……」
それを聞いてレイナは再び二人に目を向ける。
(ヘルミナ様はウィリアム様とリールさんの事を、陛下からお聞きになったって聞いたわ……昨日からずっと辛さを抱えてらしたのね。赤の応接室にも来られなかったし……よっぽどショックだったのね)
王妃と夫人は随分長い時間、泣き止まなかった。
△
あれからウィリアムは何度も王妃宮に足を運んでいる。
だが一度として中へ通される事は無かった。
(まぁ……ヘルミナ様のあの様子では……暫く会わせて貰えないかしらね)
レイナはそう思いながら苦笑いを深めた。
◇◇
家具の搬入が終わったと知らせを受け、レイナはアニタとキャロルを伴い、新しい自室へと向かう。
部屋に入ると、ドケーシス公爵家の執事長ムーロが居た。
「ムーロ! 来てくれたの⁈ 嬉しいわ!」
執事長として忙しいムーロが来るとは思って居なかったレイナは歓喜に声が弾む。
「お嬢様! お元気そうで良かった。お嬢様にお会いしたくて、他の者に仕事を押し付けてやって参りました」
ムーロは目尻の皺を深めて笑う。
「まぁ! ムーロったら。きっと皆んな困ってるわよ!」
叱るような口調だが、レイナは満面の笑顔が崩れない。
「ははははっ。そうですな。お嬢様をお部屋へご案内しましたら、お暇致します」
そう言って、ムーロはレイナの手を取り部屋へとエスコートする。
「わぁ……」
カーテンの向こう側に、馴染んだ部屋が現れた。
「凄いわ……本当に全部持ってきたのね……」
レイナは部屋の中へ進み、ソファを撫でる。
「如何ですか? お嬢様」
「…………凄く嬉しいわ」
レイナはムーロの問い掛けにそう答えた。
(リッター先生の言う通りだった……凄く落ち着くわ)
感無量な様子のレイナを少し眺めてから、ムーロが口を開く。
「それでは私はお暇致します」
「!。あっ……そうね!」
レイナは慌てて駆け寄り、ムーロの手を取る。
「ムーロ……忙しいだろうけど、また来てほしいわ」
馴染みの部屋にいるせいか、レイナは珍しく甘えた言葉を溢した。
その言葉にムーロは少し目を見開くと、柔らかく目を細めて口を開く。
「はい。また皆んなに仕事を押し付けて、こちらへ伺わせて頂きます」
ムーロの言葉に今度はレイナが目を見開き、次いでクスクスと笑った。
ムーロが帰り———。
少しの寂しさを漂わせているレイナにアニタが声を掛ける。
「また直ぐ会えますよ」
アニタの言葉にレイナは寂しさを振り払う。
「そうね。きっと直ぐ来るわ。皆んなに仕事を押し付けて」
そう言ってアニタと共にまたクスクスと笑った。
「そうだアニタ、ノートを頂戴」
ひとしきり笑った後、レイナは一番の目的だったドレッサーに向かう。
「どうぞ、お嬢様」
そう言って、アニタは腕に掛けていた袋から六冊のノートを取り出した。
レイナはノートを受け取り、ドレッサーの引き出しの二重底を開けて仕舞う。
(これで……シェイムが出て来ても連絡が取れるわ)
レイナは引き出しを閉めてドレッサーを撫でた。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
(……あら? ここは……)
レイナは大きな書棚の前に立っていた。
「プラセル、この本とかどうかな……」
掛けられた声に振り返ると、レイナは大きく目を見開く。
「?!………ウィリアム様?」
書籍、表紙のクレア(レイナ)の持ってる花束は「ニゲラ」です。
クレアのイメージの花です。




