2.自由は奪われた
「夢愛、黒煙が上がってる方向ってどっちかわかるか?!」
「ええっと、あっちって私たちの高校もあるよね?とりあえず学校に行ってみよ!」
バイクを起動させると全速力で自分と夢愛が通っている学校「第1024高等学校」に向かった。黒煙は遠くまで上っているように見えるが、東部内で爆発は起こっているはず。六つ目の爆弾がどこにあったかだけでも特定するつもりでいた。
(夜練の集合時間って七時だったっけ?現場に向かったとして家に荷物取りに帰れるかな...いやそれは奏多がなんとかしてくれるはず!...って爆発が近くで起こってもサッカーをしようとは流石にならないか)
「...待って愛斗、あれ煌次君じゃない?!」
「え?!」
道路の真ん中で一人バイクに乗っている少年が立っていた。先に言っとくと彼は高波煌次、小学生からのサッカー仲間で俺の一番の親友だ。黒煙を見て呆然としている。
「おぉい煌次ぃ!!」
「...愛斗に夢愛さん、どこに行くんですか?あっちは事件現場ですよ?」
「運の悪いことに俺ら事件の関係者なんだ、コーチにはお前から言ってくれるか?」
「なに言ってるんですか、こんな状況でサッカーなんてできるわけないでしょう。それに...爆発現場は僕たちの学校ですよ!」
意外な発言にエンジンの音も聞こえなくなった気がした。
「...は?」
(俺らの学校が爆発...したのか?)
「残念ですが事実です、グラウンド全面が焦げたと聞きましたよ」
「愛斗...もうやめよう?あとは警察とTIMERに任せよう、ね?」
「それだけは絶対に嫌だ、これでも爆弾を止められなかった責任感じてんだよ」
「夢愛さんの言う通りです愛斗、一人でどうにかできることじゃありません」
夢愛との賭けに嫌な形で決着がついてしまった。勝負には勝ったけど、全然嬉しくない。さっきは面倒くさいとか言ったけど、こんな展開をされて逆にサッカーがやりたい怒りともとれる衝動に見舞われた。
「クソッ...煌次、お前も来い!」
「待ってください愛斗、どこへ行くんですか!」
「学校にあった爆弾だけでも見ておきたいんだよ!」
「愛斗、自分から悲観しようとするのはやめなさい!」
「でも...!」
「愛斗っ!」
「うっ...」
サッカーの練習は無くなった、後は家に帰るだけで生活は同じだ。だが、魔法使いや武器使いを中心に狙う人たちがいることが今回でわかった。人々はその存在を知らない、できることならそれに関しても情報がほしいところだ。
「だめだ...行くぞ夢愛、煌次!」
そう言うとバイクのアクセルをもう一度前回に回した。
「ちょっと愛斗!」
「相変わらず仕方のない人間だ!」
人々が逃げていくのとは真逆に、二台のバイクは学校に向かって走っていった。
プルルル...!
バイクに搭載されている通信機に誰かから電話が掛かってきた。
(今度は電話か...もう早く学校に行かせてくれよ!)
『兄ちゃん、今どこにいるの?』
「奏多か...ちょうどいい。お前も今すぐ学校に来い、いいな!」
『えっ、なんで?!』
プツッ...
誰か嘘だと言ってくれないのか、今日のニュースで学校が潰れるなんて聞いてない。神様は俺の人生をめちゃくちゃにして満足か、おぉい?
