第33話 3日目の長い夜②
「立華くん!?」
「……いっ……今寺さん!?」
宿舎の事務室の中にいたのは、今寺彩葉だった。
「どうしてここに?」
彩葉が楓真に問いかける。
「俺は、倉庫の鍵を柚花から返してほしいって言われて……」
「どこの倉庫の鍵?」
「分からない。倉庫の鍵としか聞いてないから。それより、今寺さんこそなぜここに?」
「私も、食堂の鍵を返しに来て……」
「2人とも同じ境遇か」
楓真は少し苦笑いした。
「ま、お互い早くキャンプファイアー行ったほうが良いだろうし、戻ろうか」
「うん」
楓真と、彩葉は鍵を元の場所に戻してドアに向かう。
「…………うん?」
楓真はドアに手を当てた瞬間、違和感を覚えた。
「どうしたの?」
彩葉が覗き込む。
「今寺さん……もしだけど、ここから出られなくなったらどうする?」
「え? 出られなくなったら……って、そんなわけ無いでしょう? 早く出ようよ」
彩葉は、少し楓真を急かすように言う。
しかし、楓真はなかなかドアを開けない。
「え? どうしたの? …………まさか……」
「そのまさかだ。ドアが開かない……」
「えぇ? なんで? 立華くんちょっとどいて?」
彩葉はドアの前に行く。
ドアノブをひねるが、ドアは開かない。
「っ! 見てこれ!」
彩葉はドアノブになにかを見つけたようで、楓真に教える。
「…………鍵穴がない……」
「うそだろ!?」
楓真は彩葉に言われた通りに、ドアノブを見るが、そこには鍵穴がなかった。
「内側からは開かないようになってるのか……てかここ牢獄じゃねーんだから!」
楓真はそう言いながら、事務室のなかを見渡す。
ドアのすぐ左側には、机が並べられパソコンが置いてあった。右側には、楓真たちが持ってきた鍵を置く場所がある。
奥には何やら机や椅子が並べられてあり、会議室みたいな感じになっていた。
広さは学校の教室ほどしかない。
「今寺さん……スマホ持ってる?」
彩葉はポケットを確認して言う。
「……持ってない…………立華くんは?」
「俺も部屋に置きっぱなしだ……」
「連絡手段もないかぁ……」
彩葉は落ち込む。
「……変なこと聞くけど、今寺さんはキャンプファイアーどうやって過ごす予定だったの?」
「実行委員の私にそれ聞く?」
「え? そうだったの?」
「知らなかったの?」
彩葉は少し笑って話始める。
「キャンプファイアーって最初に実行委員の劇、有志の出し物。で、最後にダンスだね」
「実行委員の劇、大丈夫なのか? おそらく俺たち、キャンプファイアーの開始時刻には、間に合わないと思うけど……」
「ううん。大丈夫。私、出演者じゃないから」
「あ、そうなんだ……」
「有志の出し物はダンスとか、歌とかかな。ダンスは適当に踊る感じ?」
「なんで疑問形なんだよ……? 俺が聞いたとこによると、男子同士、女子同士、もしくは男女で、なんでもいいからペアやグループ作って踊るみたいだけどな」
「だから、今日1日みんな誰と踊るとかいう話してたのかー。私も誘われたわー」
「誰かと踊るの?」
「いや、私は実行委員で忙しいから踊る人は決めてないなー。最後、柚花ちゃんと踊るかもしれないけど……」
「そういや、あいつも実行委員だからな……。あいつは劇出るの?」
「うん。主役だよ」
「すげぇ……」
「てか私たち、完全に出ること諦めてるね……」
「まぁ、実際に出られねーからな……」
「ドアを叩いてたら、誰かに気づいて貰えないかな?」
「いや、宿舎の人もキャンプファイアーに行ってるはずだから、宿舎の中には多分俺たちしかいないはず……」
「そんな……じゃ、窓からとかは?」
「俺も考えてみたけど、小さすぎる」
「じゃあ、みんなが帰ってくるまで待たなきゃいけないってことかぁ…………」
「7時32分。キャンプファイアー始まったな……」
楓真は、事務室に置いてある時計を見て呟く。
(みくとは、絶対に踊りたい。ダンスの時間がどれくらいなのかは分からないけど、8時半くらいまでには、脱出しておかないと……)
楓真はそう思っていたが、脱出する術はほとんどない。
薄暗い事務室で、楓真と彩葉は黙り込む。
何分かその状態が続いた。
沈黙を破ったのは、彩葉の一言だった。
「……非公式生徒会って……楽しい?」
「えっ?」
「……ほら、立華くんってほぼ強制的に、非公式生徒会に入ったから……実際楽しいのかなって思って……」
「うーん……。どうだろうな……。楽しいと言えば楽しいのかな。そりゃ、まだ俺だって蒼桜に振り回されたり、みくとの2人の時間潰されたり、片谷にいらついたりするけど、これはこれでいいのかなって最近思うようになってきた」
「……そっか……立華くんって青春してるんだね……」
「俺の思い描いた青春とは違うけどな……」
「……私は、あんまり楽しくないな……思ってたより、生徒会みたいな感じはしないし……なんか、遊んでるだけな気がするんだよね……」
彩葉は非公式生徒会と、吹奏楽部を兼部しているのだ。
「吹奏楽のほうが楽しい?」
「……うん……」
「…………『生徒会』って……なんなんだろうな……?」
続く
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