1R.鎮火剤
「夢愛、もう出てきていいぞ。こいつは気絶した」
「で...でも、爆弾を止めに行かないと!」
「ああ、絶対に阻止しないと!」
ピーッ...!
「なんだ、放送?」
一瞬思った通り、放送が流れてきた。あっけない登場に少々苛立ちも覚えそうだったが、爆弾のことを優先し耳を傾けた。
『待つんだ、君達さっきの少年と少女だろう?さっき君達から起爆装置を引き渡してもらった輝昭だ、建物内の邪魔者を退治してくれてありがとう、部屋の入り方の正解を教えるから待ってくれ!』
まさかの輝昭さん本人だった、どうやら俺たちを含む侵入者が信用に足る人物か見極めるために今まで姿を現さなかったらしい。
「爆弾はどうするんだよ、時間があるんだよ?!」
『今倒れているそいつから情報を聞き出したほうが効率がいいだろう?』
「まあ...そうか」
輝昭さんに促されて動き始める。
『二本の柱のどこかに、うっすらと手形があるのはわかるかい?』
よく見ると、確かに手を当ててくださいと言わんばかりの手形マークがある。でも本当に薄っすらとしか見えない、そりゃ見つからないわけだ。
「これか...」
『時計回りになぞった後手のひらを中に当てるんだ』
夢愛と一緒に左右の柱に黙ったまま手を当てると、中央の床が大きく揺れて開き、地下につながっている階段が出てきた。
「...一つくらいヒントぐらいくれてもよかったんじゃ?」
『初めてのお客さんはちゃんと見てから会うことにしているんだ。まず入ってきてくれ、最終的に爆弾は止めないといけないのは同じだろう?』
早く爆弾を止めたい気持ちと輝昭さんにいろいろ聞きたい気持ちでいっぱいになりながら二人で階段を降りると、また頑丈そうな扉があった。
「輝昭さん、入れないんですけど!」
ゴォォーーー...
重そうな扉が内側から勝手に開けられると、ようやくさっきの人に対面することができた。一体ここまでどのくらいの時間をさまよっていたのだろう?
「ようこそ、わたしの研究室へ...とゆっくりしていられない。ずっと敵が侵入してたものだから君達でも簡単にここに入れることができなかったんだ」
「...はぁ」
「...それで、俺らは何をすればいいんですか?」
「奴らが爆弾に時限機能を設定しようとしているのはわかった。でも爆弾の位置が変えられる可能性も否定できない」
確かにそうか、爆弾が解除されないように設定するだけならもちろん見つけることが容易だと思っていたが、意外といろんな可能性を考えられてない自分がちょっと悔しかった。
「そこで、さっき君が倒した奴に追跡機能と盗聴機能を仕掛けて泳がせる」
「泳がせるにしてもどうやって起こすんです?俺結構力入れちゃいましたよ?」
「そのためのアイテムを用意したんだけど、まさか君があの妃崎愛斗だとは思わなかったよ。魔法の組み合わせを容易く実行してしまうウィルシティのNo.4なら他の方法がある」
「...人を起こす魔法なんてありましたっけ?俺も全部の組み合わせを試したわけじゃないんで、わからなくて」
「わたしが考えるなら...雷魔法の電撃と光魔法の回復を使って、AEDのようなことはできないかい?」
その手があったか。人に助けてもらってばかりな感覚が溜まっていたのか、どうにか自分の手で役に立ちたい一心で体が勝手に動いた。
「...やってみます、追跡機と盗聴器を僕に貸してもらえませんか?」
「いいけど、いいのか?」
「待って、愛斗。私も行く!」
手際よく装置を受け取ると、階段を異常なスピードで上りさっき倒した奴のもとに走った。
「じゃあ輝昭さん、また後で!」
と言いながら。見ていた輝昭は少年少女の元気な姿に圧倒されていた。
「...元気だなぁ。自分も結構若いつもりだったけど、敵わないや」
気絶している人間に二つの機械を仕込むと、新しい魔法を唱える。
「いきなり新しい魔法なんてできるの?」
「やってみにゃわからんだろ?」
『”エレキヒール”』
光が充満すると、二人は左右の柱にそれぞれ隠れて様子を窺った。数分待っていると、魔法の効果が表れてひとまず安心した。ここで起きなかったりしたらまた輝昭のもとに行かなければいけなくなる、時間の無駄は全て省きたかった。
「ん...ここは確か、さっきガキにやられて、私は気絶したのか!まずい、爆弾を早くいじりに行かなければ!」
(よし、作戦通りにいけばいいけど...)
