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 もしなにか盗むとしたら、おそらくは放課後のはず。

 そう考えた僕たちは、隠れて教室の様子を見張ることにした。


 隠れる場所は白糸台さんたちのクラスのベランダ。風が吹き抜けることを除けば、絶好のポイントと言える。

 といっても、放課後となった瞬間にベランダに身を躍らせるわけにはいかない。

 なにせ僕たちはこのクラスの一員ではないのだから。


 作戦としてはまず、僕と和夢子は廊下の端にでも寄って時間を潰す。

 このとき、白糸台さんと黒部さんには、適当に喋りながら他の生徒が誰もいなくなるのを待っていてもらう。

 教室内にふたりだけの状態となったら顔を出し、僕と和夢子を呼び寄せてもらう。


 そしてそのまま四人でベランダに直行。ドアを閉めれば教室内は完全に無人となる。

 ベランダへと出るドアの鍵が開いている状態ではあるけど、簡単には気づかないだろうし、気づいたとしても鍵を閉め忘れただけと判断されるだろう。


「ほんとに来るかな?」

「わからないけど、今は犯人を特定するしかないわ。確認できるまで、何日でも続けるからね。もっとも、あんずちゃんの持ち物がなくなるのって、随分と頻繁に起こってるみたいだし、そう長く続ける必要はなさそうだけど」


 和夢子の予感は的中する。

 教室に、誰か入ってきたのだ。

 それは案の定、灰吹くんだった。


「やっぱり、あいつだったのね……!」


 ギリギリと歯を鳴らす黒部さん。今にも飛び出していきそうな勢いだ。

 というか、和夢子のほうが先に飛び出していくのではないか。

 僕はそう考えていたのだけど、和夢子は思いのほか冷静だった。


「ここはじっくりと様子を見るわよ。まだたまたま教室に戻ってきただけって可能性もあるんだから」


 静かに頷き合うと、僕たちは息を殺し、窓から教室内をのぞき込み続ける。


「あ……ボクの席……」


 ぽつりとこぼされた白糸台さんの声が示すとおり、灰吹くんが迷うことなく一直線に向かった先は彼女の席だった。

 しかも、周囲を警戒するようにきょろきょろ見回したかと思うと、机の中に手を伸ばしたではないか。


「これであいつが犯人だって確定ですね」


 黒部さんが言っているように、これで決定的な証拠をつかんだことになる。

 教室へと飛び込んで、現行犯として取り押さえるべきかな?

 黙ったまま目線を送ってみると、和夢子は軽く首を左右に振った。


 今はまだ突撃のタイミングではない、と言いたいのだ。

 和夢子がそういう意思でいるのなら、僕が勝手な行動に出るわけにはいかない。


 灰吹くんは机の中からなにか本のようなものを取り出して、パラパラとめくっているみたいだった。

 紙のカバーがかけられていて、ここからではよくわからなかったけど、サイズから察するに教科書だと思われる。

 ただ、灰吹くんはそれを盗んだりはせず、しっかりと机の中に戻していた。


 さて、次はなにをするのかな?

 最終的になにを盗んでいくのかな?

 白糸台さんには悪いけど、ちょっとハラハラドキドキしていた。

 そんな僕の気持ちを置き去りにして、灰吹くんは教室を出ていってしまう。


「あれ? なにも盗まなかった……?」


 答える声はない。他の三人も怪訝に思っているのだろう。

 なにか盗んだとわかったら、その瞬間に飛び出して捕らえる、という手段が取れる。

 でもそうでないのなら、隠れて行動を盗み見ていたこちらのほうが明らかに怪しい。

 灰吹くんを追いかけていって呼び止めることなんて、今の僕たちにできるはずもなかった。


 教室を去った灰吹くんが戻ってくる気配はない。

 僕たちはベランダから出て、白糸台さんの机の周囲に集う。


「あんず、なにか盗まれてない?」

「灰吹くん、さっき教科書かなにかをパラパラとめくってたよね?」

「そう……ですね。確かめてみます」


 僕が言及すると、白糸台さんは机の中から一冊の教科書を取り出し、ページをめくって確認し始めた。


「あっ、なくなってます! この教科書に挟んであったお気に入りの栞が!」


 灰吹くんが犯人だとの確証を得ることに成功した瞬間だった。


「ちょっと待って。どうして教科書に栞を挟んであったの? あんずちゃん、あなた他の教科書にも栞を挟む習慣があるの?」


 和夢子が真面目な顔で問う。


「い……いえ。今日はたまたまこの教科書に挟んであっただけです」

「どうして?」

「えっと、灰吹くんがボクの読んでる小説をどうしても読みたいって言うから、まだ途中だったけど貸してあげたんです。挟んであった栞を教科書に移して、ページ数はメモして……」

「あんず! なんでそんなことしちゃうの!? 相手はあの灰吹くんなのよ? きっと、あんずがどんな本を読んでるか興味あって、それで読みたいなんて言ったに決まってるわ!」


 黒部さんは怒りをあらわにしていたけど、白糸台さんのほうは落ち着き払っていた。


「大丈夫だよ~。だいたい灰吹くん、ボクがどんな小説を好んで読んでるとか、そういうのは最初から知ってるみたいだったし。ボクにはこれがお薦めだって、いくつかの小説のタイトルも教えてもらったよ~」

「だから! あいつ自身が危ないって言ってるの! どうしてウチの知らないところで、交流なんて持っちゃってるのよ、いやらしい!」

「のんちゃん、いやらしいってのは違うと思うけど……。交流っていっても、クラスメイトで同じ部活なんだから、少しくらいお話してもおかしくはないでしょ~?」

「そりゃそうだけど……!」


 おとなしい白糸台さんがこんなに反論するなんて、かなり稀な事態なのではないだろうか。

 ともかく、親友同士の珍しい言い争いに、ここで和夢子が割って入る。


「ケンカはいいから。ともかく、少なくとも今日の盗難の犯人は灰吹くん。それは間違いないわ」

「うん」「はい」「そうですね」


 僕を含め、みんな頷く。


「状況的に考えて、他の盗難事件も灰吹くんが犯人という可能性が高まったと言えるわ。今後はその前提に乗っ取った捜査を開始するわよ!」


 熱意のこもった和夢子の声が、僕たち四人以外誰もいない教室内に響き渡った。

 本格的に、灰吹くんを犯人と断定しての捜査が、これから始まることになる。


 僕はなにやら不安めいたものを感じていた。

 だけど、和夢子が気合いを入れて行動すると必ずと言っていいほど失敗する、そんないつもどおりの展開が心配なだけだと、勝手に結論づけてしまった。

 それも仕方がないことだっただろう。

 背後で別の思惑がうごめいていることなど、このときの僕たちには知るよしもなかったのだから。


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