1M.着火剤
輝昭の車を追った愛斗と夢愛のバイクは、ひとつの研究施設のようなところで停めることになった。
「本当にあの人研究者だったの...?」
「...そうらしいな」
バイクから降りてしばらく歩くと、おそらく彼が入った玄関口が見つかった。それにしてもウィルという国の中心部から少し離れただけで、こんなに木に囲まれた場所があるなんていつ見ても信じられない。俺もサッカーの別会場練習のために何回か通ったことがあるのに全く気付かなかった。...まあそれでなくとも「どうせ空き家だろう」と知らぬふりをしていたかもしれないが。
「ねえ愛斗、ホントにこの中に入るの?...今からでも遅くないよ、事件は大人に任せて帰ろう、ね?」
「強引に連れて来たのは悪かったよ、でもお前は一人で帰るつもりは無いんだろ?それに服を選んでた分の時間、俺にもくれって」
「・・・」
ドアノブがある建物が存在していること自体に驚きそうだったが、今はそうじゃない。扉を引いて中を確認すると、アニメで見る王宮のような間が広がっていた。
「フゥーッ...!」
「...なにしてんの?」
「ごめんくださぁーい!!」
とりあえず挨拶した。
「ちょっとなに大声だしてるの、見つかって怒られちゃうよ!」
「...夢愛、俺たちは建物に潜入しに来たんじゃなくて輝昭さんに会いに来ただけだぞ。なんでこっそりしなきゃいけないのよ?」
「...っ!」
「...悪かったって!」
さて、輝昭さんは来てくれるだろうか?
・・・。
「...いない?」
「他に建物があったとか?」
「でも車はあった。仕方ないが、一回外に出てみよう」
今度は扉を押して外に出る。愛斗は生まれて初めてドアノブを触ったことに実は心の中で感動していた。扉の重さを感じつつも、スムーズに別の空間に入ることができる。大昔にこれを考えた人に会ってみたいとひとりで勝手に思っていた。
「やっぱり車はある。もっと中に入らないといけなかったかな」
「え~また入るの?なんか不気味で怖いんだけど...」
「やっぱり先に帰ってるか?バス代なら今回だけ出せるけど」
「それはヤダ。愛斗、私に早く帰れって思ってない?」
「ぜんぜん?」
「...ッ!」
「...ごめんなさい」
沸点が低くなりつつある夢愛をうまくカバーしながら行動するのは大変だったが、もう一度研究所の中を探索も兼ねて進んだ。木々に囲まれているからなのか、周囲の騒音が全くしない。そもそも大きな音を出す機械を使っても防音性の高そうな建物に見えるため響かなそうだったが...そりゃ人の大声も聞こえないわけだ。
廊下を進んでは階段を上り、また廊下を進んでは階段を上る。「輝昭」のネームタグが貼ってある部屋が一向に見つからない。
「ハァ...見かけによらず大きいな」
「ハァ...でも他に誰もいないよ、輝昭さん一人だけのとこなの?」
また階段が見えてきた。
「...おいおい、まだ上があるのか?」
「エレベーター無いの~?」
「...夢愛、静かに。人の声がする」
絶望しそうだった...していた時、会話が聞こえてきた。なんて言っているのかは分からなかったが、ここでこの少女の出番だ。
「...会話してる。お前の音魔法使って会話聞きとれないか?」
「えっ...普段は魔法使っちゃいけないんだよ?」
「非常事態になるよりはいいって、頼む」
「...わかった」
夢愛は目を閉じると空気の振動から人の声を聞き取る音魔法を使い始めた。彼女のハートスタイルは確か「音」だったはずだ。俺も魔法はそれなりに使えるが、音魔法に関しては「自分の方が得意だ」と自慢気に話していたのを覚えている...やっぱり連れてきてよかった。
「・・・」
魔法発動の邪魔だけしないように見守っていた。
「ふむふむ...」
(おっ、キャッチできたか)
「ん~...」
魔法は使えるものなら全員授業として同じものを受けているはずだが、ハートスタイルや魔法適正など要素は複雑らしく、人によって使える魔法に制限がある場合があるらしい。俺のハートスタイルは「雷」、自分でも雷魔法は相性がいいと感じるが、他の魔法も普通に使うことができる。でもほぼすべての魔法を使える人は希少らしく、俺の高校で「魔術史」の先生がほめてくれたこともあった。
「...!」
「・・・」
「...はぁ、はぁ!」
夢愛の息が上がっている、何かまずいものでも聞いたようだ。
「もういい夢愛...やめるんだ!」
「はぁ!...あ、ありがと」
「大丈夫か?わかったことだけで十分だから」
「うん、多分愛斗が拾った爆弾を仕掛けた人たちだと思う」
「わーぉ...」
「ここを勝手に拠点にしてるっぽい、今夜実行予定だったけど起爆装置を落としたみたいで焦ってた」
それを聞いて焦りが一瞬で吹き飛んだ、俺の判断は間違ってなかった!
