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第9話 処刑台へ
魔導炉を止めてから三十日。
王国は、静かだった。
あれほど荒れていた王都から、少しずつ人の声が戻ってきていた。
けれど――。
王宮だけは、沈黙に包まれていた。
「アデリア」
レオナルドが私の部屋を訪れた。
「何?」
「父上がお呼びだ」
私はため息をついた。
「……分かった」
謁見の間へ向かう。
国王。
貴族。
聖女セレナ。
そして、王太子レオナルド。
全員が揃っていた。
国王が口を開く。
「アデリア・フォン・ローゼン」
「はい」
「そなたに、王国転覆の罪を問う」
予想していた。
私は何も言わない。
「魔導炉を独断で停止させたこと」
「王家の機密を暴露したこと」
「貴族を糾弾し、民衆の反乱を煽ったこと」
一つずつ罪状が読み上げられる。
「以上により――」
国王が立ち上がる。
「そなたを死刑に処す」
セレナが息を呑んだ。
「そんな……!」
レオナルドが叫ぶ。
「父上!」
「黙れ、レオナルド」
「彼女は王国を救った!」
「だからこそだ」
国王は私を見る。
「アデリアを生かしておけば、王国は再び分裂する」
私は静かに笑った。
「……そうですか」
レオナルドが私を見る。
「アデリア?」
私は何も言わなかった。
これでいい。
処刑される。
ゲームと同じ。
けれど――。
今回は違う。
私はすでに、必要なものを全部準備していた。
「一つお願いがあります」
国王が眉を寄せる。
「何だ」
「処刑の日まで、私を牢に入れてください」
「……?」
「そして、処刑の日は王都全域に公開してください」
レオナルドが顔を青くする。
「何をするつもりだ?」
私は笑った。
「最後のお芝居よ」
三十日後。
処刑の日。
王都には大勢の民衆が集まっていた。
広場の中央。
処刑台。
その上に私は立っていた。
「悪女を殺せ!」
「王国を返せ!」
叫び声が飛んでくる。
私はそれを静かに聞いていた。
目の前にはセレナがいる。
その隣にはレオナルド。
二人とも泣いている。
「アデリア……」
セレナが呟く。
私は笑った。
「泣かないで」
「だって……」
「私は死なないわ」
セレナが目を見開く。
「え?」
私は小さな声で続けた。
「あなたが覚えている限りはね」
「……何を?」
私は答えなかった。
処刑人が剣を構える。
その瞬間。
私は空を見上げた。
黒い亀裂。
一ヶ月前に消えたはずのものが――
再び現れている。
「やっぱり」
私は呟いた。
「終わってなかった」
黒い亀裂から、巨大な魔力が流れ込む。
民衆が悲鳴を上げる。
王宮の鐘が鳴り始めた。
一度。
二度。
三度。
そして。
王都中の時計が止まった。
「……時間が」
レオナルドが呟く。
私は笑った。
「これが、最後の仕掛け」
セレナが私を見る。
「アデリア様……あなたは最初から、これを知っていたんですか?」
私は頷いた。
「ええ」
「じゃあ……どうして?」
私はゆっくりと振り返った。
そして、王宮を見る。
「この国には、王家より古いものがあるの」
「……何?」
「この王国が建てられるより前から存在していたもの」
私は空を指差した。
黒い亀裂。
その向こう。
巨大な何かが、こちらを覗いている。
「王家は、それを封じるために聖女を使っていた」
セレナが震える。
「じゃあ……魔導炉は……」
「封印装置だった」
私は頷いた。
「そして、聖女の命が最後の鍵」
レオナルドが息を呑む。
「だから、聖女が死ぬたびに――」
「新しい聖女が必要になる」
セレナの顔が青ざめる。
私は彼女を見る。
「でも、もう終わり」
「どうして……?」
私は笑った。
「私が最後の鍵を壊したから」
その瞬間。
空から黒い光が落ちてきた。
処刑台が揺れる。
民衆が逃げ惑う。
兵士たちが倒れる。
そして――。
黒い亀裂の向こうから。
一人の少女が現れた。
白い髪。
赤い瞳。
見覚えのある顔。
私は目を見開いた。
「……私?」
少女は笑った。
「ようやく会えたね」
私は剣を抜く。
少女は静かに言った。
「あなたが死ねば、この世界は救われる」
そして――
「あなたが生きれば、この世界は滅びる」
私は笑った。
「なら」
剣を構える。
「私は、生きる」
少女の笑顔が消えた。
王都全体が、暗闇に包まれる。
そして私は。
自分自身との最後の戦いへ向かった。




