表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C++(カフェインプラスプラス)  作者: 雲居 残月
第四章 フェスティバル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/31

4-4 照合

 午後の部が始まった。一番人気のミュージシャンが登場して、会場は熱気に包まれる。人々がステージに集中している分、スタッフの仕事は大幅に減った。このタイミングで少し休みを取ろう。福原はキャンプ場の奥にあるスタッフ用のロッジに向かった。

 森の中は深閑としており、遠くの音楽がわずかに届いている。まっすぐに伸びた無数の大樹は檻のようにも見えた。踏み固められた土の上を歩き、建物の前に着く。人の気配はない。自分が一人でいることを福原は実感した。

 木の階段を上り、扉を開ける。社員の荷物が詰めこんである部屋で椅子に座った。

「ふうっ」

 思わず声が漏れる。スマートフォンの時間を確認して、念のために一時間後にタイマーをセットしておく。疲れて眠ってしまわないようにするためだ。ジュースを飲み、お菓子を食べる。しばらく休んだあと、そろそろ戻ろうかと考えた。

 扉がノックされた。誰だろうと思い、声をかける。社員ならそのまま入ってくるはずだ。来場者が迷ってここまで来たのかもしれない。もしそうならば会場まで案内する必要がある。

 立ち上がったところで扉が開いた。森の景色を背景に、四角い顔の男がいる。フリーライターの甲野だ。そういえば、あとでまた話を聞きたいと言っていた。福原が一人のタイミングを狙って追ってきたのかもしれない。

「お時間よろしいですか」

 甲野は手帳とペンを出す。

「ええ。ちょうど休んでいたところです。来場者はステージに釘付けですしね。しばらく私の出番もないでしょうから」

 スリッパにはき替え、甲野は部屋に上がる。椅子をすすめて、互いに腰を下ろした。

 甲野はフェス開催までの経緯を尋ねる。また、オフラインのイベントをおこなうと決めた社内の空気や、会社が抱えている課題、今回の野外フェスに求めている効果など突っ込んだ話を聞いてきた。福原は取材ということで丁寧に答える。ある程度質問が落ち着いてきたところで、甲野が話題を変えた。

「そうそう、ウェイのことなんですが、幹部の一人が行方不明になっているみたいなんですよ」

 競合企業の重要人物がいなくなった。福原は驚いて詳細を聞く。工藤の右腕の宮坂という男が姿を消しているそうだ。またしてもカフェインプラスの障害物が取り除かれた。あるいはウェイの人間たちは、その報復のために乗りこんできたのかもしれない。

「福原さん。なにか心当たりがあるんですか? 私に協力させてください」

 甲野が体を前に乗り出す。福原は考える。もし葉月が宮坂を排除しており、ウェイにばれていればどうなる。敵の背後には反社組織がある。戦争になりかねない。

「福原さん。以前、私は言いましたよね。カフェインプラスの周囲には行方不明者が多すぎると。もし誰かが動いているとして、心当たりはないのですか? これで詳細を確かめてみませんか?」

 甲野は鞄からUSBメモリーを出す。これまでの報告書と同じだ。甲野はいつもUSBメモリーにデータを入れて持ち歩いている。

「なんのデータが入っているんですか?」

「行方不明になる前の、宮坂さんの行動記録です。分かるだけ時間と場所を調べてデータにしています。このデータと、疑いのある人物の業務記録を突き合わせれば、答え合わせができます」

 福原は喉を鳴らす。以前、失踪者と葉月を結びつけようとして具体的な日時が分からず頓挫した。宮坂が消えたタイミングで葉月が会社にいれば疑いが晴れる。逆に会社にいなければ黒の可能性が出てくる。

「福原さん、パソコンは近くにありますか? 確かめてみましょう」

 甲野は真剣な顔をしている。福原の心は大きく傾く。

「カフェインプラスの扇の要は福原さんです。白であれ黒であれ、その全てを福原さんが把握しておく必要があります。私は口を出しません。記事にすることもありません。そのあと、どうするかは福原さん次第です。私は福原さんを信じています」

