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C++(カフェインプラスプラス)  作者: 雲居 残月
第三章 アンダーグラウンド

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20/31

3-6 皇帝

 昼飯を食べ、次の調査のために電車に乗った。カフェインプラスに合流する前、葉月はプログラマーとして仕事をしていた。その頃なにをしていたのか調べるつもりだ。

 福原は電車を乗り継ぎ、目的地に着いた。横浜よりさらに西、藤沢まで移動した。駅から少し離れた待ち合わせの喫茶店に入る。カフェインプラスの提携店だ。福原はQRコードを表示して入店の処理をする。

 店内を見渡すとノートパソコンを使っている人が多い。店の一番奥、他のテーブルから離れた場所に目的の人物がいた。カフェインプラスの開発チームの最年長、丸山一夫。丸山には以前、葉月のことについて尋ねたことがある。そのとき、モジュール化が得意だと説明してくれた。今日は、会社では聞きにくい葉月のことについて、聞かせて欲しいと頼んで訪問した。

「丸山さん、仕事をしていたんですか?」

「ええ、少し作業が残っていましたから」

 丸山が手を止めて顔を上げた。細い顔に長いヒゲ。福原は向かいの席に座り、アイスコーヒーを注文した。

「葉月っちのことについて知りたいと?」

「ええ。開発チームの面々とどのように知り合ったのか、カフェインプラスに参加する前になにをしていたのか、まったく把握していないので、教えていただければと思いまして」

「まあ、そうですよね――」

 どうしたものかという顔を丸山はする。

「そもそも葉月とは、どんな感じで出会ったのですか?」

 腕組みしながら丸山は、うーん、とうなる。

「僕以外のメンバーも、だいたい同じ経緯で一本釣りされたと思うんですけどね。互いにプライベートで話さないから知らないんですけど。みんな表の仕事をしていなかったんだろうなあと」

「ヤクザとかの仕事をしていたんですか?」

「いや、そういうわけではないです。クライアントの中に、そうした相手がいた可能性は否定できませんが」

 丸山はぶつぶつとつぶやく。

「どういうことをしていたんですか?」

 なるべく非難の口調にならないように言う。しかし丸山は、干からびたミミズのように体を小さくした。しばらく黙り続けたあと、口元を手で隠し、小さな声で話しだした。

「僕は、ダークウェブの、とある匿名掲示板の常連だったんですよ。IT系の仕事が書きこまれて、報酬を仮想通貨でもらうという。

 まあ、たいてい裏の案件ですよね。ハッキングツールを作ってくれとか、特定サイトの脆弱性を探してくれとか、裏サイトの構築とか、マネーロンダリング用システムの作成とか、いろいろな依頼があって、手を挙げた人がこなすという感じです。それぞれ得意分野がある人が多く、ある程度仕事をこなして信頼されている人は、コテハンを使ったりしているわけですよ。

 あっ、ダークウェブというのは、通常の検索ではたどり着けない場所にある、犯罪関係の情報があるネット空間です。匿名性の高いTorブラウザでないと見られなかったりします。コテハンは固定ハンドルネームの略です。匿名の掲示板サイトで、ハンドルネームで会話している人はコテハンと呼ばれたりします。

 僕は、昔会社勤めをしていたんですが鬱で辞めましてね。ダークウェブで仕事をして糊口をしのいでいたんですよ。それである日、その掲示板に、自分にしかできそうにない依頼が書きこまれていたんです。手を挙げたら、表の会社で正社員にならないかと誘われたんです。

 発注者を見たら、知っているコテハンだったんです。たまに現れて短時間で開発をこなす実力者ですよ。まあ、一目置いていた相手だから、引き受けようと決めました。そろそろ表社会にも行きたいなと思っていましたし。それも自分の実力を正当に評価してくれる人のもとで働きたかったですから」

「その相手が、葉月だったわけですか?」

「そうです。最初本人に会ったとき、えー、まじかー、って具合に驚きましたよ。小柄で美人の女の子かよと。それで男と知って二度びっくりですよ。ありえねえ、まじパネェと思ったわけですよ。かわいくて有能で、ちんちんもついている。最高じゃねえかと。

 しかし、そんな美味しい話はない。裏があるはずだ。当然疑いますよね。でも、本当だった。葉月っちの実力は想像以上だった。ああ、本物の皇帝だなと納得しましたよ」

「皇帝?」

「匿名掲示板でのハンドルネームです」

「それが葉月の裏の名前だったんですか?」

「ああ、きちんと説明しないといけないですね」

 丸山は興が乗ってきたのか、前のめりになる。

「その掲示板での葉月っちのハンドルネームは、Augustusなんです。ローマの初代皇帝の名前ですよ。これは推測なんですがね。葉月というのは八月でしょう。その英語読みはオーガスト。由来はローマ皇帝アウグストゥス。そういう連想でつけたんだと思います。掲示板で、他の人が葉月っちを呼ぶときは、皇帝という愛称を使っていたんです。実力者だったんで」

「掲示板のアドレスを教えてもらえませんか。自分でも見てみたいので」

「アドレスは、ちょくちょく変わっていますからね。あのー、情報料とか、もらえたりしないですかね?」

 丸山は期待の目をしている。金が欲しいのか。少し考えるが、ここで文句を言って、へそを曲げられても困る。財布を出して、お札を渡した。丸山は笑顔になった。

「現時点での、たどり方を説明します」

「ちょっと待ってください。メモを取るので」

 福原は手帳とペンを出して、丸山から教わった掲示板へのアクセス方法を書き留めた。それからしばらく、アンダーグラウンドでの葉月の活動について聞いた。


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― 新着の感想 ―
やっと雲居さんの世界になってきた。 これからも楽しみしています。
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