モネ……(3
【第14回ネット小説大賞】恋愛部門入賞しました(°▽°)
ひとえに読者様のお陰です。ありがとうございます。
活動報告の方に感謝を綴ってます。お時間ある時にでも一読して頂けたらと思います。
ブクマ・評価・リアクションありがとうございます。
誤字報告感謝です。
感想を下さる読者様。ありがとうございます。
余裕が無く返信できませんが(汗)
有り難く読ませていただいてます(^人^)
サーシャの葬儀を終えた日の晩———。
眠るティアを見守りながら、モネはサーシャの言葉を思い出していた。
『もしも私に何かあったら……テオと赤ちゃんをお願いね———。守ってあげて』
静かな寝息を立てるティアを見つめてモネは想う。
(サーシャ様と同じ髪……同じ瞳……)
サーシャの面影を色濃く宿したティアに寂しさが募り、知らずに涙が流れていた———。
(———必ずお守り致します)
◇
半年程……ラクリマ伯爵家は深い深い悲しみに包まれる———。
その悲しみが晴れたのは、ティアが初めて笑い声を上げた時だった。
ティアをあやしていたモネが、持っていたガラガラを床に落としそうになる。それをかろうじてテオが受け止めた。
「おっとっと———」
「きゃはははははは」
光が弾けるように……花びらが舞うように……
邸宅に立ち込めていた悲しみが晴れて行く……
笑ったティアの顔を、それを見たテオの顔を……笑顔を———。モネは一生忘れないと思った。
「お父様! お父様! 今日、ティアが笑ったんだよ! すごい可愛かった!」
テオが世紀の一瞬とでも言うように、帰宅したジェイデンに伝えると。
驚いた顔から、久しく見なかった曇りのない笑顔に移る。
「! そうか! 笑ったか。一番に見れて羨ましいな」
羨む言葉を返されたテオは、誇らしげな様子で。
「お父様だって直ぐ見られるよ」
そう言ってやや上から目線で返す。
「ははははっ——。そうだな。直ぐティアに会いに行こう。笑ってくれるかもしれない」
そのやり取りを聞く使用人達に笑顔が広がる。
モネも目を細めて見守る。
(ティアお嬢様が幸せを呼び戻してくれた……)
◇
サーシャが亡くなって二年が経った頃、小さな騒ぎが起こる。
薔薇の鑑賞会に招かれたテオが、同じ年頃で同格位の伯爵令息とケンカをした。
茶席スペースから少し離れた広場に居たテオと数人の令息達。
その内の一人と些細な言い争いから掴み合いになったようで———。
モネが駆け付けた時は、倒れたテオに少年が馬乗りになり……殴られそうになっている所だった。
少年の振り上げた手をモネが掴む。
「《ヤメテ!》」
少年の動きがピタリと止まった。
しばしの沈黙が流れた後、側にいた少年の友人が揶揄う様に口を開く。
「使用人に止められた位でやめるのかよ〜」
その言葉にモネの瞳が怪しく輝く———。
少年の怒りの矛先は友人に向けられ、モネの手を振り解く。
「うるさい! バカにするな!」
少年達は掴み合いのケンカを始めてしまった———。
「テオ様! 大丈夫ですか?」
「………うん」
モネはテオを立たせて、ケンカに巻き込まれない様に距離を取る。
騒ぎを聞いて駆け付けた侍従達とすれ違う様に、テオを連れてその場を離れた。
「テオ様がケンカだなんて……何があったんです?」
「……………」
話したくないのか……テオは黙って俯いている。
「………旦那様には報告しません。モネにだけ教えてもらえますか?」
その言葉にテオが顔を上げる。
「……あいつ……『お前の所にも直ぐに継母が来る』って……『継母が来たら父親は子供を捨てる』って言ったんだ……」
テオは体を震わせ、目に涙を浮かべながら話した。
「———そんな事を……」
(確か———あの令息の家は離婚騒ぎがあった筈……『お前の所にも』と言う事は……後妻が迎えられたのかも……)
八つ当たりされたのだろう。と推察すると、モネはテオを優しく抱きしめて———。
「大丈夫です。旦那様は再婚なんて致しません」
「……そうかな」
「もしも再婚なさる時は、必ずテオ様にご相談なさいますし。旦那様がテオ様とお嬢様を捨てるなんて絶対ありません」
そう話すモネの瞳が微かに輝く。
「———そうだよね———」