 福原は部屋の奥に視線を向ける。ノートパソコンが入った鞄がある。心は風見鶏のようにふらふらしている。甲野は福原の背中を押すように声をかける。

「全ての行方不明に、カフェインプラスの人間が関わっているなら、候補は三人しかいません。御堂社長に福原さん、そして浅村さんです。MIDOUカンパニーの頃には、そういったことはなかった。カフェインプラスになって以降発生している。福原さんの中で、結論はもう出ているんじゃないですか? 今、全てを確かめてしまいませんか」

 もし犯罪がおこなわれているなら犯人は葉月――。甲野も同じ結論にたどり着いている。

 ならば隠す必要はないのではないか。福原は立ち上がり鞄に向かう。ノートパソコンを取ってきて机に置いて起動した。

 エクスプローラーを開いた。甲野からUSBメモリーを受け取り、パソコンに差す。新しく現れたドライブのアイコンには鍵マークがついていた。

「すみません、パスワードをかけています。入力したいので席を替わってくれませんか。少しだけ、うしろを向いておいてください」

「分かりました」

 USBメモリーを暗号化しているのか。自分用に持ち歩いているデータは、そのまま読める状態にはしていないというわけか。

 福原は立って、うしろを向く。背後で甲野は、パソコンを操作している。いいですよと声をかけられた。振り向くと、画面に表計算ソフトが表示されている。こちらにデータをまとめているのだろう。

「業務記録と突き合わせましょう。社内システムへのログインをお願いします」

 今度は甲野が立ち、うしろを向く。福原は座ってパスワードを入力した。社内システムにログインして葉月の情報にアクセスする。

「姿を消した宮坂さんの情報と、浅村さんのデータを突き合わせましょう。いなくなった時期に、浅村さんがなにをしていたのか確かめるんです」

 甲野に言われて、福原は二つのウィンドウを行き来して、葉月の動向を確かめる。

 緊張で体が強張った。宮坂の行方が分からなくなった時期、葉月は会社に出てきていなかった。業務記録では自宅作業になっている。誰の目も届かないので本当に家にいたのかは証明できない。

 葉月が犯人なのか。しかし肉体的に劣る葉月が、武闘派のウェイの社員を消し去ることができるとは思えない。

「この日、宮坂さんはバーで女性と会っています。そして、その女性の部屋に行くと話していたと、店のマスターが証言しています」

 その女性が葉月なのか。葉月なら化粧を変えれば他人に化けることもできるだろう。ノートパソコンの前で考えていると、社内システムへのアクセスが切れた。

「通信不良かな」

 ここはキャンプ場だ。会社ほど設備が整っているわけではない。

「どうしたんですか?」

「いや、電波が悪いみたいですね」

 少し考えて甲野のファイルから宮坂がいたバーの住所をコピーした。そして、ウェブブラウザーを開いて住所を検索した。ネット自体が切断しているわけではないようだ。福原は、表示をストリートビューに切り換える。

「ネット自体は繋がっていますね」

 甲野に言いながら店の周囲の様子を確かめる。典型的な歓楽街だ。もし葉月が宮坂と話していた女性だとして、どのような行動を取ったか考える。

 バーを出たあとタクシーを利用して移動したのか。いや、車内カメラの録画を避けて、徒歩で移動したのかもしれない。いずれにしても部屋に行くと話していたのだから、アパートやマンションに向かったのだろう。

 宮坂を誘い、部屋に連れこんだとする。しかし、そこからどうやって人を消すんだ。宮坂は行方不明になっている。仮に殺したとするならば、死体を運び去らないといけない。アパートやマンションの部屋に置きっぱなしにするわけにはいかないだろうから。

 福原は、これまでに調べた情報を組み合わせて考える。死体を箱に入れる。そしてリスキーボックスを使い、自分とは違う誰かに箱を持ち去らせる。殺人だけして身軽にその場を立ち去れば犯行は可能ではないか。だが詳細が分からない。細部を明らかにしようとして必死に推理する。

 大きな音とともに、扉が勢いよく開け放たれた。福原は驚いて振り向く。

 小柄な人が立っていた。無機質な白い顔は機械仕掛けの人形を思わせた。ロッジ前のバーベキューセットから拾ってきたのか、手には火かき棒を持っている。全身に力をこめており、体の奥からマグマが噴き出しそうだった。目は炎を上げそうなほど怒りをたたええていた。

 ロッジの入り口には、髪を振り乱した葉月がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