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 一年生ふたりが去ると、部室内はシーンと静まり返った。

 まぁ、そもそもの騒音の原因は一年生にあったわけではなく、和夢子とふたりだけのときからうるさい状態ではあったのだけど。


 ともかく、まずは状況を整理しておくべきか。


 事実かどうかの確証はないものの、どうやら灰吹くんは行方不明になったらしい。

 灰吹くんは昨日の夜七時くらいに学校へと出かけ、それ以降、家に帰っていないと考えられる。

 以前に見た怪しい人物が灰吹くんを狙っていたのかも不明だけど、もしも誰かが連れ去った、あるいは拘束したのなら、犯行現場は学校ということになるのだろう。

 もっとも、今現在も学校内にいるとは限らない。


 黒部さんたちは読書部の部室へと向かった。灰吹くんの所属する部活だからだ。

 黒部さんと白糸台さんも同じく読書部の一員だし、他の部員がなにか知っているなら、口止めでもされていない限りは教えてもらえるに違いない。


 ふたりはそちらに顔を出す前に、ワーム探偵事務所へと赴いた。

 なにかあったらいつでも相談に乗ると白糸台さんに伝えてあったから、味方は少しでも多いほうがいいと考えて頼ってくれたのだと思う。

 僕たちにできることがあるなら、力になってあげたいところだ。


 といっても、僕自身は下僕同然の立場でしかない。

 ここは部長である和夢子の意見を聞いておかねばなるまい。


「和夢子、どう思う?」

「う~ん、そうね……」


 和夢子のほうも真剣に考えていたようだ。

 ……と思ったら。


「キャメルクラッチより、四の字固めとかコブラツイストとか卍固めとかのほうが、ヒットを痛めつけるには効果的だったかしら」

「なにを悩んでるんだ! というか、キャメルクラッチで充分に沈みそうだったよ!」


 足同士が絡み合うとか腕や胴体が絡み合うとか、そういう観点から見ればそっちのほうが嬉しいかも、と思わなくはないけど。


「冗談に決まってるでしょ?」

「ほんとかなぁ?」


 和夢子だから信用が置けない。

 実際にキャメルクラッチはかけられたわけだし。


「灰吹くんの家に行くとしても、場所も知らないから動きようがないわ。調べられなくもないとは思うけど、個人情報の扱いに慎重なこのご時世じゃ、教えてもらえない可能性のほうが高いわね。のんちゃんとあんずちゃんもあとで行くみたいだから、校門でふたりが通りかかるのを待ち構えるのがベストなんじゃないかしら」

「そう……だね」


 不意打ちで、ちゃんとした意見が飛び出してくる。

 なんだよ、まともに考えてたんじゃないか。


「ヒットに連続バックドロップでもかけながら」

「それはやめろ! さすがに死ぬ! それに下校する生徒たちに見られるだろ!? せめて関節技にしとけよ! できるだけ密着度の高い技で!」


 最後に少々本音をまじえつつ、文句をぶつける。


「密着度って……相変わらずいやらしいわね、変態さんは」

「和夢子も相変わらずめちゃくちゃだ!」


 と、無駄な言い争いが始まったところで、小さな物音が響く。

 コトン、といった感じの軽めの音で、ドアのほうから聞こえてきたようだった。


「なんだろう?」

「依頼箱に投函があったみたいね」


 今は新たな依頼を受ける余裕なんてないというのに。

 なんともタイミングの悪い投函者だな。

 そう思ったのだけど。


「手紙らしきものが二通あるわ」


 ワーム探偵事務所に、同時にふたつの依頼!?

 完全に予想外の事態だった。




 確認してみたところ、結局二通とも、依頼をお願いする類の手紙ではなかった。

 しかも、どちらも内容はほぼ同じ。

 文面や筆跡なんかは違うけど、ワーム探偵事務所の部長及び部員、計二名に宛てられたもので、「旧校舎の三階、一番北側の教室で待っている」との旨が記されていた。


 和夢子と僕へ向けた、呼び出しの手紙。

 こういったことは、これまでにもあった。

 一年生の頃から探偵を自称して活動していた和夢子は、良くも悪くも有名人だ。

 上級生から生意気だと目をつけられ、因縁を吹っかけられた経験も一度や二度ではない。


 この忙しいときに。

 今の僕たちには、そんなやからに構っている暇はない。後回しにする方向で提案しようとしたのだけど。


「あのふたりに教えたほうがいいかしらね」


 和夢子の考えは別のようだった。

 黒部さんと白糸台さんに教えたほうがいい。

 つまり、この二通の手紙は灰吹くんの行方不明になんらかの関わりがある、と踏んだのだ。


「二通ともそうなのかはわからないけど、おそらく一方は間違いないはずよ」


 なぜ断定できるのか。

 僕が問い質す前に、和夢子は行動を開始した。


「急いで行けば、すぐふたりに追いつけるわね。読書部の部室に向かうわよ!」


 有無を言わさず駆け出す。僕の可否なんて聞く気すらない。

 ま、いつものことか。

 僕は小さくひとつ、ため息をつくと、きちんと部室の戸締りをしたのち、和夢子の意外と小柄な背中を追いかけた。


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