運動会 その5
「あ、ちょっと席外すな。」
そういって靴を履きながらしびれをとりつつ、電話に出る。
「ねーぇー、かおりんおそーい!」
「すまんすまん、足がしびれてて出るのが遅れた。
で、シンリュウは今どこにいるんだ?」
私が問いかければ、シンリュウは現在職員室だというので、そこまで移動する。
「ふぅ、ここなら問題なく話せるか。」
私が冷房の付いている職員室へと入り、一休みとでも言いたげに一息つけば、シンリュウはこちらを見て、うなずいた。
「今職員室には私たちしかいないよ、放送も外にあるものでやっているし、誰も来ないんじゃないかなぁ。」
シンリュウがこちらに肩をすくめながら言うから私もお礼をしてしまう。
「すまない、時間を使ってしまって。」
「いやいいって。
で?なんかついこの間から、イノセントトレイターから穢れ水晶に名称変更したんだっけ?
で、その穢れ水晶が今回の運動会で度々目撃されて、なんか回収を色々とやってるらしいじゃん。
カオリンもちゃんと仕事やってるっぽいし、よかったよ。」
それに何が言いたいかを測りきれずに、私は一応首をうなずかせておく。
「あぁ、とりあえず以前から請け負っている子供たちの体力データを入手することはできたが、そういえば、子供たちの手首にリストバンドが巻かれていたな。
あれはシンリュウか?」
そう、子供たちの腕にはリストバンドが巻かれており、それをシンリュウがやったのかと思っていたがと言えば、シンリュウはうなずく。
「うん、さっすがカオリン、わかってんじゃん。」
「で?あれにはどんなデータが入ってるんだ?」
私が問えば、シンリュウは自分のデスクだろう、そこに移動してパソコンを起動させ、そこにアプリを表示させる。
「ほらこれ、生徒たちのバイタルデータをとっててね、これからどれくらい運動したかを確認できるし、どんな運動が得意なのかも見られるんだ~。
でねぇ、かおりんの子供たちのデータもあるから、あとでほしいかなって。」
そんなシンリュウに、私は頭が上がらなくなる。
「すまない、本気でほしいわ。
確かに画像データで色々と解析することはできるんだが、バイタルデータまでは確認することを忘れていた。
むしろ、子供たちの記録を残そうとかしていたからな……研究者失敗だよ。」
言いながら五号を取り出し、USBに変換させると、シンリュウがそれを拒否し、持っていたのであろうUSBを取り出す。
「データ大きいから、これで持って行ってよ。
そうすれば、すぐにデータのインストールからこのソフトを見るためのアプリなんかも取れるからさ。」
「そんなに乱雑なプログラムなのか?シンリュウのくせに珍しい。」
私がそう言うと、鼻をつままれてそのまま上にあげられる。
「イダイイダイイダイ!ご、ごめんなひゃい!」
「まったく、ほら、インストール用のCDROMあるでしょ?あれでインストールデータ入れんのとおんなじ!
別に珍しいことじゃないでしょ?駄々こねない!」
「ひゃい!わありまひた!」
そこまで言ったところで鼻を離され、データ一式を貰ってしまう。
「な、なぁ、全部終わった後に一括でもらった方がよかったんじゃないのか?」
私の問に対して、シンリュウは呆れた顔をした。
「あのねぇ、あんたみたいなのがそれやって、一発で全部できるとでも?
あんたは確かに優秀だけど、分野違えば無能なんだよ?
だから、あとでデータロムを持っていくから、はじめにそのインストールデータをパソコンに入れてから、そのあとで再度データをくれって言えばいいの!
確かにワンダーエッグとかドリームエッグとか、ほかにもいろんな得意分野あるけど、この分野は私の十八番!だから黙って従えばいいの!
いい?」
そんなことをシンリュウが言うから、私としてはうなずくことしかできない。
「さて、更に仕事の話は続くけど。
イノセントトレイターは今まででいくつ、回収できた?」
そんなことを聞いてくるシンリュウに違和感を覚え、逆に問いかける。
「いや、どうして回収できた話が出るんだ?
お前にその話をした覚えはないが。」
聞けば、シンリュウが呆れた顔をしてスマホを取り出す。
「組織からの指令で、狐巫女ユーザーなるものたちによって穢れ水晶活性化地帯がこの場所だと特定できたため、この場所をイベント会場と指定し、イノセントトレイター回収を命じたそうだよ。
それでもしも穢れ水晶という名のイノセントトレイターを確認することが出来たら、私が回収することになってんの。
ほかにも、狐巫女ユーザーの手にイノセントトレイターを渡せば、相手が勝手にイベント消化という名の解放作業を勝手にしてくれるから、それでもいいらしいけど、中に人が居た場合にはどうなるかわかんないから、できるだけ私に渡せって話。
もしかして、見てなかったの?」
シンリュウに問われたため、急いで組織の命令リストをアプリで確認するが、確認することができなかった。
「えっと、私には来ていないみたいで……」
「……チッ、これ、クローズドだったか……」
シンリュウが私の言葉を聞いたと同時に舌打ちをして、ぼそぼそと話しているのが聞こえてきたが、クローズドということは私宛の指示ではなさそうである。
「そっか、シンリュウ宛の依頼だったんだね、そりゃわからんわけだよ。」
私が肩をすくめれば、シンリュウも肩をすくめてこちらを見てくる。
「それで、穢れ水晶を持っていたら、私に渡してほしいっていうことなんだけど、カオリンは心当たり無い?」
そんなシンリュウの問に、逆に問いかける。
「ならさぁ、確かハジメ少年がさっきまで持っていたはずだが?