そいつが走って町の中心部に向かって行ったので、バイクで気づかれないことと急に方向を変えられることだけに注意をしながら尾行を始めた。
「愛斗、今16時だって」
「...なんだよいきなり。今それ関係ないだろ?」
「...いい加減にしてよ、私には夜練から逃げてるように見えるんだけど?」
「・・・」
「元々輝昭さんのもとに行くのも反対だったのに、”一緒に帰る”って言ったのを事件に付き合えって勝手に変換させて。何をそこまで追いつめてるの!」
「...否定はしないかも、最近辛かったからサボりたかったのかも」
「...こっちは本気で応援してるのに、関係ないことばっかり楽しんで!」
ここまで強く言われると思っていなかったのと事件に巻き込まれようとしている罪悪感もあって、心に傷がつくのがいつもより早かった気がした。運転している後ろから説教を聞くだけで抵抗できなかったから、心の中で反省を繰り返していた。
「悪かったよ、でも今夜の練習には絶対に間に合わせるから!」
「...ほんとぉ?」
「じゃあ賭ける?俺は必ず夜練に間に合わせるに賭ける!」
「間に合わなかったら?」
「夢愛の行きたい店連れてってやるよ!」
「行きたい...けど、愛斗にちゃんと練習もしてほしいしぃ~!」
「はいはい、間に合わせますよ~!」
偶然にも、奴が向かったのは俺たちが昼まで買い物をしていたお店だった。さっきから場所をまだ変えられていないとすれば当然か。でも爆弾が自分のすぐ近くにあって、本当に爆発したらと思うと冷や汗をかいてきた。
〈商業施設・とある場所〉
「...クソ、時間がないのになぜあんな邪魔が!」
カリは他より遅れた分を補うことに必死になっていた。魔法や武器を使える人間にどんな恨みがあるのかは愛斗たちにはわからなかったが、予定通り爆弾に時限機能の設定をしていた。
「なんだってあのNo.4が我々に目をつけたんだ...だがあのガキにそれだけの頭があるとは思えない!...ならやはり国の連中がすでに存在を嗅ぎつけて...?」
設定は最終段階まで進んでいて、あとは新プログラムをダウンロードするのみとなった。しかし爆発方法そのものを変えるため、完了にはそれなりの時間を要するようだった。
「こちらカリ...ボス、ショップの爆弾の設定がもうすぐ完了します、応答願います」
もちろん、追いかけてきた愛斗たちはその情報をリアルタイムで得ていることを奴は知らなかった。
『カリか?!...あのガキはやったのか?』
「いえ...時間は潰してしまいましたが、私は大丈夫です」
『...今、そのガキはどこでどうしてる?』
「わかりません、ですがまた邪魔しに来ると考えるのが妥当かと」
『一応聞くが、情報は言ってないな?』
「もちろんです、私はボスの忠告を必ずお守りいたします!」
『盗聴器や盗撮機はつけられてないよな?』
「...?」
そう言われると、身体中に手を当てて探し始めた。途中、ズボンのポケットに何か小さな機械が入っていることに気づいた。
「なっ、いつの間に!」
『この...バカ野郎!!!』
(...チャンスだ!)
『”ショックウェーブ”!』
「グワァッ!!」
『おい、どうしたカリ?...返事しろカリ!』
通信機から焦りの声が聞こえてくる、いや~気分がいいね。相手の使っていた機械を取ると、自分でも過剰だと自覚する大口を叩いた。
「あんたの部下にはたった今気絶してもらったぜ、ボスさんよ?」
『その声は...カリをやったあのガキか?!』
「そうだぜ?今俺の仲間にも別の場所を当たってもらってる」
「なんだと...!」
爆弾設置のボスは、通信機から愛斗の声を聞きながら別の仲間と自分の身を守るために頭を必死に動かしていた。
『ボス、助けてくだせぇ!なんか知らねぇ女のガキが爆弾のことを...ギャァァ!!』
「おい、どうした...まさかお前も!」
『どうやら夢愛も一人やったようだな?調べたところ今回の実行犯は三人、運が良かったなボス、最後の一人として華々しく捕まえてやるから覚悟して待ってな!』
プツッ...
