表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C++(カフェインプラスプラス)  作者: 雲居 残月
第三章 アンダーグラウンド

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/31

3-8 秘匿

 土曜日の深夜。冷房の効いた十二畳の部屋。葉月は、大型モニターの前で座椅子に座り、ノートパソコンに向かっていた。

 丸山からメールが届いた。皇帝宛のものだ。今日の昼、福原が葉月のことを探りに来たという内容だ。入社以前の葉月のことを、根掘り葉掘り聞いたらしい。丸山は、自分が知っていることを隠さずに伝えたそうだ。

 あの軽口野郎が。思わず奥歯に力をこめる。痛みが走った。大きく息を吸いこみ、心を落ち着ける。最近、歯に力を入れることが多くなっている。気をつけないといけない。このままでは残った奥歯も砕けてしまう。

 福原は葉月を疑っている。中学時代の同級生だけでなく、ダークウェブでの活動も調べようとしている。

 葉月は腕を組み、背もたれに体重を預ける。葉月は福原の行動を推測する。丸山から情報を得た福原は、ダークウェブの匿名掲示板にアクセスしたはずだ。そこからリスキーボックスにたどり着く可能性は、どれぐらいあるだろうか。

 たどり着くためのURLを変えようか。しかし、福原の目に触れればどうなるか。このタイミングで変更したことを福原が知れば、自分とのつながりを強く疑う理由になるだろう。

 葉月は腕を組んだまま画面をにらむ。リスキーボックスは、葉月の自信作だ。高校に行かず引きこもりを続けていた頃に作ったサイト。長らく収入源となっているウェブサービス。このサービスを開発した当時のことを葉月は思い出す。


 高校に行かなくなり、引きこもり始めてしばらく経った。

 母と二人の生活。自立のためには先立つものが必要だ。すでにプログラミングで金を稼ぎ始めていた葉月は、効率のよいやり方はないかと考えた。

 金を得るにはいくつかの方法がある。物や情報を売る。作業を代行する。場所や権利を貸す。手数料を取る。葉月は、どういったものが相応しいか検討する。いくつかの候補を考えたあと、一つのモバイルアプリケーションを開発することにした。

 葉月が作ったのは、リスキーボックスという匿名サービスだ。中身が不明の箱を、現実世界のある地点から、別の地点に運ぶという単純なものだ。箱には四桁ずつ区切った十六桁の数字を書き、運び手は中身を知ることができない。

 仕事はアプリの画面を見ながらおこなう。アプリのメイン画面は地図になっており、各地に配置されたアイコンをタップすると情報が表示される。運ぶ前には、荷物のおおよその寸法と重量、運ぶのに必要な人数や輸送距離、推奨の移動手段が示される。

 集荷に行った者は、箱の数字と周囲の様子を、専用のアプリで撮影する。本人かどうかは、音声による認証を利用する。依頼の成立をシステムが確認したら、目的地が現れる。運び始めと同様に、運び終わりにも撮影と認証をする。

 リスキーボックスは、ウーバーイーツのような個人デリバリーサービスの犯罪版だ。箱には、違法薬物や銃器、禁止された野生動物、振り込め詐欺の金などが入っているかもしれない。ただし箱を開けない限り、善意の第三者というわけだ。

 箱の輸送は犯罪に荷担する可能性があるが報酬は高額だ。アルバイトをするのが馬鹿馬鹿しくなる容易さで金が手に入る。

 とはいえユーザーは、最初から違法な箱に接触できるわけではない。ユーザー登録直後は、犯罪とは無関係なダミーの箱の配達をおこなう。警察の人間や、登録してすぐに荷物を盗む悪質な人間を弾くためだ。

 箱を配達するとポイントがもらえる。累計ポイントが一定値になればレベルが上がり、違法な箱の配達が始まる。レベルが高くなれば高額な箱の遭遇率が上がり、得られるポイントも増える。ユーザーは得たポイントを仮想通貨に交換できる。

 またダミー箱の設置役、箱の盗難や開封をおこなった者への報復役など、複数の役割も用意した。それらは特別なイベントとして、ユーザーに通知する。葉月は、互いに面識がない人間の役割を組み合わせて、商品の消失を可能な限り防ぐシステムを作り上げた。

 この犯罪システムも最初から上手く回ったわけではない。金が欲しい人間は多くいても運ぶ荷物は少ない。最初はただのゲームとして提供した。報酬はわずかで、葉月が稼いだ金から支払った。ある程度ユーザー数が集まったところで、発注側の人間を募った。需要があったのは薬物の配達や、振り込め詐欺の現金回収だった。報酬が増えたことでユーザーが本気になった。少しずつ盛り上がっていき、そこから成長していった。

 発注側の人間が利用しやすい条件を整えた。郵便や宅配便と違い、表社会に痕跡を残さない秘匿性。運搬役を自由に調達できる利便性。また、リスキーボックスの機能をサイトに組み込めるAPI――アプリケーション・プログラミング・インターフェース――も開発して公開した。

 おかげでデリバリーの方法としてリスキーボックスを選べる闇サイトも出てきた。さまざまな施策の末、発注者が増え、サービスは大きくなっていった。

 登録者が徐々に増え、週に十万円以上稼ぐ人が出始めた頃に、ユーザー数が激増した。ノウハウがたまったところで海外版も作った。海外でも都市部を中心に顧客がつき始める。葉月のもとに入って来る金は、どんどん増えていった。そして自立する目処が立ったと思った頃、葉月は母と衝突した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