「そうですよ」
テオはモネの言葉に納得し、落ち着きを取り戻す。
「お疲れでしょう? 今日はもうお暇しましょう」
「———うん」
◇
伯爵邸に向かう馬車の中———。テオは乗って直ぐに眠ってしまった。
眠るテオの向かいに座ったモネは、酷い倦怠感に襲われている……突然目覚めた能力を使ったからだった。
(———私にも……能力があったんだ……)
モネの生まれた村の住人にかつてあった能力は[人を操る]事だった。触れる事で心を乗っ取れる。
しかしそれも昔の話———。
能力が使えたモネの父と兄も、心を乗っ取れる程では無かった。
触れている間は操れる……離してしまえば『少し意識を変える』のが精々。
力が発現したばかりのモネは操る力も弱く……気持ちも矛先を変えるのが精一杯だった。
(練習しないと———)
◇
「モネ〜〜」
柔らかい薄茶の髪を揺らし、手に花冠を持って掛けて来る女の子———。ティアは四歳になった。
ジェイデンやテオ、屋敷の侍従達に大切にされ。ティアはすくすくと健やかに育つ。
「ティア! 走ったら危ないよ!」
「いーやー! ティアがモネにわたすのー」
「それは分かってるから! 走らないで!」
ティアの後を追う様にテオも走って来る。
ポスンとモネの足にしがみ付いたティア。
「モネ。しゃがんで〜」
そう言って明るい蒼い瞳を輝かせている。
(益々似てこられた……)
モネが目を細めて微笑み、ティアに目線を合わせる様にしゃがむ。
「おにいさまに作ってもらったの。モネにあげる。モネのお目目と同じピンクのお花。きれいでしょー」
そう言ってティアは背伸びをして、持っていた花冠をモネの頭に乗せた。
「ハァ…ティア、満足?」
追いついたテオが呆れた様子を乗せた笑顔で尋ねると。
「うん。まんぞく。モネ大好き〜」
そう言ってモネに抱き付いた。
「お嬢様。モネも大好きですよ」
モネは優しく抱きしめ返す———。
ティアはモネとテオに挟まれる様に、三人並んで手を繋いで邸宅に帰る。
(お嬢様……誰よりも幸せに……お嬢様の思う幸せな人生を……)
◇
この頃、ジェイデンに再婚の話が持ち掛けられる。
これまでも、何件も再婚話は持ち掛けられていた。
ジェイデンは穏やかで優しい美丈夫。まだ三十二歳の男盛りで引く手数多……それを全て断って来たジェイデンだったが———。今回の相手は格上の侯爵家からの申し出だった。
その家の令嬢がジェイデンに甚くご執心だとかで———。
断り切れずに、その日その侯爵と令嬢がラクリマ伯爵邸を訪れていた。
面会を終え、モネが二人を馬車まで案内した。
「ジェイデン様のお子様達は良い子かしら?」
馬車を目の前にして、不意に令嬢から掛けられた質問———。
「………はい。物分かり良くとても優しいお子様達です」
モネがそう答えると。
「そう———。物分かりがいいなら……外国の寄宿学校に入れるのも良いわね」
令嬢は馬車に乗りながらそう呟いた。
モネはその言葉に背筋がざわりとする。
(この人はあの女と同じだ———)
思い出すのは継母の姿……村で受けた仕打ち……。
動き出す馬車に頭を下げながら思う。
(あの令嬢はダメ———)
「モネ……」
モネは背後から掛けられた声にビクリと体を揺らす、後ろに居たのはテオだった。
「あ……驚かせてごめん……」
「テオ様———どうかなさいましたか?」
「………」
テオは話し出せずに左手で首の後ろを掻いている。
「テオ様?」
「———モネは……どう思う?———父上は、再婚するのかな……」
「……分かりません。テオ様はどうですか?———再婚して欲しいですか?」
「僕は……」
テオはゆらゆらと瞳を揺らして迷った後、目をギュッと瞑り。
「僕は嫌だ———でもそんな事……」
テオの不安の発露———。それを聞いてモネは覚悟を決める。
「ぼっちゃま……それをそのまま旦那様に話せば良いと思います。旦那様に明日話す時間を取って頂く様お願いしておきます」
テオは緊張した面持ちで……それでも決意を込めた瞳で。
「……うん。そうする……ありがとう」
そう言って、テオは走って邸宅に戻って行った。
◇
その晩———夜更けに差し掛かる頃。モネはジェイデンの寝室を訪ねた。
