1F.起爆剤
ウィルシティという国がある。S.S時代を構成する12の国の一つで、世界中の学生が集まる学術に特化した都市である。ここで保育園から大学生まで過ごすウィル人もいるが、半数以上は他の国から来ている。この国の学校では「部活動」と呼ばれる
概念があり、人がグループになりいろいろなことをして極めるものだ。それは勉学からスポーツ、芸術に関することまで幅広い。これから覗く少年も参加している。
ーーー
〈妃崎家・自宅〉
「お兄ちゃん、そろそろ起きてよ!」
ベッドに寝ている少年と、彼の弟と思われる人物が一軒の建物の部屋にいた。落ち着いた様子ではなく、弟は思いっきり兄の腹にパンチした。
「ギャァーーーッ!!!」
うん、鶏よりもうるさいに違いない!
「どう、効いた?」
「痛てぇ...パンチなら肩にしろって言っただろ!」
「パンチはお腹にするのが一番気持ちいいんだもん!」
「ハァ~...なあ奏多、今何時だ?」
「九時だよ」
「うわ!あっぶねー」
「いやお兄ちゃん、今日は夜練だよ。まだ時間はあるけど寝ぼけサッカーは良くないよ、それにお兄ちゃん...お昼に大事な約束あるって言ってなかった?」
「うわぁ、あっぶねぇ...」
「もうすぐ家に来る頃じゃない?」
「ああ、準備するから早くベッドから降りてくれよ」
今日はサッカーの夜練、幸いにも俺の高校には補欠も含めて試合に出場できる人員が揃ってる。でもその前に、昼食をとある人と約束してしまっている。俺たち妃崎家と幼馴染となっている日野家の女の子なのだが...これがまあ元気いっぱいな奴で、いつも通り振り回されて練習に支障が出ないか心配になる。
玄関を開けると、すでに少女が立っていた。マンガやアニメであれば、彼女には幼馴染特有の気配という描写が備わっているはずであるが、それを全く感じさせない彼女は果たして正常なのだろうか?
「夢愛、もう来てたんだ?」
「おはよう愛斗、私も今来たから大丈夫だよ。もう準備できた?」
「すぐできる、外で待たせるのもあれだから玄関にいてもらおうと思って」
「そっか、今夜サッカー部の練習あるんだっけ?」
「でも夜だし、大丈夫だろ?」
「愛斗がいいならいいけど、倒れないでよ?」
「おーいお兄ちゃん、話ばっかしてると時間なくなるよ?ほら、大体の荷物入ってるんでしょコレ!」
奏多が手に掴んでいた俺のバッグを玄関方向に向かって投げてきた。無事キャッチ出来たがいきなりこれはないだろう、奏多がいる位置と玄関は結構な距離があるんだぞ...?
「奏多、相変わらずお兄ちゃんには厳しいね!」
「お兄ちゃんのデートの時間が減っちゃうからね!」
「奏多、まさか俺に嫉妬してるのk...」
「夢愛ちゃんお兄ちゃんのことよろしくね、じゃ行ってらっしゃ~い!」
「おぉおい、俺のセリフ切るな!」
強引に話を遮断すると背中を強く手で押して玄関の外から追い出されてしまった。変な感想だが、自分の家から追い出される経験をここで初めて経験した気分は気分がいいものでも悪いものでもない普通の感覚だった。
〈東京地区東部・商業施設並列街〉
二輪型DGを走らせて国の中心地区東部に来ていた。ウィルシティの中心は実は住居はほとんどなく、商店街や教育委員会本部が置かれている。ただ国の機密情報や法に触れない限りは誰でも入ることができ、平日は仕事人や教師が、週末は観光客や買い物客で混むのが当たり前の場所だ。
「『さてどこ行きたい?』...って言いたいとこだけど、俺ここに来るの久しぶりだから何があるのかわからないんだよ、道案内は任せた」
「じゃあWind-Ocean行っていい?」
「あのずっと人気な店か、何買うんだ?」
「新学期始まったばっかだけど、夏に着る服ほしいかも。あのお店、一季節先のものまで普通の並んでるから、私も早めに揃えちゃおうかなって!」
「へぇ~、せっかくだから俺も見よ」
「いいね、私がまた選んであげよっか?」
「最終的な結果がどうあれ、俺にも選ぶくらいのことはさせてくれよ」
「はいはい」
ちなみに今日は休日、だから観光客や買い物客が多い日だ。例に漏れず今日も歩くだけで疲れてしまいそうだが、夢愛の怒りの爆発だけは避けなくてはならないのだ。アレは本当に怪獣なんだから...
