3.狙われの身
”また犯人の供述から、拘束した魔法使用者には同伴者がいたと考えられ、許可されていない場面で魔法が使用されたことが発覚したために、現在情報を求めています。”
「...え?」
愛斗の食器から動きが失われた。それを見た周りの仲間も言葉が出ない。
「大人達は本気で僕たちを捕まえる気ですね...」
「犯人を捕まえるための正当防衛をしただけなのに、なんでそうなるのかな?」
「それだけ魔法が危ないものだってことなんだろう」
「どうするんすか愛斗先輩、バレるのも時間の問題ですよ?」
『・・・』
誰にも答えが浮かばなかった。当たり前といえば当たり前だ、どの時代だって警察やTIMERの実力を侮ってはいけない。その肩書を持っている時点でかなりの魔法か武器使い、他にも情報処理能力の高い者だけが揃っていることは確実だからだ。
ふと、夢愛の一言で場の空気が変わった。
「ねえ愛斗、輝昭さんのところに行ってみない?」
(...ん?)
「夢愛ちゃん、”てるあきさん”って誰のこと?」
「俺と夢愛が起爆装置を持ってた時に会った研究者だ、確かにあの人なら...!」
「待ってください愛斗、まだ関係の浅い人に匿ってもらうのは危険です!」
「まあそう焦んなって煌次、もし危険だったらすぐに引き返すって」
「まあ、愛斗がそう言うなら」
ほんの少しの希望が見つかると食事スピードが急上昇し、十分ほどで全員が全部の食品を平らげた。辛いのもさっきの状態から軽くなった気がしていた。気分によって美味しいと不味いの差がこんなにも激しいものなのかと改めてわかった。
「ごちそうさま!」
バイク四台に一人か二人が乗り込むと愛斗を先頭に輝昭の研究所に向かった。それにしても今日はあの爆発日と比べて雲が少なかった、というか無かった、快晴だ。
「ねえ愛斗、輝昭さんわかってくれるかな?」
「わからない、まず会ってみないと」
ちなみに俺は夢愛と二人乗りしている。奏多は自分のバイクをまだ持っていないから、信頼の置ける煌次にお願いしてよく二人乗りさせてもらっている。仮に俺が奏多にドライブしようなんて言ったら、嫌がる姿しか想像できないが。
”キーーーッ!”
「なに?」
どっからかクラクションの音が聞こえた。対向車からな訳ないし、ミラーを見ても三台のバイクしか写ってない...え、どっから?
「愛斗、歩道にいるの先輩じゃない?」
確かに歩道にバイク一台と二人がこっちを見て止まっている。なんで夢愛はあんなすぐに見つけることができるんだ?音魔法使いだからか、それともただ目がいいだけなのかは知らん。周りに使用と影響がバレづらい音魔法は本当に便利だ。
「おーいお前たち!」
「部長、あなたこそなんでここに?」
サッカー部長・明日野瞬。それと明らかに年離れにしか見えない男性の姿があった。どっかで見たことがあるような雰囲気だが思い出せない。顔もサングラスをしているし、服もサイズの大きい長袖なものだから体格もよくはわからないが...誰だっけな?
「俺か?...このお兄さん、行きたいところがあるらしいんだけど丁度いい時間の電車型や大バス型DGが動いてなかったからさ、道を教えてもらいながら送るんだ」
「すみません、お名前だけでも聞かせてもらえませんか?」
「あぁ、オレ麻枝って言います。あなたたちは明日野さんの後輩ですか?部長という言葉が聞こえたもので」
「初めまして。はい、ここにいる全員同じ高校のサッカー部に所属してます」
「おっ、サッカーやってんの?」
「はい」
(本当に誰だっけ、絶対に会ったこと...いや見たことあるのに!)
声も聞き覚えがあるし、「サッカー」に反応していることにも驚きはなかった。確かあの人もサッカー関係者だったはずで、別の高校の顧問かコーチだったかな?...ん~でも選手並みにいい起立姿勢なのが服越しでも伝わるのはなんでだろう?
「実はオレもサッカーかじっててさ、もうそろそろ高校大会じゃなかったっけ?」
「ええ。それで麻枝さん、今日はどちらに行かれるんですか?まだ俺あなたの行き先を聞いてませんでした」
「行き先はねぇ、ちょっと公に見つかるとまずいんだよね。なにがまずいかって、一般の人に見つかるといろいろと時間かかるんだよ」
部長も含めた全員の空気がまた重くなった。今日だけであと何分この空気感を味わわなければいけないのか一番知りたい。まさかとは思うけど、この人危ない?薬、密輸売買、ヤクザ...考えるときりがないけど、これ以上変な事情に巻き込まれないように黙っておくことにした。
「え...一般の人に見つかるとまずいって、まさか...!」
(おぉぉい部長ぉ、余計な事言うんじゃないよ!)