大口を叩かれると、ボスは怒りと焦りに震えて爆弾の設定を急いだ。
「なんなんだあいつは...こうなったらひとつでも多く爆発を起こしてやる!未知の力を持った異物を排除しなければ、人間に未来はないと言うのに!」
ウィルシティのグレードカテゴリー・トップ10、甘く見ていた...No.4一人でこの実力となれば、それ以上の能力を持ったバケモノが少なくとも三人はいることになる。力に恵まれなかった人間のことなんてちっとも考えてないウィルシティや世界に対抗するにはどうすればいいかずっと考えていた。罪のない人間を巻き込んでしまうのは本意ではないが、平等な平和のためのせめてもの犠牲となってくれ...!
”Download Complete”
「...よし、これで二つ確保。奴らは全部の爆弾の位置はわからないはずだ...」
ボスは何かを考えながら、取り出した銃を自分の心臓に向けていた。
「先のことは頼んだぞ、同志よ...!」
...バァァン!!!
その男は、”同志”と爆弾の情報を隠し切るために、自ら命を絶ったのだ。
〈東京地区東部中心・とある場所〉
愛斗と夢愛は時に別行動をとりながら爆弾を探し当て、これまでに合計四つの爆弾を見つけ出すことに成功していた。公園、飲食店、工場、ビルに隠された機械を、音魔法を使って爆弾の内部機能だけに干渉しエラーを起こして止めたのだ。
残るは学校だけだ。
「夢愛、学校ってどこの学校かわかるか?」
「うん、東部にある第3418小学校の外グラウンドに埋めてあるみたい」
「これ輝昭さんもれっきとした犯罪者じゃん...どこでそんな情報仕入れてるのやら」
「とりあえず行こう、18時まであと一時間も無いよ!」
今日はやたらとバイクを運転する日だ、とまたどうでもいいようなことを考えながらその小学校に向かった。ウィルシティにいる海外からの学生は全員中学生以上、つまり小学生のみはウィルシティ出身者のみで構成されている。いくら学術に特化しているとはいえ、7才の子供を一人で留学させるのは成長に逆効果だと世界は判断し、ウィル以外の児童は原則的に自国の小学校に通うことになっている。
「ここが3418番で間違いないんだな?」
「うん、私が魔法で爆弾の位置を探すから、愛斗は爆弾解除の準備進めてて」
「オーケー」
この学校のグラウンドは小学校にしては大きいほうだった。学校が国中に密集するため、成長を見込んで小学校が優先的にグラウンドを配置しているそうだが、特に東京地区はグラウンドの面積が小さいことで知られている。愛斗ももっと小さめのグラウンドを想像していたため、爆弾を探す苦労が増えたと内心呆れていた。
「愛斗、多分ここ。急いで、あと三十分しかないよ?!」
「急かすな、ちゃんと解除するから...!」
フゥーーー...
運転とさっきまでずっと魔法を使っていた疲れで、中々魔法生成に時間が掛かってしまった。よくゲームには「魔力」の概念があるらしいが、リアルでは違う。学びたては教科書や魔導書に書かれていることを読み上げることで魔法が発動し、それを暗記できれば本を使わずにもできる。魔法が使える人とそうでない人の違いに明確な区分となる証拠は無いのだが、世界は”才能”や”相性”と称して府に落としている。
「愛斗まだ...?!」
「うるさい、もうすぐだから静かにしてくれ!」
爆弾の中枢機能に丁度干渉できそうだった。時限設定はどうやら元のシステムを根本的に変えたもののようで、解析に一つ一つ時間が掛かり、人によってもプログラムの導入方法が異なっていてそれも時間を費やす要因になってしまった。
「...できた!」
「...やったね愛斗、私たちが町を守ったんだ!」
しかし、二人は爆弾の全てを解除したわけではなかった。
”バァァァン!”
「...なんだ、今の音?」
18時丁度、”六個目”の爆弾が爆発を起こした。
Tips:大昔の出来事
大昔に惑星アースが体験した「絶望」以外の何でもない出来事。その終わりを迎えた頃に生き残った人間の多くが、気を取り直した瞬間の印象は深夜だったと言っていたことから、「ミッドナイト」と人々は呼んでいる。




