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C++(カフェインプラスプラス)  作者: 雲居 残月
第二章 スタートアップ

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8/12

2-3 訪問

 失踪から十日近くが経過したが豊塚は帰ってこない。警察も動いているようだが特に進展はないようだ。入金はすでに終えているので瀬川配下の社員を維持する金は問題ない。社員の中には異変に気づいた者もいるようだ。二週にわたって豊塚が会社に顔を出していないからだ。

 この日、福原は休みを取った。ふだんなら土日も出社して働いているのだが、どうしても気になることがあった。御堂と福原に出会う前の葉月の過去だ。中卒だということは会社のCTOになるときに聞いている。卒業した中学校は、御堂や福原たちが通った学校の隣の学区だった。

 二日前、年齢と学校名で絞りこみ、葉月のことを知っている人間をSNSで探した。甲野に聞いた調査方法を参考にした。首尾よく数人見つけたので葉月のことを教えて欲しいと頼んだ。不審がられて断られたが、謝礼をもらえるならと一人食いついてきた。その相手と今日会う約束をした。

 福原はバスに乗り、目的地を目指す。しばらく揺られていると住宅街を抜けて緑が多くなってきた。バス停の名前を確認して降車する。スマートフォンを出して地図アプリを表示した。

 ナビに案内されて待ち合わせ場所に着く。学校近くのファミリーレストランだ。規模は小さく駐車場が広い。スクーターが数台停まっており自転車も端の方にある。窓から店内が見えた。まだ午前中のため人の入りはまばらだった。

 待ち合わせ場所に着いたとメッセージを送り、扉を開けた。誰か反応する者がいないか探す。スマートフォンをいじっていた女性がこちらを見て、軽く頭を下げた。

 葉月と同じ中学校出身。吉野恵美子は落ち着いた服装をしていた。SNSのプロフィールには主婦だと書いてあった。

「今日はありがとうございます。浅村さんのことを教えて欲しいというお願いを聞いてくださって」

「同じ会社の人なんですよね。そうじゃない人に話すのは、ちょっと嫌だなと思って。彼、今サラリーマンをやっているんですか?」

 やたらと警戒されているなと福原は思う。福原が葉月と同じ会社で働いていることは事前に伝えてある。福原は名刺を渡して、自分の身分が嘘ではないことを示す。葉月について調べている理由は、最近休みがちだからと、でっち上げた。彼のことをもっと知るべきだと思い、周囲に聞いて回っていると話した。

「浅村くんって、どんな仕事をしているんですか?」

「プログラマーです。うちの会社のCTO――最高技術責任者をしています」

 へー、すごいんだ、と吉野は素直に感心してみせた。福原は、中学時代の葉月がどんな人物だったのか尋ねる。

「顔はよかったけど、背は低くて運動が得意ではなかったから、クラスの女子に人気がある方ではなかったです。あの頃って、明るくてスポーツができる子が一番だったりするじゃないですか。浅村くん、暗くてあまり話さない人だったから。教室では目立たない存在だったかなあ。男子のあいだでも浮いていたと思います。なよなよしているって、からかわれたりもしていました」

 当時を懐かしむように吉野は言う。

「家庭の方は分かりますか? 浅村さんは、そういう話を学校でしていましたか?」

「私はあまり詳しくないですけど、小学校が同じ人は、いろいろと噂していましたね」

「どういう噂なんですか?」

 吉野は周囲を窺ったあと、声を小さくする。

「お父さんが刑務所に入っているって。理由はDVだそうです」

 驚いた。そんな過去があったとは知らなかった。福原はさらに詳しく話を聞く。葉月の両親は公務員で、子供は葉月だけ。小学二年生の頃に父親が逮捕されて、その後は母親が一人で子供を育てたそうだ。葉月が高校に行かなかったのは、それが原因かと思い、吉野に尋ねる。

「おかしいですよ。浅村くん、進学しましたから」

 吉野は不思議そうに首をひねる。

「えっ、高校に行っていたんですか?」

 話が噛み合わないと思いながら尋ねる。

「ええ。普通に高校受験をして、高校に入りましたけど」

「学校は、どこか分かりますか?」

「どこだったかな。そこまで親しくなかったから。うちではないのは確かです。すみません、ちょっと覚えていません」

 友人に確認してもらえないかと吉野に頼む。吉野は、友人のLINEグループに質問を投げてくれた。

「あっ、返信が来ました」

 画面を見せてもらう。福原や御堂と同じ学校だ。自分たちの二つ後輩。それならば同時期に在籍していたことになる。返信が複数届く。高校に入った葉月は、一年の頃からよく休んでいたそうだ。そして、一年生の終わり頃には引きこもり状態になり、その後退学したとある。

 それならば中卒というのは嘘ではない。悪い記憶しかないのなら、高校時代のことを語らなかったのも理解できる。ただ、一年とはいえ同じ学校にいたのなら御堂のことは知っていたはずだ。御堂は校内の有名人だった。まったく知らないということはないだろう。それなのに、その話題に一度も触れていないのはなぜか。

 これまで葉月が会社に入ったのは偶然だと思っていた。しかし、そうではないのかもしれない。吉野のスマートフォンに葉月の情報が集まってくる。葉月は高校で同学年の男子たちにいじめられていた。中性的な葉月は、男らしくないという理由で不良たちに目をつけられて嫌がらせを受けていた。

 次々と寄せられてくる情報の中に、女装をしていたという話はない。福原の通った高校は、学生服だった。学外での付き合いがなければ、私服までは知らないだろう。

 新しい投稿が表示された。

 ――浅村くん、近所に住んでいたから、高校を辞めたあとのことを聞いたことがあるよ。お母さんが家を出て、数年して浅村くんも引っ越したって。

 母親が子供を残して家を出た。いったい、どこに行ったのか。

 もしかして行方不明ではないだろうか。全身に、じわりと汗がにじむ。まさかそんなことはないと自分の考えを否定した。

「浅村さんが、どこに住んでいたのか聞いてもらえますか?」

「いいのかなあ、個人情報だし」

 謝礼を増やすと交渉する。吉野は喜んで質問してくれた。

 場所とマンション名が判明した。部屋番号までは知らなかったが、そこまで分かれば聞き込みができる。福原は可能な限り情報を得ようとして質問を重ねる。一時間ほど経ったあと、吉野に謝礼を払いファミリーレストランをあとにした。


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