「モネ? どうしたんだい? こんな時間に……」
扉を開けたジェイデンはパジャマの上にガウンを羽織っている。廊下にはワンピーススタイルのナイトウェアの上に薄いカーディガンを羽織ったモネ。
「旦那様……テオ様の事で、少しお話が———」
「テオ? そうか……あぁ、入ってくれ」
息子についての話ならば、腰を据えて聞かなければと、ジェイデンはモネを寝室に招き入れた。
ジェイデンの寝室は浴室と私室に挟まれて、内扉で両方と繋がっている。
ソファの側のサイドテーブルには、執務室から持ち込んだ仕事の書類が幾つか置かれていた。
「まだお仕事をなさってたんですね……あまりご無理なさいません様に……」
ソファに座る様促されたモネは心配気に言葉を掛ける。
「ああ、無理はしてないよ。丁度終わった所だしね——。それで?……テオがどうかしたのかい?」
ジェイデンはモネが座った三人掛けソファの隣、直角に置かれた一人掛けソファに座って、モネに聞き返した。
「………今日訪ねて来られた侯爵様とご令嬢の事を……気に掛けておいでです」
「———そうか……そうだよね……」
「なので私はテオ様に、思ってる事をそのまま旦那様にお話するべきだとお伝えしました。明日話す時間を取って頂く様お願いしておきますとも——」
ジェイデンは目を見開いてモネを見る。そして柔らかく微笑み。
「ありがとう……モネ。君が居てくれて良かった———明日、テオと話すよ」
ジェイデンの返答にモネは目を細めて。
「ありがとうございます———。では、私は失礼致します。おやすみなさいませ……」
そう言って立ち上がったモネに、ジェイデンも就寝の挨拶を返す。
「ああ……おやすみ」
ジェイデンは———。
立ち上がったモネはドアに向かうと思った……話は終わったのだからドアに向かい、部屋を出ていくと思った……
モネはジェイデンの前に跪き、膝に置いた手に手を乗せた———。
モネの瞳が輝く。
「———サーシャ………」
モネは、サーシャの名を呟いたジェイデンの右手を、自分の頬へ運ぶ……大きなジェイデンの手が震えながらモネの頬を撫でる。
「………サーシャ」
次の瞬間———。ジェイデンの左手がモネの後頭部を押さえて、強く口付けられた。
モネにとっては初めての口付け………跪くモネに覆い被さる様にジェイデンの腰が浮いた。
強く強く押し付けられる唇。ジェイデンの右手が跪くモネの腰に周りグイッと落ち上げ立たされる。
モネの頬や瞼にパタパタと涙の雫が降って来る。ジェイデンは泣きながら何度も口付け———合間に言葉を紡ぐ。
「……ん…はぁ……サーシャ……会いたかったサーシャ……愛してる……」
『あなた……ジェイデン……私も愛してるわ……』
「サーシャ……サーシャ……………愛してる」
ジェイデンは心に住むサーシャと話している。そして口付けは深いものへと変わった。
モネは必死に鼻で呼吸し、差し込まれた舌に懸命に応える。
次の瞬間———ジェイデンは後頭部を押さえていた左手を尻の下に回し、モネをかかえ上げた。
唇が離れジェイデンの顔が見える。
モネを仰ぎ見る顔は笑顔だが———。切なげに眉を顰め、止めど無く涙を流す瞳は愛しい妻を見ている。
ジェイデンの肩に置いたモネの手にグッと力が入り、顔に罪悪感が滲む——。その罪悪感を振り払う様にジェイデンの首に腕を回して強く抱き付く。
モネのピンクの瞳が一層輝いた……
モネの弱い能力では夢を見せる事は出来ない———。だから起こったことを夢だと思わせるしかない。
(集中して……力を流し続けて)
『ジェイデン……愛して欲しいの……』
ジェイデンはモネをベッドへと運んだ。
◇
翌朝———。
ジェイデンはソファで目を覚ます。
「………?」
三人掛けのソファに横になっているジェイデンは長い足が肘掛けから飛び出している。
横に目をやるとサイドテーブルにはやり掛けの書類がある。
(……ああ……モネが出て行った後、仕事の続きを———。いつの間にか寝てしまったのか……)
起き上がり寝室を見回した後、ベッドへと足を運ぶ。
目の前の崩れの無いベッドに視線を落として、ジェイデンは見た夢を思い出す。
生々しく思い出される肌の感触……吐息……
(———サーシャ!)