「俺たちの苦労が報われるかもしれない!」
「どうやって?」
「まずは一刻も早く輝昭さんに会おう、じゃないと話にならないからね」
〈研究所のある建物の四階〉
「で、起爆装置は見つかったのか?」
『ボス、もしかすると装置が誰かに盗られたかもしれないっす!』
「バカ野郎、なんでそんなにヘラヘラと喋れるんだよ!」
『ひっ...!』
「まあ落ち着いてくださいよボス、今回仕掛けたのは時限機能付きの爆弾です。実行までにまだ時間はある...起爆スイッチを押さなくてもいいように設定し直せばいいだけの話ではありませんか?」
「む...確かにそうか、一人二つで間に合うか?」
「私は大丈夫です」
『いけるっす!』
「じゃあ各自進めろ、俺も一ついじってくる。終わったらここに集合、いいな!」
〈研究所のある建物の一階・入口〉
「ここまで見つからないとすれば多分、輝昭さんは研究場所を探られないようにカモフラージュしてる。一番可能性があるとすればここだ」
「でも本当にあるのかな...?」
「ある。”灯台下暗し”って言うだろ?」
「でも玄関辺りにドアなんて一個もないよ?」
「とある箇所に手を当て続けたり、またとある箇所に立ち続けるとかすれば意外といけるんじゃないのか?」
「夜練間に合わないよ!」
自分の心に”事件を解決できるかもしれないんだ”、”町中の爆発を止められるんだ”と言い聞かせて無我夢中に探し回った。だがやはり見つからない。
「愛斗、私もう一度音魔法使ってみるね」
「待った、心身はちゃんと回復したのか?」
「うん、隠し扉がありそうなところを探すだけだから大丈夫!」
「なら...お願い」
もう一度精神を整えて魔法を使い始めた。俺の考えが間違っていたらと考えると不安だが、なぜかここに絶対にあると、確信に近い感情を今は持っている。
「...!」
夢愛が驚きの反応をした。
「?」
「犯人の人たちが来る!」
「...おいおい、奴ら今度は何するつもりだ?」
「もうちょっと待ってて...もっと集中して思考まで!」
「いや、まず隠れないとヤバいだろ!」
無理やりだが、柱の陰に隠れてやり過ごそうと試みる。まだ小さいが、俺の耳にも足音が聞こえてきた。一人じゃない、もしかして総当たりで起爆装置を探しに?
(...フッ、バカな奴らだ、装置ならここのどこかにいる輝昭さんが持ってるってのに。足音を聞く限り急いでそうだし多分間違いない!)
とうとう走る足音が同じ空間にあることを認識すると、うまく誤魔化せていることもわかって安心した。後はゆっくり隠し扉を見つければ、いける。
「あ!」
(...おぉぉい夢愛ぇ!!!)
足音が止まってしまった。
「...なっ、そこに誰かいるのか?!」
「だが、いても数人だけだ...ボス。あなたは早く爆弾に設定を、ここは私が何とかします、なのでせめてひとつでも多くの爆弾を起爆させてください!」
「...わかった、死ぬんじゃねぇぞ!」
「ええ、後は頼みます」
夢愛には悪いが、読み取った情報がなんとなく俺にもわかった。起爆装置は無くなっても時限機能を付け足して爆発を可能にしようとしてたようだ。さっきまで全く、そんな考え方はなかった。
「出て来なさい、私たちの邪魔をするなら容赦しませんよ」
それを聞いた夢愛は泣きそうになっていた。
「どっ、どーしよう!」
「...あいつと戦ってみる、隙を見て避難するんだ、いいな?」
小声で伝えると一人で柱の表側に歩いた。
「ほら、出てきたぜ?」
「お前か、私たちの計画をどこまで知っている?」
「たった今仕掛けた爆弾に時限機能を付けに行くとこなんだろ?...なんなら商業ビルで起爆装置を拾ったのも俺だぜ、別の人に預けちまったがな?」
起爆装置がもはや意味をなさなくなった今なら言っていい気がした。
「なに...!貴様、何者だ?!」
「いや、たまたまあそこでショッピングしてた一般人だけど?」
「私はコードネーム:カリ、貴様の名も名乗ってもらおう!」
自分で言ってて恥ずかしくないのかこいつは、それれっきとした悪役のセリフだぜ?