『続いてのニュースです...』
「ん?」
ニュースなんて普段から流れいるものだが、たまたま今だけはなぜかモニターに目が向いた。どうやら最近この辺りで同時放火や窃盗が未遂だが相次いでいるらしい。
『犯人は以前逃走中で、警察及びTIMERは現在も事件の関連性を含めて調査中です。国民に対しても、情報提供の協力を求めています...』
「どうかした?」
「いや、たまたまニュースが目と耳に入っただけだよ」
「放火とかの事件?...犯人って何人いるんだろう」
「人力で事件を起こそうなんて普通は考えないのに、よっぽどの自信家かただの世間知らずのバカのどっちかだな。上の連中がいてもせいぜい一人や二人が限界じゃない?俺犯罪したこと無いから知らないけど」
「そ~ねぇ~」
(俺の話聞いてたか?)
〈???〉
「おい、この建物は終わったか?」
『へい、ばっちりっす!』
『ボス、今夜の一六〇〇に五か所で作戦決行でしたよね?』
「そうだ、ちゃんと時間の設定したか?」
『はい、後は一か所の高校のグラウンドだけ...学校周りは目立つので夕方ごろに設置を予定しています』
「...わかった、絶対に怠るなよ。これは俺らの運命がかかってるんだからな。では、また夜に指定ポイントで落ち合おう、解散」
『『了解』』
〈Wind-Ocean・出口前通路〉
「ん~この服もいいけどあっちも似合いそうだったよねー!」
「・・・」
「愛斗、選んで買ったのになんで笑ってないの、あっちの服の方が良かった?」
「...なんで夢愛より俺の服を選ぶ時間の方が多いんだよ!」
「だって~、人の服選ぶの楽しいじゃん!」
夢愛の服を数着買ったのはほんの十数分、比べて俺の服を選んだ時間...はっきり言えばこれも夢愛が選んでいた時間だが、倍以上の一時間弱...なんでこうなる!
「まあいいけど...」
...カツッ!
足元に何か踏んでいる感覚がした。固い、機械か?
「なんだこれ、スイッチ?」
「ボタンみたいだね、押してみれば?」
「なんで押すんだよ!万一これが爆弾の起爆装置だったらどうすんだよ」
「それもそっか、でもどうしよ。警察に届ける?」
「ん~...でもここら辺の警察ってどこにあったっけ?」
『近くにはないから、いったん僕に解析させてもらえないだろうか?』
前の方から若い成人男性の声を出す人が立っていた。ワイシャツ姿で仕事人のようだが、なんでその格好でここにいるんだ?しかも変な装置を持っている。
「誰?」
「あ、僕こういうものでして...研究者をやってるんです!」
名刺を渡されるとこれまた目を疑ってしまった。輝昭和馬、研究者と書いてある...だからなんだって感じなんだが?
「君が持っているそれ、多分爆弾の起爆装置だと思うよ」
「マジで?!」
思わず大声を出してしまった、それに反応した周りの人たちも放火犯の実行人だと勘違いを起こし始めた。こんなもの持っておいてなんだが、俺が一番困惑していることも理解してほしい気もする...誰だよこれ落としたバカは!
「ちょっと、あの子ニュースの犯人じゃないの?」
「闇バイトか、オレ警察に連絡します!」
(あ~まずいな...)
近くにいた人は逃げ出すなり俺らを睨むなりして威嚇していた。実際に犯罪を犯している人はどういう気持ちで人々の目を受け取るのだろう?
「待ってください、皆さん!この子たちは偶然怪しい機械を拾っただけです、私は研究者なので厳重な保管のもと、分解作業を行います。決して皆さんに迷惑をかけることはいたしませんので、ご理解ください!」
輝昭さんも必死に擁護してくれたが、中々場が収まらない。それにしても若いなぁ、外見は新卒社会人と全く大差ない。これで研究者をやっているとなれば、だれかの弟子をしていたのだろうか?