〈???〉
「ボスが死んだってホントかよカリ?!」
「どうやら六つ目の爆弾を爆発させるために命を懸けたようだ」
「クソ...グゾぉ!」
「だが最低限の目的は達成した、ボスも喜ぶだろう...」
「オレらはこれからどうすればいいんだ!」
「我々東部地区は全滅した、他地区のやつらと合流しよう」
「わかりやしたァ...ボスぅ!」
〈第1024高等学校前〉
周りに人はいなかった、それどころか警察も消防も救急も...なんならTIMERもいなかった。多くの学校の中から一つの高校を探り当てるのは100%無理だろうし、準備だってあるのはわかってる...でもこんなに遅いと腹が立ってくる。
「兄ちゃん!」
「奏多か!...それに、アレクとロビンは呼んでないのにどうしているんだ?」
「ボクひとりだけじゃ事件現場に行けなかったから、二人に頼んで来てもらったんだ」
「おいおい...悪いな二人とも?」
「いや、学校が爆発するのはオレも見過ごせないからね」
「オイラもアレクと同じっす!」
これでサッカー部のメンバー半分位がここに集まった。俺、煌次、アレク、ロビン、奏多、そして夢愛もマネージャーをやってる。残りの先輩組はどうしてるかわからないが、コーチがいないことをいいことに学校に6人で入ることになった。
「今って学校誰も使ってないんすかね?」
「そうみたいだね。愛斗君、事件に関わったってどういうことかな?」
「夢愛とショッピングに行ってたら起爆装置を拾って、輝昭っていう研究者に会って、魔法使いや武器使いに恨みがある集団に出会って、倒した後に爆弾解除しようと頑張ったら、最後の爆弾が爆発した」
「その現場がこの学校と言うわけです」
「私はずっと反対だったのに!」
「まあまあ落ち着いてよ夢愛ちゃん、失礼な兄に代わって弟のボクが謝るからさ」
「やらんでいい!」
学校の廊下を順番に歩いていると、嫌でも黒焦げになったグラウンドが目に入る。
「にしても愛斗先輩、なんで学校に入る必要があるんすか?爆弾はグラウンドにあるはずだし、犯人も逃げてるんじゃないっすか?」
「さっき集団の一人と戦ったんだけど、三人組らしくて、多分みんな死のうとしてる。残った二人は仲間に連絡を取って、あわよくば合流しようとするはずだ」
「どうして愛斗はそこまで言い切れるんです?そんな大昔の特攻兵みたいなことをする犯罪者なんて、今時いるとは思えませんが...」
「そんな煌次に朗報だ、俺に間違いがなければもうすぐ会えるはずだ」
「それはどういう...?」
「しーっ...!」
「「「???」」」
周囲を静かにすると、今立ち止まっているすぐそばの部屋から小さいが会話が聞こえてきた。どうやら当たりだ、まだ奴らは仲間に連絡するどころか、逃げることすらできていなかったらしい。
「本当に声がする...」
「お兄ちゃん、学校に来たのって奴らを探すため?」
「ああ、乗り込むぞみんな。魔法の準備しとけよ」
「愛斗先輩、武器使いはどうするんすか?」
「そうだな、オレと煌次君は学校の武器でも使おっか?」
「何を言うんですかアレク、授業外で武器を使うのは重大な校則違反ですよ?」
「緊急事態なんだ、正当防衛に使ったって言えば納得してくれるんじゃない?」
「はぁ...全く危機感のない人間だ、あなたは」
二人に武器で後衛として待ち構えてくれるように頼むと、俺、ロビン、奏多と夢愛の四人で襲撃をかけた。
「さあ動くなっ、持ち物を捨てて手を上げるこった!」
ちゃんとボスに先立たれた二人がいた。
「ひえっ、カリ!あいつだ...ボスを追いつめたあのガキだ!」
「どこまで我々を邪魔すれば気が済むんだ、もういっそのこと警察かTIMERに差し出せばいいだろ?!」
(チッ...)
...なに勝手に楽そうなことしようとしてるんだこいつら?学校や他の大事な場所奪っておいて、こんなに軽い気持ちで刑務所に入られても困る。それなりの痛みを知ってもらわないとこっちも気分よくお偉いさんに差し出せないんだよなぁ。
「無理だね、ちゃんと反省の意を持ってムショに入ってもらわないと。なぁ?」
「ガキが...調子に乗るなよ!」
「それ自分の立場わかって言ってるの?」
「...なんだと!」
「お前らは詰んでるって言ってんだ、聞こえなかったのかおぉい?!」
「愛斗、ちょっと落ち着いて!」
「先輩...そんなに怒っても事実は変わらないっすよ!」
「・・・」
仲間の制止が自分を助けているのか邪魔しているのかのどっちかなんて、客観的に見れば一目瞭然のはずなのに、主観ではこんなに気づかないものなんだと後でしっかり気づいていることだろう。
「どっちにしろ我々は詰んでるんだ...」
「そうっすよ、抵抗なんてとても...」
「...はぁ?」
どういう神経をしてるんだ?さっきまでこいつらは仲間と連絡を取ろうとした、そしてうまくいけば合流もしようと思った。しかし今は完全に開き直って捕まる気満々。どうも裏がある気がしてならない。
一瞬のうちに二人は銃をとりだして発砲を行った。
「するんだよなぁ!今度こそ死ねやガキどもぉ!!!」
パァァン!!