「いいぜ、本当は戦いなんてしたくないんだけどな?」
意識して息を吸うと、子供の頃に映像上で見たヒーローをイメージしながら決め台詞っぽいものを言葉にしてみた。
「俺は妃崎愛斗、ウィルシティのグレードカテゴリー”現No.4”の男だ!」
(うん、自分で思った、恥ずい)
「なっ、あの魔法使いのNo.4?!なんでそんな奴が...いや、国の連中が俺たちの動きを察知して計画を潰しにきたというのか!」
「えっ、いや...だからたまたまだって言ってんじゃん!」
(でも名乗ったせいでこれから狙われちゃうな、これは)
「クソガキが、死ねやぁ!!」
「おわっ!」
結構大きな銃を持って怒りのままに発砲してきた。
「おまえ...危ねぇだろうが!」
「同じ人間のはずなのに、格差があるなんておかしいんだ!異能の力を持った人間はこの世界のゴミだ、消えてなくなれ!!」
自分たちが魔法も武器も扱えないからって世間に八つ当たりってことか、これはもう救いようが無いと思うしかなかった。少々気の毒かもしれないが、自業自得だ。
愛斗は柱に隠れながら会話を続けた。
「なあおじさん!この世界にはどれくらいの人間がいて、そのうちのどれくらいが魔法を使えるか知ってるか?」
「なにぃ...?」
「俺たち学生だけで考えれば、大学卒業までに魔法を使えるようになるのはたったの三割、ついでに言えば、武術をマスターできる奴も二割しかいなんだぜ?」
「...だから、そんな異物を作った世界を終わらせるんだ!じゃないと...能力主義の社会がいずれ完成し、無能な人間は虐げられる未来になりかねない!」
無能力のまま成長した人間にも悩みがあると聞く、それは魔法を使える者や武器を極めている者に対する妬み・嫉妬。「人間と言う同類の種族で差が出るのはおかしい」、「異能は世界にとっての異物」だと心に言い聞かせるらしい。
「・・・」
「お前もこの世界の平和を望むなら、死んで貢献しろ!」
「・・・」
「皆の命が平等であるために!」
だが、魔法を普通に使える俺にとって一生理解できる感情ではない。ただ嫌味をぶつけてくる人間を、軽く信用しないと決めたんだ。だから今、俺は怒りを持っている。
「はぁ...皆の命が平等とかって...魔法が使えても武器を操れても、俺たちが人間であることに変わりない!お前が今言っていることはなにもかもが矛盾してる...全然平等なんかじゃねえよ!」
「世界の犬が...今はお前だけでも殺してやる、No.4!!」
「言ったな、手加減しないぜ?...歯ぁ食いしばれぇ!」
愛斗は魔法を唱えた。
『”ショックウェーブ”!』
雷魔法と音魔法の合わせ技、電撃を音の振動に組み込んで相手の動きを止めるための波動を形成・発射する愛斗本人が編み出したオリジナル魔法である。
「うぅ...!」
もちろん、空気の振動と強い電撃を同時に浴びせたため普通の人間なら気絶してもおかしくない、案の定こいつは失神した。例えるなら...”よく響く部屋で楽器の演奏を聴きながら強めの静電気を受ける感じ”って言えば伝わるだろうか?
「夢愛、もう出てきていいぞ。こいつは気絶した」
「で...でも、爆弾を止めに行かないと!」
「ああ、絶対に阻止しないと!」
Tips:ウィルシティのグレードカテゴリー
ウィルシティで学習に取り組む小学生から大学生までの全学生を対象に、全国で総合的に成績が特に優れている上位10名を国がランキング形式で毎年公開している。成績といっても勉学だけではなく、物理的な身体能力、魔法や武術などの技術、その他の個性的な特徴、とランクインの理由は人によって様々である。




