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悪役令嬢は、王国最後の日に笑う。  作者: ももにく


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第8話 悪役令嬢の最後の命令


地下が揺れていた。


壁に刻まれた魔法陣が次々と赤く染まっていく。


「このままでは魔導炉が……!」


セレナが叫ぶ。


「爆発する」


私は冷静に答えた。


「王都ごと吹き飛ぶわ」


黒衣の男――財務長官は笑っていた。


「その通りだ」


「あなたも死ぬわよ」


「構わん」


男は両腕を広げた。


「この腐った王国が消えるなら、それでいい」


「……狂ってる」


「そうかもしれんな」


男は私を見る。


「だが、アデリア。お前も同じだろう?」


「何が?」


「王国を救うためではなく、王国を壊すために動いていた」


私は黙った。


「違う」


「ならばなぜ、これほどまでに悪名を集めた?」


男が笑う。


「なぜ自分から民衆の憎しみを受けた?」


「……」


「なぜ王太子との婚約を捨てた?」


私は剣を握り直した。


「全部、必要だったからよ」


「何のために?」


「この国を終わらせるため」


セレナが息を呑んだ。


「アデリア様……?」


私はセレナを見る。


「この国は、もう元には戻れない」


「でも……!」


「だから私は、古い王国を終わらせる」


黒衣の男が笑った。


「やはりな」


「あなたとは違う」


私は男を睨む。


「あなたは人を犠牲にして、新しい王国を作ろうとしている」


「なら、お前は何をする?」


「犠牲をなくす」


「そんなことができると思うか?」


「できる」


私は即答した。


その瞬間。


セレナが私の手を握った。


「……私もやります」


「セレナ?」


「私も聖女です」


彼女は震えていた。


それでも、目を逸らさなかった。


「私の魔力が必要なら、私が使います」


「駄目」


私は即座に拒否した。


「あなたを犠牲にはしない」


「でも――」


「私が聖女を救うと決めたの」


私は魔導炉を見る。


「だから、あなたは逃げて」


「嫌です」


「セレナ」


「嫌!」


初めて、セレナが声を荒らげた。


「私だって、自分の人生を自分で決めたい!」


私は一瞬、言葉を失った。


そして――笑った。


「……そうね」


私は手を離した。


「あなたの人生だもの」


セレナが頷く。


その瞬間。


魔導炉が爆発しかけた。


「来る!」


私は魔法陣へ走った。


大量の魔力が押し寄せる。


頭の中に、見覚えのない光景が流れ込んできた。


炎に包まれた王都。


処刑台。


民衆。


そして――私。


『アデリアを殺せ!』


『悪女を処刑しろ!』


『王国を救え!』


私は、その光景を見ていた。


ずっと前から。


――いや。


これは「記憶」ではない。


未来。


ゲームで見た結末。


でも。


その未来には、おかしなところがあった。


処刑台の下。


泣いているセレナ。


その隣に立つレオナルド。


そして。


私が処刑された瞬間――


王都を覆う黒い亀裂が消えていた。


「……そういうことだったのね」


私はすべてを理解した。


私が死ぬことが、王国崩壊を止める条件だった。


だからゲームでは。


アデリアは必ず処刑される。


聖女が生き残る。


王国も救われる。


けれど――


「そんな未来、認めない」


私は魔導炉に手を伸ばした。


「誰か一人を犠牲にして成り立つ国なんて、いらない」


魔力が腕を焼く。


それでも離さない。


黒衣の男が叫ぶ。


「何をしている!」


「終わらせるのよ」


「何を!」


私は魔導炉の中心にある魔石を掴んだ。


「聖女を燃料にする、この国の仕組みを」


魔石が砕ける。


轟音。


魔導炉が停止した。


同時に。


王都を覆っていた黒い亀裂が、ゆっくりと閉じていく。


黒衣の男が膝をついた。


「馬鹿な……」


「終わりよ」


私は彼の前に立つ。


「あなたの計画も」


「……ならば、王国はどうなる?」


「知らない」


私は答えた。


「王国がなくなってもいい」


男が顔を上げる。


「何?」


「人が生きているなら、国なんてまた作れる」


その言葉に。


セレナが泣きながら笑った。


「……アデリア様らしいです」


私は彼女を見る。


「何それ」


「ずっと怖い顔をしていたから」


「あなたに言われたくないわ」


二人で笑った。


けれど。


その直後。


地下への扉が開いた。


兵士たちがなだれ込んでくる。


先頭に立っていたのは――レオナルド。


彼は私を見るなり、目を見開いた。


「アデリア……」


「来たのね」


「何をした?」


「王国を救ったのよ」


「……違う」


レオナルドが首を振る。


「君は――」


彼の目に涙が浮かんだ。


「君は、全部一人で背負うつもりだったんだな」


私は答えなかった。


レオナルドは剣を抜いた。


「ならば、俺も最後まで付き合う」


私は少し驚いた。


そして。


「遅いわよ」


「……すまない」


「本当にね」


私は笑った。


そのとき。


王宮の鐘が鳴った。


残り時間――


三十日。


私は空を見上げた。


まだ終わっていない。


むしろ。


ここからが本当の最後だった。

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