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C++(カフェインプラスプラス)  作者: 雲居 残月
第二章 スタートアップ

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9/12

2-4 残影

 タクシーに乗ろうとしたが、上手く捕まらなかった。二十分ほど歩き、葉月がかつて住んでいた賃貸マンションの前までやって来た。築二十年といったところか。葉月の両親が入居した頃は新築だったのだろう。その後、父親がDVで刑務所に入り、何年も経ったのち母親も姿を消した。

 福原はスマートフォンの時計を見る。ちょうど昼飯時だ。食事をしてから移動すればよかったと後悔する。葉月がいた部屋がどこか分からないので、端から順番にインターホンを押して聞き込みをする。

 十回以上空振りを繰り返したあと、ようやく葉月のことを知っている相手にたどり着いた。この賃貸マンションに二十年ほど暮らしているという六十代の女性だ。噂話が好きそうな痩せ気味の住人は、葉月のことを教えてくれた。

「浅村さんのところ、ちょっと変わっていてねえ。同じ階の人は、気づいていたんだけど。家の中でね、子供に女の子の格好をさせていたのよ」

 女装をしていたのではなく女装をさせられていた。あの姿は葉月の趣味で始めたのではなかったのか。親の強要が原因だったのか。

 福原は、さらに詳しい話を尋ねる。女性は話し相手が欲しかったのか、嬉しそうに答えてくれた。

 葉月の母親は、女の子が欲しかったそうだ。だから男の子の葉月に、家では女児の服を着せていた。葉月という名前も、おそらく女性に見えるからということでつけたのだろう。福原は、葉月の父親や母親について尋ねた。

「旦那さん、DVなんてする感じじゃなかったのよね。大人しそうだったし。逆に、しそうなのは奥さんの方。男の子に女の子の服を着せるのも虐待の一種でしょう。もしかしたらDVは虚言で、ていよく旦那さんを追い出したんじゃないのかなって思ったりするの。あの奥さん、ちょっと怖いところがあったから。物言いがきつくてね。急に怒鳴ることもあったのよ」

 虐待していたのは父親ではなく母親だったのかもしれない。父親が逮捕されたのには裏の事情があるのか。父親がいなくなってから葉月は、DV加害者の疑惑のある母親と二人で暮らしていたのか。

「浅村さんの奥さんは家を出たと聞いたんですが」

 女性は眉を寄せる。

「出たというか失踪よね。仕事も家も放り出して忽然と消えたから。葉月くんは、お母さんが帰ってくるのを待っていたみたいだけど、けっきょく戻らず引っ越したの」

 ほら、あそこの部屋、と女性は扉を指差す。

 家賃はどうしたのだろうか、賃貸の契約はどうしたのだろうかと疑問が湧く。女性に尋ねたが知らなかった。祖父母あたりを頼ったのかもしれない。

 福原は女性に、葉月の両親の実家について、なにか知らないか尋ねる。そこからさらに情報を得られるかもしれないと思った。

「入居したての頃は、双方の両親がよく来ていたわね。でも、旦那さんが逮捕されてからはねえ」

 疎遠になったというわけか。どこにいるのかは、さすがに知らなかった。長いやり取りを終えたあと、福原はお礼を言って女生と別れた。

 マンションの入り口から外に出た。舗装された道路を歩きながら福原は考える。葉月の母親が失踪した原因はなにか。葉月が自分の障害を取り除いたのではないか。そして、カフェインプラスの邪魔になる人間も、葉月が消しているのではないか。

 それに――福原は考える。

 葉月は福原たちのもとに来る前から、おそらく御堂のことを知っていた。引っ越したのも御堂の近くに行くためではなかったのか。

 葉月が高校時代の御堂を知っていて近づくためにやって来たとしたらどうなる。

 御堂を会社から引き離そうとした豊塚を排除した。それならば動機の辻褄は合う。もし葉月が人を消しているのだとしたら次は誰を失踪させるのか。競合企業のウェイの社員ではないのか。

「いや、そんなことはないだろう。全ては妄想だ。葉月は普通の人間だ。俺たちの大切な仲間だ」

 自身を勇気づけるように、福原は声に出してつぶやいた。


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