「愛斗?!」「先輩!」「お兄ちゃん!」
(...処刑決定)
「もう一度歯ぁ食いしばれぇ!!」
『”アイスバーン”!』
氷魔法と水魔法の合わせ技、水を相手に噴射して水滴が触れた瞬間に急速冷凍を起こし、固体(=氷)に状態変化させて体を固め移動を封じることができる、愛斗本人が編み出したオリジナル魔法である。
「なんだ、体が動かない...しかも寒い!」
「さっすが愛斗先輩、すぐに相手の全身凍らせちゃった!」
「”お前らが選べるのは、心の底から反省するか凍死するかの二択だ”」
「やったねお兄ちゃん!」
武器を取りに行っていた煌次とアレクも戻ってきた。
「もう愛斗君、ひとりで解決したらオレらの意味ないじゃないか」
「まあ、武器を使わずに済んだのなら良かったのですが」
しばらくするとサイレンの音が鳴った。警察やTIMERたちがようやく到着したのか、いくらなんでも遅すぎる。高校生だけで解決させて大人は恥ずかしくないのか?
「お兄ちゃん、大人が来たよ!」
「愛斗、私たちが見つかっても面倒だし早く行こ!」
「ああ...」
「...凍った二人はどうします?」
「そのままにしとけ、見逃されることはないだろ」
〈二日後・学校すぐ近くのレストラン〉
あれから二日がたって、耳に入るニュースは爆発事件のことばかりだ。実行犯は三人組で一人は爆発に巻き込まれて自殺、残る二人は爆発のあった第1024高等学校内で抵抗されることなく発見。本校はしばらく休校となったのであった。
そんでもってまた六人で集まって事件のことを話し合っていた。特におとといはゆっくり食事ができなかったから今日に延期ということで。
「どこも最低限の事実を伝えて終わりのようですね」
「ええ、いい意味で愛斗先輩が関わっていたことは隠されたっすね」
『お待たせいたしました、ご注文の商品が到着しました。”ハンバーグ・オニオンソースがけ”、”ソースメンチカツ定食大盛り”』
「おっ、来た来た!...お兄ちゃんの噂、全然学校のデジタルルームでも流れてなかったしね」
「さて、オレも食べようかな?...あの有名な愛斗君のことだから、犯人もすぐに供述しそうなものだけどね?」
「そういえば愛斗、犯人以外に魔法の痕跡は残してないよね?」
「...そこなんだよなぁ。残してないつもりだけど、無意識に使ってるかもしれないし...そもそも1024高校であんな大きな氷魔法とか水魔法使うやつなんて他に聞いたことないし...特定は案外、時間の問題かもな」
『お待たせいたしました、ご注文の商品が到着しました。”チーズトンカツ定食大盛り”、”カツ丼・豚汁セット”』
「来ましたか、いただきます」
「愛斗先輩、お先にいただきますっ!」
「ああ。みんな勝手な理由で巻き込んで悪かったな...」
「もういいですよ。とりあえず平和が戻ったんですし、何よりこの手の話をすると食事が美味しく感じない。まずは楽しんで食べましょう」
平和か...あいつらもそんなこと言ってたっけ。あいつらは確かに捕まったけど仲間は他にもいると考えたほうがいい、これからその気になる奴が増えることだってあるかもしれない。自分を無力だと思い込んでいる人間が、憧れであるグレードカテゴリーの人間に妬みをぶつける...この構造はウィルシティがずっと抱える問題のひとつだ。
あとグラウンドが黒焦げになったのを見てから、俺らはサッカーができなくなった。もちろんプレイできないという理由はそうなのだが、それ以前に自分の学校が壊滅する様を目にしてトラウマを抱えてしまった。ここにいる六人全員がそう。
『お待たせいたしました、ご注文の商品が到着しました。”レッドカレーライス大盛り”、”チキンステーキ・バター乗せ”』
「はい、夢愛」
「ありがとう、いただきまーす!」
「さぁて、いただきまー...」
ピピピッ!
「...なんでしょう?」
普通の昼番組の上画面に文字だけのニュース速報が流れた。
”一昨日の学校爆発事件、犯人の無抵抗は極めて協力な魔法が使用されたと警察及びTIMERは断定。犯人の供述によると「高位魔法能力者が放った魔法に身動きを封じられた」とのこと。警察及びTIMERは魔法使用者の特定を急いでいると発表。”
「・・・」
(俺、なんか悪いことでもしたのか?)
Tips:この世界の車とバイク
この世界でDG(ドライブギア=車やバイク)を運転するためには、基本18才以上が習得可能な車型対応の普通免許が必要だが、13才以上にも普通より出力を抑えられたバイク型DGのみを運転できる特別な免許を得る資格がある。愛斗たちはそれを使ってバイク型DGを日常的に運転している。普通より出力を抑えていると言ってもそれなりにスピードはある。この免許を持っている者は普通免許の一部試験をパスすることができる。付け加えるとDGはタイヤではなく車体を空気で浮かせて走る。




