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第1話 悪役令嬢に転生しました
「――アデリア様、お目覚めください」
遠くから、誰かの声が聞こえた。
「……うるさい」
思わずそう答えて、私は目を開けた。
白い天井。
見慣れない天蓋付きのベッド。
そして、目の前には青ざめた顔をした侍女が立っている。
「アデリア様……! よかった……!」
「ここ……どこ?」
身体を起こした瞬間、頭の奥がズキリと痛んだ。
次々と知らない記憶が流れ込んでくる。
ローゼン公爵家。
王太子との婚約。
十七歳の誕生日。
そして――。
「……アデリア?」
侍女が恐る恐る私の顔を覗き込む。
その瞬間、すべてを思い出した。
私は前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生している。
そして、この身体の持ち主の名前は――
アデリア・フォン・ローゼン。
ゲームの悪役令嬢。
王太子の婚約者であり、ヒロインである聖女を虐め、最後には民衆の反乱によって処刑される女。
「……嘘でしょ」
ベッドから飛び起き、部屋に置かれた鏡を見る。
金色の長い髪。
青い瞳。
整った顔立ち。
ゲームの立ち絵で何度も見た顔だった。
「本当に……アデリア……」
ゲームの設定では、アデリアは典型的な悪役令嬢だった。
気に入らない令嬢を追い出し、平民を見下し、王太子に近づく女性を片っ端から排除する。
そして一年後。
聖女が現れる。
王太子は聖女に惹かれ、アデリアとの婚約を破棄。
怒ったアデリアは王都の貴族を巻き込み、王太子を殺そうとする。
それがきっかけとなり、民衆が蜂起。
最後は――処刑。
「あと一年……」
ゲーム開始まで、あと一年。
つまり私は、一年後に死ぬ。
「嫌……」
喉から、震えた声が漏れた。
死にたくない。
せっかく生まれ変わったのに。
また死ぬなんて、絶対に嫌だ。
私は鏡の中の自分を睨みつけた。
そして――笑った。
「……だったら」
ゲームの中で、アデリアは何度も失敗していた。
王太子に愛されようとして、聖女を虐めた。
権力を守ろうとして、敵を増やした。
そして最後には、すべてを失った。
なら。
私は同じことをしない。
「先に全部、私のものにすればいい」
王太子。
公爵家。
貴族たち。
そして、この国そのもの。
私を処刑する未来が決まっているなら。
その未来を作る前に、こちらから運命を握ればいい。
「アデリア様……?」
侍女が怯えたように私を見る。
私は微笑んだ。
「ねえ」
「は、はい……」
「今日から、この屋敷にいる人間を全部調べて」
「……え?」
「誰が誰に忠誠を誓っているのか。誰が誰と繋がっているのか。誰が私を裏切る可能性があるのか」
侍女は困惑した顔をした。
当然だ。
ゲームのアデリアなら、こんな命令はしない。
私は窓の外を見た。
遠くに王都が見える。
あの街で、私は一年後に処刑される。
だったら。
「私を殺す未来があるなら――」
指先で窓ガラスをなぞる。
「その未来ごと、私のものにする」
その日。
悪役令嬢アデリア・フォン・ローゼンは、生まれ変わった。
そして誰も知らなかった。
この日から始まった彼女の行動が――
一年後、この王国そのものの運命を変えることを。
ただ一つ。
鏡の中のアデリアだけが知っていた。
――ゲームの記憶には、どうしても一つだけ説明できない場面がある。
処刑台の上で。
ゲームのアデリアは、なぜか笑っていた。
「……あれは、何だったんだろう」
私はまだ知らない。
その笑顔が、物語の始まりではなく――
終わりを意味していたことを。




