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悪役令嬢は、王国最後の日に笑う。  作者: ももにく


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第2話 私に逆らう者は許さない


翌朝。


私は、公爵家の執務室に集められた使用人たちを見渡していた。


侍女、執事、料理人、庭師。


全部で二十人ほど。


誰もが緊張した顔をしている。


昨日までのアデリアなら、こんな場所に使用人を集めることなんてなかった。


気に入らないことがあれば、誰かを呼びつけて怒鳴る。


それが、この身体に残っている記憶の中のアデリアだった。


私は机の上に一枚の紙を置いた。


「今日から、この屋敷の人事を変更します」


ざわめきが起こる。


「まず――執事長を解任します」


「なっ……!」


初老の男が顔を上げた。


「わ、私が何をしたというのですか!」


「あなたは三年前から公爵家の金を横領している」


室内が静まり返る。


男の顔から血の気が引いた。


「そ、そんな証拠は……」


「あります」


私は別の書類を取り出した。


「帳簿の数字と、あなたが個人的に購入した土地の記録。全部一致している」


執事長は何も言えなくなった。


私は書類を机に置いた。


「今日中に屋敷を出てください」


「お待ちください! 私は公爵家に三十年――」


「知っています」


私は淡々と言った。


「だからこそ、三十年分の記録を調べました」


男は唇を震わせた。


やがて衛兵に連れ出されていく。


誰も口を開かなかった。


私はその様子を見ながら、内心で息を吐く。


――ゲームでは、この男のことなんて描かれていなかった。


当然だ。


ゲームの主人公は聖女。


公爵家の細かな事情なんて、プレイヤーには必要なかったのだろう。


「次」


私は別の書類を取り出した。


「侍女長」


「……はい」


「あなたは昨日、私の部屋に入ったわね」


侍女長の肩が跳ねる。


「それは、掃除のためで……」


「嘘」


私は彼女を見つめた。


「机の引き出しに入れていた手紙を盗み見たでしょう?」


「……!」


周囲から息を呑む音が聞こえた。


「誰に報告したの?」


「そ、それは……」


「王太子殿下?」


侍女長が顔を伏せる。


やはり。


私はゲームの記憶を思い出していた。


アデリアは王太子に執着していた。


だから周囲の人間も、王太子の命令には逆らえなかった。


けれど――


「解雇します」


「そんな……!」


「理由は分かっていますね?」


侍女長は泣き崩れた。


私はそれ以上何も言わなかった。


使用人たちの顔を見る。


誰もが私を恐れている。


当然だ。


今の私は、昨日までのアデリア以上に冷酷に見えるだろう。


でも。


私は知っている。


この世界で一番危険なのは、私を嫌っている人間じゃない。


――私を利用しようとしている人間だ。


「最後に一つ」


私は全員に告げた。


「これから、この屋敷で私の許可なく王太子殿下へ報告することを禁じます」


ざわめきが広がった。


「殿下に……?」


「はい」


私は微笑む。


「私のことを誰が何と言おうと構いません」


そして、少しだけ声を低くした。


「ただし――私の知らないところで、この家の情報を流した者は許しません」


使用人たちが一斉に頭を下げた。


その日の昼。


私は一人で食事をしていた。


そこへ侍女が慌てて入ってくる。


「アデリア様!」


「何?」


「王宮から、お手紙が……」


差し出された封筒には、王家の紋章。


私は封を切った。


中には短い文章が書かれていた。


――今夜、王太子殿下がお会いしたいとのことです。


「……早いわね」


私は手紙を折りたたんだ。


ゲームでは、王太子と聖女が出会うのは半年後。


なのに。


まだゲーム開始から一日しか経っていない。


何かがおかしい。


私は立ち上がった。


「返事を書いて」


「なんと?」


私は少し考えてから答えた。


「喜んで伺います、と」


侍女が頭を下げる。


私は窓の外を見た。


王宮の尖塔が、夕日に照らされている。


そして――


その王宮の地下深く。


誰も知らない部屋で、一人の男が古びた記録を開いていた。


そこには、こう書かれていた。


『アデリア・フォン・ローゼン』


その名前の横には、赤い文字。


――要注意。


男は静かにページをめくった。


「今年も……始まったか」


その声には、奇妙なほどの諦めが滲んでいた。


そして記録の最後には、こう記されていた。


『王国崩壊まで、残り三百六十五日』


男は時計を見る。


「……あと一年」


誰にも知られない場所で。


王国の終わりまでの時間が、静かに動き始めていた。

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