表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C++(カフェインプラスプラス)  作者: 雲居 残月
第四章 フェスティバル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/31

4-3 当日

 朝になった。福原がロッジから出ると、雲一つない青空が広がっていた。少し遅れて起きてきた御堂は「俺は晴れ男だからな」と得意げに言った。

 朝食を取り、みんなで集まる。今日はスタッフ全員が、同じ格好をしている。福原や御堂だけでなく、葉月や瀬川も、おそろいのTシャツにズボンといった姿をしていた。

 七時を過ぎた頃から車の数が増え、会場入り口に参加者たちが列を作り始めた。派手なTシャツを着ている者、フェイスペイントをしている者、コスプレをしている者など、集まっている人々の姿はさまざまだ。来場者たちの派手な様子は、まるでお祭りのパレードを思わせた。

 会場の入り口は駐車場の横にある。巨大な看板を立て、テントを張っている。看板にはカフェインプラスのロゴを大きく印刷してある。その看板の横で撮影している人たちが多くいた。

 開場までまだ二時間ある。列は雑然としており、放っておくと混乱のもとになる。福原はスタッフを数人向かわせて列の整理に当てた。

 九時になり入場を開始する。ユーザーにスマートフォンを出してもらい、カフェインプラスのアプリの起動をうながす。入り口のテントを通るときにユーザー確認をおこなう。確認処理は、数日かけて葉月が高速化した。数が多いので大丈夫かと思ったが、混乱なく進めることができた。

 入場者たちは、木々のあいだを歩いたあと会場に入る。会場はキャンプ場内の広い草原だ。奥のステージには巨大モニターがあり、多くのアーティストが遠隔で参加することになっている。会場を見渡すと数人ずつのグループが多くできていた。彼らはリラックスしており、朝早くから並んでいたせいかシートを敷いて寝ている者もいた。

 人々がいる草原と周囲の森のあいだには屋台が並んでいる。焼きそば、お好み焼き、カレーライスといった定番のものもあれば、タイのガパオライス、ベトナムのフォー、メキシコのタコスといった、世界各地を巡る料理もある。どれも少量で値段を安くしており、複数のものを食べ比べられるようにしていた。

 福原は、ステージ近くで進行の確認をしながら、来場者たちの様子を観察する。いずれの顔も期待に満ちている。今のところ大きなトラブルが起きていないことに福原は安堵する。

 何気なく動かしていた目が途中で止まった。脳内に危険信号が閃き、慌てて視線の先を凝視する。ウェイの社長の工藤拳。それ以外にも甲野の報告書にあった幹部たちがいる。

 福原はタブレット端末を操作して報告書を開く。間違いない。工藤たちウェイの幹部だ。敵情視察ならよいが妨害する気なら困る。社員に知らせておいた方がよい。トラブルを起こさないように警戒しておかなければならない。

「連絡を見た。どこだ?」

 メッセージを送ってしばらくすると御堂が現れた。気づかれないように場所を示す。

「あいつら、どういうつもりだ」

 御堂の声には怒りがこもっている。

「見張りをつけておいた方がいいだろうな」

 誰を監視役にするか相談していると葉月と瀬川も集まってきた。葉月はそっけない目で工藤たちをながめる。

「ドローンをぶつけて救護室に送りますか?」

「おいおい、イベントどころじゃなくなるぞ」

 福原は突っ込みを入れる。

「警備員に排除させますか?」

 瀬川は真面目な顔をして言う。

「いや、まだなにもしていませんし」

「理由はあとから適当にでっち上げられます。どうせ叩けば埃しか出ないような奴らです」

 こちらも随分と乱暴だ。

「なにもしていない限りお客さんですから排除するわけにはいきません。お金は払ってくれているわけですから」

 入り口は、カフェインプラスのチケットを使わないと通れない。少なくとも全員、会員登録とクレジットカードによる支払いをしている。ただの偵察なら、そのまま放置しておくのが得策だ。福原は、強硬な葉月と瀬川をなだめて見張りをつけることで話をまとめた。

 見張り役を誰にするか話し合う。瀬川は、豊塚の傘下だった警備会社の人間を監視に当てようと提案する。今日は会場警備に彼らを呼んでいる。元警察官なので暴力沙汰に対処できる。全員の意見が一致して瀬川に手配してもらった。

 やれやれ朝から大変だ。御堂たちは、それぞれ自分の仕事に戻る。福原はスタッフたちのあいだを巡回して困ったことがないか聞いて回った。

「福原さん」

 背後から名前を呼ばれた。振り返ると、見慣れた四角い顔が目に入った。

「甲野さんも、いらっしゃっていたんですか?」

「ええ。今日は本来のライターの仕事です。イベントの取材をしようと思いまして。参加者として体験させてもらいますよ」

 甲野はラフな服装で、手帳とペンを持っている。会場を回って、いろいろとメモを取っていたそうだ。甲野とは焼き鳥屋で会って以降もやり取りを続けている。ウェイや葉月の件で情報交換をしている。

「イベントについて軽く質問してもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「リモートでさまざまなアーティストが参加するということでしたが、そのあいだカフェインプラスの中心メンバーは、どういったことをされているんですか?」