「いやいやいやいやいや、そっちのまずいじゃない!」
部長のサッカーの実力は本物だが仮にも爆発に巻き込まれた身、俺たちにもサッカーの話題を比較的ださないように配慮していた。そんな部長は優しさの塊で、騙されやすい傾向にある。この要素が無ければ後輩たちは彼を100%恐れていただろう。というわけで、部長の理解にフォローを入れる。
「部長、仮に裏社会の人がわざわざ一般人に依頼してくるわけないじゃないですか」
「えっ、あっ...そうか」
「信じてくれてよかったー...」
その間、この人の正体を考えている人間は俺以外に何人いるんだろう?”麻枝”と書くらしいが、そんな人は知らない。でも見たことある絶対。
「愛斗、そろそろ行きませんか?」
「それもそうか」
「お前たちは結局どこ行くんだ?」
「俺の知り合いに会いに行くんです、行きにくい場所なんでそろそろ行きますね?」
「そうか、事故起こすんじゃないぞ?」
どうせなら事故に”遭わない”心配をしてほしかったんだけど。
「麻枝さんもお気をつけて!」
「うん、じゃね!」
「では麻枝さん、俺たちも出ましょう」
駐車スペースにもう一度エンジン音を響かせると、あらかじめ設定しておいた行き先に向けて出発した。麻枝さんの行き先も気になるが、部長から後日聞けばいい。
〈高速道路・道中〉
警察やTIMERが町を巡回している気配はまだない。これからどんな奴に絡まれるかはわからないが、今までの生活が脅かされることになりかねない。
「・・・」
爆発もそうだが、あの事件の犯人三人がいた”組織”とやらの存在も気になる。グレードカテゴリーのランカー、普通に頭がいい人、あと...どっかの本に書いてあったが、この世のあらゆる生命の記憶を宿したメモリと呼ばれる代物と、それを扱う適合者がいると見たことがある。どちらにせよ、元の姿から特殊な能力を得た人間は狙われる可能性が高い。俺らも例外じゃないか...
”ブォォォン!!!”
「...?」
「お兄ちゃん、後ろからたくさんのバイクが!」
「...今度はなんd...はあっ?!」
後ろを少し振り向くと、自分たちより大きいバイクや四輪DGが道幅いっぱいに広がっていた。豪快なエンジン音にガヤガヤ聞こえる騒音からして、警察でもTIMERではなさそうだ、ならこいつらは...
「ヒャッハッハァーー!」
「おいガキどもぉ、さっさと道路から出ていきなぁ!」
「誰ですあなたたちは!」
「おいおい知らねぇのかよぉ~?」
「オレたちゃあこの町一番の走り屋『キャノン暴走族』だ、覚えたか!」
「...はぁ」
「どうするんだい、愛斗君!」
なんでまたこんな時に警察やTIMER案件の暴走族に絡まれないといけないんだ...ってか、夜じゃなくて真昼間から爆音で走る暴走族が存在すんのかよ!
「みんな、とりあえず全力で走るぞ!」
「どかねぇつもりかぁ?!」
「ああそうだよ、一丁ストレス発散といきますか!」
「...轢き殺してやれぇ!」
ピューン!と早速銃弾やミサイルが飛んできた。おいおい改造車がどうして高速通ることできてるんだよ...入口のチェックシステムを壊されたと考えるのが妥当か。もうこうなったら魔法を使わざるを得ない、”正当防衛”だ。
「愛斗先輩!」
「はいはいっと!」
『”エアロバリア”!』
エアロバリアは、その名の通り空気のバリアを張る魔法である。風魔法と天魔法の合わせ技で、愛斗のように能力が高い人が使えば自分や周辺までバリアを張ることができ、空気の攻撃はもちろん、他の魔法や実弾からも守ることができる。
「なんだあれは?!」
「あいつら魔法使えんのかよ!」
あの反応するってことはあいつらに魔法使いはいないらしい、なら物理武器をどれくらい持ってるかを把握できれば...!
