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悪役令嬢は、王国最後の日に笑う。  作者: ももにく


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3/10

3

第3話 聖女が現れた


夜。


私は王宮へ向かっていた。


馬車の窓から見える王都は、昼間とは違っていた。


街灯の下を歩く人々。


酒場から聞こえる笑い声。


露店を片付ける商人。


一見すれば、平和な国。


けれど、私は知っている。


一年後、この街は炎に包まれる。


そして、その原因として名前を挙げられるのが――私。


「……くだらない」


思わず呟いた。


誰かが私を悪女にする。


その未来が決められているなら、私はそれを変える。


王宮に到着すると、侍従が私を案内した。


通されたのは、王太子の私室だった。


扉が開く。


「来たか、アデリア」


そこにいたのは、私の婚約者。


レオナルド・フォン・アルヴェイン。


この国の王太子だった。


金色の髪。


青い瞳。


整った顔立ち。


ゲームでは「誰からも愛される完璧な王太子」と紹介されていた男。


私は礼をする。


「お呼びいただき光栄です」


「……いつもと違うな」


「何がでしょう?」


「君がそんなに大人しく礼をするとは思わなかった」


どうやら、元のアデリアは相当な女だったらしい。


「それで、何のご用でしょう?」


レオナルドは椅子から立ち上がった。


「君に伝えておきたいことがある」


「はい」


「近々、聖女が王都へ来る」


胸がわずかに跳ねた。


――聖女。


ゲームのヒロイン。


そして、アデリアが破滅するきっかけになる少女。


「そうですか」


「驚かないのか?」


「聖女が現れること自体は、喜ばしいことですから」


レオナルドが眉を寄せる。


「……本当にそう思っているのか?」


「ええ」


私は笑った。


「聖女様に失礼なことをするつもりはありません」


これは本心だった。


私は聖女と争うつもりなどない。


ゲームのアデリアは、聖女を虐めた。


でも私は違う。


聖女が何をする人なのか、この目で確かめる。


「そうか」


レオナルドは少し安心したようだった。


「ならばいい」


その瞬間。


扉の外から声がした。


「殿下。お時間です」


「分かった」


レオナルドが扉へ向かう。


私はその背中を見ながら、ふと思った。


ゲームでは。


この時期のレオナルドは、聖女の話なんてしなかった。


そもそも聖女が王都へ来るのは半年後。


なのに、なぜ――。


「アデリア」


「はい?」


「……君は変わったな」


そう言い残して、レオナルドは部屋を出ていった。


私は一人になった部屋で考え込む。


この世界は、ゲームとは少しずつ違っている。


それが偶然なのか。


それとも――。


翌日。


王都に聖女が到着した。


私は王宮で開かれた歓迎式に参加していた。


そして、彼女を見た瞬間。


息を呑んだ。


白い髪。


淡い紫色の瞳。


細い身体。


どこか儚げな少女。


ゲームで何度も見たヒロイン――セレナ。


「聖女セレナ様です」


周囲から拍手が起こる。


セレナは緊張したように頭を下げた。


「皆様……初めまして」


その姿を見て、私は思った。


――普通の女の子だ。


少なくとも、私が知っているゲームの「聖女」という存在とは違う。


そして。


セレナが顔を上げた瞬間。


目が合った。


一瞬。


彼女の瞳が大きく見開かれた。


「……え?」


小さな声。


私は首を傾げる。


「どうかしましたか?」


セレナは答えない。


ただ、私を見つめている。


やがて、震える唇から言葉が漏れた。


「……あなた」


「はい?」


「どうして……」


彼女の顔から血の気が引いていく。


「どうして、まだ生きているんですか?」


――その瞬間。


会場の空気が止まった。


「……何ですって?」


私は思わず聞き返した。


セレナは自分が何を言ったのか理解したように、慌てて口元を押さえた。


「い、いえ……違います……!」


「今、あなたは――」


そのとき。


突然、王宮の鐘が鳴り響いた。


一度。


二度。


三度。


会場にいた全員が驚いて顔を上げる。


王宮の時計塔。


そこに刻まれているはずの数字が――


三百六十四。


「……?」


私は目を疑った。


昨日、地下の記録に書かれていた。


『王国崩壊まで、残り三百六十五日』


なのに。


今日になった瞬間、一日減るのは当然。


問題はそこじゃない。


時計の数字の下に、小さく文字が浮かんでいた。


『第一段階――開始』


私は息を止めた。


そして、隣にいたセレナが震える声で呟いた。


「……また、始まった」


私は彼女を見た。


「また?」


セレナは答えなかった。


ただ怯えた目で、私を見ていた。


まるで――


私が死ぬ未来を、すでに知っているかのように。

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