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C++(カフェインプラスプラス)  作者: 雲居 残月
第三章 アンダーグラウンド

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19/31

3-5 現場

 土曜日の午前中を利用して、福原は豊塚が住んでいたマンションの前にやって来た。きちんとしたセキュリティがある建物なので外部の人間は侵入できない。入り口前をぶらぶらしたあと、中に入るのは諦めた。

「仕方がない。ここから、豊塚さんが最後に目撃されたバーまで歩いてみるか」

 福原はスマートフォンに探偵の報告書を表示した。瀬川が依頼した豊塚の失踪についてのものだ。

 警察には行方不明者届を出しているが結果は出ていない。警察は本腰を入れて調査しているようだが、足取りは巧妙に消されていた。

 福原は探偵が調査した情報を確認する。近所のバーに行き、深夜の二時に店を出て以降、豊塚を見た者はいない。

 画面に表示されているバーの住所をコピーして、地図アプリに貼りつける。現在地からの道順を確認した。地図によると、バーまでは公園を抜けてビルのあいだを通っていく。途中で立ち寄るコンビニなどの店は一軒もない。

 福原は画面を見ながら歩きだして公園に入った。公園内に何本もある柱の上には防犯カメラがあった。ここで拉致すれば記録が残る。自分が犯行をおこなうなら別の場所を選ぶだろう。

 ナビに従い公園を抜けた。バーに行くにはビルの谷間を通過する。道路には防犯カメラはない。道幅は車がすれ違えるほど広いが、夜になれば誰の目もなくなる。ここは都会の死角だ。

 福原は想像する。車を停めておき、対象を捕まえて発進すれば人を連れ去るのは簡単だ。探偵による報告でも、この場所でさらわれた可能性が高いと書いてあった。

 誘拐に必要な条件を考える。大人を車内に引きずりこめる腕力が要る。車の運転もできなければならない。理想を言うならば捕獲に二人、運転に一人。車種はワンボックスカーで、ナンバープレートは偽装する。

 あるいは知り合いが現れて声をかけたらどうか。それなら車に誘って自分で運転すればよい。たとえば夜に葉月が現れて、車に乗るように言う。果たして豊塚は素直に乗るだろうか。普通なら警戒して拒絶する。なぜ通常の業務時間に来ないのか疑いを持つ。

 それに、もし葉月が声をかけるのなら車の問題がある。葉月が自動車の免許証を持たないことは福原も知っている。車を使うには仲間が必要になる。

 葉月には友人がいない。本人もそう言っていたし、見たこともない。ネットの知り合いの可能性も考える。そうした相手が、他人の犯罪に手を貸してくれるだろうか。

 福原はビルの谷間を抜けて歓楽街に入る。最後に目撃されたバーがある場所だ。明かりの消えた看板の前をゆっくりと歩く。まだ午前中のために人はいない。

 調査報告書にあったバーの前に来た。店の幅から考えて、カウンターのみだと分かる。入り口の扉は暗い色のガラスだ。中の様子をのぞくと、椅子が上げられていた。店内は誰もいない。スマートフォンを操作して、探偵が聞き込みをした内容を確認する。

 豊塚が最後に来た日、店内には他の客が一人いた。豊塚が去ったのが二時頃。それからしばらくして、その客も去ったらしい。女性で三十歳前後。ずっとスマートフォンをいじっていた。派手な化粧だったので、店主は水商売の女性だと思ったそうだ。

 あるいは彼女が見張り役かもしれない。豊塚がよく行く店を見張り、店を出たことを知らせる役をしていた。どこの誰かは分かっていない。店主が知らなかったことから考えて付近の人間でない。この辺りの人間なら店主が素性を知っている。どちらにしろ写真があるわけでもないから探すのは困難だ。

「探偵が分からなかったのに俺が分かるわけないよなあ」

 福原はため息とともに頭をかく。それでも現地を確かめておきたかった。やれることは全てやっておきたかった。


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