「なあ夢愛、音魔法であいつらの車にどれくらいの武器があるかわかるか?」
「...やってみる!」
車の中にある物体を感知するのは俺でも難しいと思うことだ。ただ夢愛は音魔法に関しては俺と同等かそれ以上の力を持っている、彼女ならやれる。
「なに四台のバイクごときに手こずってんだ、全ミサイルぶっ放せぇ!」
一方、魔法を使えない煌次とアレクは武器を持っていないため、愛斗たちよりも先に道路を確保するために動いた。
「奏多、アレク、僕らは先を走りますよ!」
「オッケー煌次君!」
「じゃあ兄ちゃん、そういうことだから先に行くよ!」
「ああ、頼んだぞ!」
二台のバイクが行き先を確保してくれるのはアツい、このまま暴走族を撒きたいところだがそう簡単にはいかなそうなのはなんとなくわかる。
「愛斗、後ろの四台くらいにミサイルポッド一箱ずつ、それに補充弾の段ボールと一人一人銃を持ってる。運転手や予備もある!」
「サンキュー夢愛!よぉ~し...」
確かこの先の道中には中間チェックシステムがあるはずだ、そこまでに決着をつけたい。間に合わないと一般道にまで被害が出かねない。
「ロビン、お前の魔法で奴らの視界を奪え。その間に俺が決める!」
「...えっ、あっ、了解っす!覚悟しろよ...暴走族ども!」
『”ホワイトアウト”!』
ホワイトアウトは光魔法の一種だ。彼は光魔法が得意だったのは覚えている。白い光を自分周辺に放ち、相手の視界を強すぎるくらいに奪う攻撃的な魔法だ。
「うわぁっ!!」
よしよし、車の挙動がおかしくなったな。
「ロビン前に出ろ、魔法を唱える!」
「うっす!」
「お前ら、歯ぁ食いしばれよ...」
『”ファイアフロア”!』
ファイアフロアは炎属性の魔法であり、床・地面に火を蔓延させ、足を踏み入れづらくする効果がある。魔法製の炎は特殊なため、タイヤのゴムも勢いが良ければ溶けてしまうだろう。ミサイルも安定した場所じゃないと狙いを定められないはずだ。
「おいお前、止まれぇーーー!!!」
「無理です、ブレーキが利きません!!!」
「ミサイルを今すぐ撃て!」
「でも照準が...」
「いいんだよ、おのれ~覚えとけよガキどもぉ!!!」
予想通り前の車からタイヤが溶けてコントロールを失い、後ろも抑えきれずに追突して多重事故。ミサイルも真上に発射されたために花火のように散って爆発した。
「っしゃあ!」
「流石愛斗先輩!」
「愛斗、警察に連絡する?」
「いや、ミサイルの爆発で大人も気づくでしょ。それに今は俺たちも簡単に顔を出せないんだ。このまま研究所に行こう」
「うん...わかった」
ピピピッ!
バイクの通信機に煌次から連絡が入った。
「よう煌次、今終わった。今から進んで合流しよう!」
『今の爆発はなんですか?』
「あいつらのミサイルが上空に向かって花火したんだよ」
『わかりました、スピードを下げて走ってます』
「ああ...」
ため息をつくと、俺にしか聞こえないくらいの小さな声で一言放った。
『お疲れ様です、愛斗』
〈輝昭の研究所前〉
事なきを得た一行は愛斗先導の元、無事輝昭の研究所にたどりついた。本当に変な奴に絡まれるとは正直思わなかったが、捕まることがなくてよかった。
「ふぅ~...ん?」
「これ、オレらのバイクじゃないよね。愛斗君以外にも客人がいるのかな?」
「まあ、敵じゃないといいけどな」
前に輝昭さんの教えてもらった通りに柱のパズルに回答すると、地下階段が出てきた。どんなにすごい人かはまだ知らないけど、相変わらず大がかりな仕掛けだ。
コンコン
「輝昭さん、入りますよ?」
『ああ、入っていいよ』
「失礼しまs...って、なんで部長がいるんですか?!」
さっきの男性も一緒だった。...まさか人に言えない行き先ってここのこと?
「あれ、君たち...!」
「お前たちこそ、どうしてここに?!」
「愛斗君たちが来るとは思ってなかったな...そうだ愛斗君、あとお友達も。この男性を紹介するよ」
「え?」
「彼はあの有名なサッカー選手の”上田リョースケ”さんだ、知ってたかな?」
「はっ...?!」
輝昭さんから”リョースケ”という名前を聞いてようやく誰だかわかった。そう考えるとさっきの外での対応はとんでもない失態を犯してしまっていた。そうだそうだ、サッカーのプロ選手だ...あ~なんで別高校のコーチとか考えちゃったんだろう。
もちろん他のメンバーも一斉に驚きの声を上げた。
『えぇ~~~~っ!!!』
Tips:ハートスタイル/心理属性判別試験
全世界の人は小学一年生の6才、中学一年生の13才、そして高校一年生の16才の三回に全員が受けなければいけない「自分の心の在り方」を見極める試験であり、魔法適正もそれの結果によるのではないかという見方が大多数である。試験が終わると「心理傾向」として、炎、氷、雷、風、水、音、天、地、光、闇の10属性に分けられ、プロフィール兼個人情報として取り扱われる。