「皆さん、どうか落ち着いて...!」
「一体何の騒ぎだ?」
「「「?」」」
俺ら三人にまた新しい絡みが来た。もしかして警察...ではなさそうだな、私服だ。
「私はTIMER東京地区西部所属、ミシシッピ・シーザーズだ。ここは私の担当でも担当日でもないが、たまたま騒ぎが起こっていたものでな。臨時任務にあたらせてもらおう」
「たっ、TIMERだって?!」
「いいじゃん愛斗、さっさと回収してもらおうよ!」
しかし、ミシシッピを見た輝昭は驚きとも感動ともとれる表情をしていた。
「あなた...本当にミシシッピさんなんですか?!」
「む...お前さん、私と会ったことがあったか?」
「はい、当時私は幼かったですが、室町良先生の弟子としてご一緒していた輝昭和馬です!」
(え...あの室町博士?そんなすごい人の弟子がこの人だってのか?!)
「おお!あの時の少年か、大きくなったもんだなぁ!!」
「それでなんですがミシシッピさん...これに関してお願いがありまして...」
〈???〉
「おい、それはどういうことだ!」
『こいつが商業施設に設置している間に起爆装置を落としたらしい』
「おい、〇〇!」
『すんませんっ、退避するときに落としちゃったみたいで...!』
「言い訳はいいから、さっさと探せ!誰かの手に渡れば計画が台無しだ!」
『は、はいぃ!』
ミシシッピさんにどう伝えたのかはわからなかったが、俺たち大衆には「皆さんに本当に言いたいのは、これはただのオモチャであり、危険物ではないということです!」と説明して事を治めた。輝昭さんは起爆装置を持ったまま場を去ると、駐車場の四輪DGに乗り込んでいるところを離れたところから見ていた。彼はもちろん俺たちにも帰っていいと伝えた。だが...
「・・・」
「愛斗、練習あるんでしょ?いくら気になっても、関わっちゃいけないことで...」
「ごめん夢愛、俺は輝昭さんの後を追っかける」
「・・・」
「バス代なら俺が出してやるから」
「練習に遅れたらどうするの?」
「...事件に巻き込まれたって言ってどうにかしてもらう」
「奏多くんにはどう言うの?」
「お前に頼んでもいいか?」
「...ヤダ」
「ヤダじゃない、俺は行きたい」
「私は愛斗を意地でも一人で行かせないからね、私も免許は持ってるし、運転だけだったら...!」
怒らせそうだな...このままだと輝昭さんの車が行ってしまう。しょうがないか...
「最終的に二人で家に帰ればいいんだろ?...だったら、お前も一緒に来い!」
夢愛の手を掴んでバイクにエンジンをかけた。
「ちょっ...えぇっ?!」
第一発見者である俺は納得がいかず、夢愛を連れたまま輝昭さんの車を追いかけた。もし爆弾があるなら爆発は確実に今夜だったはずだ、犯人は誰かわからないままだが、真相を知る権利が自分にもあると思ってひたすらバイクを走らせた。
「夢愛、さっきの事件ニュースって最近見てるか?」
「さっきって...放火とか窃盗が起こってるってやつ?結構見てると思う!」
「どこで事件が起こったかって覚えてるか?」
「えぇ?!っとね...確かどっかの公園、飲食店、工場、学校、あとこの近くのビルだったはず!」
(その同時放火や近くで起こった窃盗が同日行われたが、すべて”未遂”で終わっていると言っていた...なら場所を変えてもう一度なんてことがあるかもしれない!)
無理やり過ぎるかもしれないが、さっきの起爆装置を見たら全部が想像できそうで怖い。とにかく気を治めるためには輝昭さんに話を聞くしかないと思った。
「待ってくれ輝昭さん!」
・この物語の最後に、世界観に理解を深めてもらうための豆知識的なものを書きますので、ぜひ読んでみてください。
Tips:特別事態調査部隊TIMER/タイマー
惑星アースの12の国全てに存在する組織で、警察のみでは対応しきれない事件や過去に事例の無い異常といった、特別な事態が発生したタイミングでのみ出動する、警察系の最上位部隊。そのメンバーの多くは警察のエリートから選出されているが、スポーツの世界大会優勝経験者など、一部の能力が長けている者をスカウトすることもあるらしい。