羽織るガウンの胸元を右手でギュッと握りしめ、左手で顔を覆う———。
(……まだこんなに愛してる……)
◇
侍従の住まう棟にモネの部屋はある———。
モネは熱を出して寝込んでいた。
コンコンコンと扉が控えめにノックされ、扉をそっと開けて侍女長が入って来る。その後ろにはジェイデンが立っていた。
「モネ……具合はどう?——。旦那様がお見舞いに来てくださったのよ。お話し出来そう?」
「旦那様?」
モネは慌てて体を起こそうとする。
「ああ! 良いんだ。そのまま寝てなさい———モネが熱を出すなんて珍しいね……」
「ええ、本当に」
侍女長がジェイデンの言葉に返事を返しながら、モネが寝ているベッドの横に椅子を持って来る。
「どうぞ、旦那様」
「ありがとう」
そう言ってジェイデンは腰掛けた。
側に来たジェイデンにモネは夜の事を思い出して頬が熱くなる。
「……熱はだいぶ下がったって聞いたけど……まだ顔が赤いな……いつも頑張ってるんだ。こんな時位、ゆっくり休むと良いよ」
「———はい。すいません……ありがとうございます」
「うん———。それと……昼間にテオと話して来たんだ」
「! テオ様のご様子はどうでしたか? 大丈夫でしたか?」
一番気掛かりなテオの話題になり、モネは再び体を起こしそうになる。
それをジェイデンは優しく嗜めて、反対側に立っている侍女長が毛布を掛け直す。
「———テオは、再婚して欲しくないって言っていた。新しい母親は欲しくないって……だから、私は———再婚するつもりは無いって伝えた」
その言葉にモネと侍女長が大きく目を見開いた。
「もう、決断なさったんですか?」
侍女長が尋ねると、ジェイデンは深く頷いて。
「今回も政略的な事が絡んでいないし。何より私はまだ……サーシャが忘れられないみたいだ———。そんな気持ちで新しい伴侶を迎えるのは不誠実だろう? 多分……この先も———再婚はしなくて良いと思ってる……テオとティアには君達、邸の皆んなが付いていてくれるしね」
そう言ってジェイデンは晴々とした笑顔を二人に向ける。
ジェイデンの言葉に侍女長は涙を滲ませて、何度も頷いていた。
「モネがテオの事を教えてくれたお陰だよ。ありがとう———。具合が悪い所に長居しちゃいけないね。もう戻るよ。モネはゆっくり休みなさい」
ジェイデンはそう言って、モネの頭を一つ撫でてから部屋を出て行った。
「後で夕食を持って来るから——もう一眠りした方がいいわ。おやすみモネ……」
そう言って部屋を出て行く侍女長をベッドの中から見送り、モネは安堵のため息を吐く———。
(……良かった———これで大丈夫です。サーシャ様……)
ジェイデンにご執心の侯爵令嬢は、しつこく面会に訪れましたが……隙を見てモネが触れ、侯爵令嬢が持っていたテオとティアを厭う感情をジェイデンに向ける様に矛先を変えて追っ払いました。




