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 灰吹くんが犯人であることを突き止めた僕たちは、一年生ふたりを引き連れてワーム探偵事務所の部室へと向かった。

 作戦会議だ。


 盗まれたことを確認したのは、栞が一枚。

 窃盗事件として認定するには被害が小さすぎるけど。

 どんなに些細なものであれ、盗まれたことに変わりはない。犯罪は犯罪だ。


 とはいえ、被害者である白糸台さんとしても、あまり大っぴらにしたくはないとの意向だったので、先生に相談する方法は早々に棄却された。

 だったらどうするか。

 そりゃあ、本人を直撃するしかないだろう。

 話し合えばわかる。知らない仲ではないのだから。


 灰吹くんはおとなしそうな性格みたいだし、問い詰めれば素直に謝ってくれるに違いない。

 その上で、もう白糸台さんの持ち物を盗むのはやめるように強く言い聞かせれば、事件はあっさり解決だ。

 そこまで簡単に行くかは、はなはだ疑問だけど。

 他によさげな方法が思いつかないのだから、この作戦で突き進むしかない。


「あっ、今までに盗まれたのも返してもらいたいかも……」


 白糸台さんが遠慮がちに意見を述べる。


「それは当然でしょ? できるようだったら、みたいな言い方なんてしないで、絶対に取り返してください、くらいの勢いでいいわ!」


 和夢子の言葉に僕も頷く。


「あんず、あの栞も気に入ってたもんね! シャープペンだって可愛い絵が描いてあるやつだったし!」

「うん。あと、縦笛とか体操着とかも、返してもらいたいかも……」

「ん~、それはべつにいいんじゃない?」


 おや?

 黒部さんが予想外の反応をする。

 盗まれたものはすべて返してもらうつもりではなかったのだろうか。

 僕はそれを指摘する。


「だって、もう買い直してますから必要ないですよ」

「それを言ったら、栞やシャープペンだってそうじゃないの? 替えがあるからまだ買い直していないとしても、買おうと思えば買えるよね?」

「でも、お金がかかっちゃうじゃないですか。あんなやつのせいで余分にお小遣いが減っちゃうなんて、あんずがかわいそうです!」


 この言い方から推測するに、縦笛や体操着は授業で必要なものだから親がお金を出してくれた、ということか。


「それはそうかもしれないけど……」

「だいたい、あいつに舐められた縦笛、あんずは吹こうと思うの? あいつが匂いを嗅ぎまくったり、もしかしたらあいつが着たりとかまでしたかもしれない体操着を、着ようと思う?」


 黒部さんは納得の行かない様子の白糸台さんに対象を切り替え、同意を得ようと試みる。


「え……? うん、でも、洗えば大丈夫じゃないかな?」


 あえなく失敗。


「ダメよ、そんなの! 親友のあんずがそんな穢れたものを使うなんて、ウチが耐えられないわ!」

「……新しいほうの縦笛と体操着だって、側杖先輩に舐められたり匂いを嗅がれたりしたけど……」

「それは、えっと……、洗えば大丈夫よ!」

「のんちゃん、言ってることがおかしいよぉ~」


 そう言いながらも、笑顔をこぼす白糸台さんだった。自分のために必死になってくれているのは充分に伝わっているからだろう。

 ただ、どうして黒部さんがそこまで必死になっているのかは、僕にはよくわからなかった。


「でも……ボクの縦笛と体操着を灰吹くんが持ってるっていうのは、ちょっと嫌かも……」

「だったら、縦笛と体操着は捨てるようにウチがあとできつく言っておくから。それでいいわよね?」

「あ、うん。お願い」


 親友同士の話し合いは、これにて決着がついた。

 和夢子は今のを見てどう思ったのかな?

 ふと気になって視線を向けてみると。


「すーすー」


 完全に船を漕いでいた。立派な鼻提灯まで作りながら。


「って、寝るな~っ!」


 スパーン! と大きな音を立てて、僕の平手打ちが炸裂。


「な……なにするのよ! ちゃんと聞いてたわよ?」

「ヨダレも垂れてるけど?」

「そ、そんなことないわ!」


 否定しつつも、和夢子は口の下辺りを制服の袖でこしこしと拭う。

 制服、溶けたりしないだろうか、といった心配はさすがに無用だったけど。

 作戦会議で議長が眠っていたとしたら、あまりにもひどすぎる。


「とりあえず、盗んだものは返してもらう、一部は廃棄してもらう、ってことでいいかな?」


 和夢子が聞き逃していた可能性のある部分をまじえて、僕は一年生に確認を促す。


『はい』


 ふたりが声を揃えて答えると、和夢子が勢いよく立ち上がった。


「それでは、これにて会議は終了! 決行日は明日の放課後よ! 灰吹くんの下駄箱に手紙を入れておくことにするわ! 帰りのホームルームが終わったら誰もいなくなるまで教室で待っているように、ってね!」


 意外にも、和夢子はしっかりと作戦を練っていたようだ。

 会議中に寝ていたのでは、なんて疑って悪かったかな。

 と思ったのも束の間。


「あっ、反対側にもヨダレが垂れてたわ。たこわさを山ほど食べてる夢を見てたからかしら」


 こしこしこし。今度は左手の袖で口の下を拭う。

 眠っていたのは結局事実だったんじゃないか。感心して損した。

 所詮、和夢子は和夢子だってことか。


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