「御堂はMCで出ずっぱりですよ。あいつ、そういうのが得意ですから。しゃべるのが好きなんですよ。

 浅村はロッジの一つで、ネットワークやサーバーの監視をしています。ステージはリモート公演なので、問題が起きたら対処する必要があります。通信関係の障害がゼロというわけにはいかないでしょうから。

 瀬川は警備や物販、資材管理を担当していますよ。彼女は後方支援から対人業務までなんでもこなせますから。甲野さんは、まだ瀬川には会ったことがないですよね。どこかのタイミングで紹介しますよ」

「ありがとうございます。それで福原さんは?」

 手帳に書きこみながら甲野は尋ねる。

「私は雑務全般ですね。なんでも屋ですよ。いったんイベントが始まってしまえば、トラブルがなければ少しは休めるはずですが」

「スタッフ用のロッジで休憩を取るんですか?」

「ええ、あそこの」

 森の奥にあるロッジがある場所を指す。会場から少し離れているので木々に隠れて見えない。甲野が興味を持っているようだったので、タブレット端末で地図を表示して位置を教える。また、葉月がいる場所や他のスタッフの休憩所なども説明した。

「そういえば」

 甲野が思い出したように切り出す。

「ウェイの人間が何人か来ているようですね」

「ええ、気づいています。警備会社の人間を監視につけています」

「そうですか。何人つけているんですか?」

「二人ですね。元警察官だそうです」

「なら大丈夫ですね。まあ、会場で騒ぐことはないと思いますので、それほど警戒しなくてもよいとは思いますが」

「念には念を入れてということですね」

 それから細々と質問を受けて、福原は甲野と別れた。別れ際に、またあとで話を聞かせて欲しいと言われた。

 会場の数ヶ所に設置された大型スピーカーから御堂の声が聞こえる。イベントの開始を告げる言葉とともに音楽が流れ始めた。

 ステージの巨大モニターに、リモートで参加しているミュージシャンと、ビジュアルエフェクトが表示される。モニターの前では、会場に駆けつけた芸能人が、御堂とともに観客席を盛り上げていた。

 福原は葉月にメッセージを送り、トラブルが起きていないか尋ねる。ネットワークやサーバーに障害はなし。会場に設置した監視カメラの映像も全て葉月が確認しているが、こちらも問題は発生していなかった。ただ、モニタリングするべき情報が多く、神経を使っているらしい。開幕しばらくは、気を張った状態が続くということだった。

 会場の各所を回りながら対策を採るべきところがないか探す。トイレの前が混乱していたので、ビニール紐で列の線を作る。ゴミの問題が発生しているところがあったので、簡易のゴミ捨て場を設置する。瀬川に会った。ウェイの人間の監視について尋ねる。今のところ動きはなし。なにか仕掛けて来るかと思ったが特にないようだ。

 午前の出演予定が終わり、一時間の休憩になった。客は屋台に殺到して食事を楽しむ。定番の料理から世界各地の料理まである。来場者たちは先を争って購入していた。

 御堂の姿を見かけた。多くの人に囲まれて話している。食事を取る暇はあるのかと思い、カレーライスを持っていってやった。瀬川は外国の料理を手にしている。いつもの凜々しい顔とは違い、満面の笑みで舌鼓を打っていた。瀬川は食べることが好きなのだろう。会社でも昼ご飯のときだけ笑顔になっている。

 葉月はおそらくロッジに閉じこもっている。どうせなにも買っていないだろう。焼きそばを差し入れてやろう。小食だから量は少なめがいいだろうと思い、店主にそう伝えた。

 通信本部にしているロッジの扉を開けた。建物の中には八台のモニターが並び、床には数台のノートパソコンが置いてある。葉月自身は椅子に座り、机の上のノートパソコンをいじっていた。部屋を見渡したが食べ物はない。やはり買い出しには出ていなかったようだ。

「食事、ここに置いておくぞ」

「ありがとうございます」

 葉月はこちらを振り向かずに返事をする。手が空いたタイミングで確認して食べるだろう。福原は並んでいるモニターをながめて、その一つに目を留めた。地図の上に、いくつか光点が表示されている。

「ああ、それですか。ウェイの幹部たちの位置です」

 福原は驚く。

「ウェイの幹部の名前と顔は、甲野さんの報告書で分かっています。今日の入場の際に、来場者の顔データとスマートフォンを紐づけしました。そのデータを使い、彼らのスマートフォンの位置を地図上に表示するようにしたんです。なにか変な動きをしたらすぐに分かります。一定エリア外に出れば、私のもとに警告が飛んで来るようにしましたから」

 いいのか、こんなことをして。いろいろと個人情報保護の面で問題があるだろう。だが葉月が気にするわけがない。こいつはそういう奴だ。仕方がない。あとでデータを削除させよう。今は非常時だ。フェスのあいだだけ工藤たちの監視に利用させてもらおう。

「なあ、葉月」

「なんですか?」

 ――障害となる人間を消していないか?

 聞こうとしたが、言葉を飲みこんだ。御堂が言ったように、そんなことはないだろう。葉月をながめたあと福原はロッジを立ち去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