今は私が持っているからいいが、あとでクラスのやつらに聞けばよかったじゃないか。」
そう何も考えずに言えば、シンリュウが深々とため息を吐く。
「あのねぇ、私は子供たちと深くは関わらないようにしてんの!
何故だかわかる?組織の人だから!
その点、あんたは組織の人で学校に居ないから気軽な立場!簡単に相手から物がもらえるでしょ?
だから、私はカオリンに頼んでるわけ!わかった?」
あまりにも切実な言葉に、納得するしかなかった。
「あ、あわ、わかった。」
そういって、そういえば鞄に穢れ水晶があることを思い出し、それにどうしようかと一瞬考える。
「そういえば、回収したものを鞄に入れたままだったわ。」
私が言えば、シンリュウは深々とため息を吐いたが、頷いてくれた。
「まぁ、あとで渡してくれればいいから。」
「はぁい。」
とまぁ、そんなことを話したところで、時間もある程度良い感じになってきたようだ、協議再開まであと15分というところになっていた。
「あ、そろそろ子どもたちの元に戻らないと。
あとでくれよな!データ!」
そういって私が外に出ようとしたら、シンリュウが引き留めてくる。
「ん、……」
振り返ればシンリュウが居て、しばし沈黙したのち、私の額からシンリュウの顔が離れていく。
「カオリン危なっかしいからね、今後も、あんまり無理しないでね。」
なぜ額にキスされたかはわからないが、追及せずとも良いかという理由で、普通に靴を履いて手を振り、職員室から出ていったのだった。
「ハラさん、お仕事ですか?」
なぜか階段下にトモミが降り、なぜいるのかを問えば、手にはおむすびが握られている。
「あまり食べていなかったみたいなので、レジャーシートに戻って食べましょ。」
「あぁ、だが、トモミたちはもう競技があるんじゃないのか?」
私の問にも、トモミは笑顔で返してくる。
「いえ、次の競技は一年生なので、問題はないかと。」
それに、ひとまずは納得しつつ、ブルーシートへと戻れば、みんなはもう食べ終わっているようで、残っているものはトモミが取り分けてくれたらしい、とりわけ用の皿の横には、お菓子を貪り食うイルルとシン、一号にアインスなんかもいた。
私が食事を再開させたころには競技は始まっていて、一年生と関係のない保護者などが自身のこと色々と話していたり、上級生も一部に固まって色々と話しているのが見えた。
「なんだか、こういうのもありだな。」
私が本当は忙しいのに、こんなにも平和に見えるような、薄氷の上で楽しんでいるような危うさの中の平和というものをなんだかいいものに感じるのは、なんとも変な話である。
「そうですか?私はハラさんと一緒に居られればそれが一番ですが。」
そんなことを言うトモミの言葉だって、いつしか変わってしまうだろうし、今だけの平穏を甘受しようと思い直したところで、トモミがふととんでもないことを言いだす。
「あの、たぶんですが、対戦相手にイノセントトレイターを持っている人が居ます。」
「はい?」
トモミの方を見ると、いたって真剣な顔をしてそんなことを言っているので、一体どうしたのかという意味を込めて問い返す。
「えっと、それはどの時点で気付いていたんだ?」
トモミは神妙な顔でこちらを見て、自身がどれくらいの時に感づいたかを教えてくれた。
「はい、棒倒しの時にきな臭さは感じていまして、たぶん、騎馬戦の時になにか動きがあると思われます。」
その顔には嘘偽りがなさそうなので、私としてもどうしたものかと悩みこんでしまう。
「騎馬戦で動きがあれば、か。
騎馬戦のルールって、何かあるのか?」
私が問いかけた結果、聞き出せたのはこれらだ。
1、騎馬戦は騎馬に三人、騎手が一人の四人構成、騎馬は基本的に図体が大きい人がなるらしい。
2、騎手にはハチマキが頭に巻かれ、それを奪い取った方が勝ち。
3、対戦方式としては、135、246で初めに分かれ、その後それぞれの組で生き残った者たちがそれぞれの組へと攻め入り、蟲毒をやって、どこが生き残るかをやるらしい。
4、基本一対一の戦いで、同じ組の同士討ちは禁止、ほかの組と戦うときにも一対一のタイマン、しかし蟲毒状態になった時に同じ組であれば、助太刀が可能となり、その場合に複数対一が成り立つそうだが、基本的には一対一の戦いとなるらしい。
5、いかなる方法でもいいので、騎手が下につくか、リボンを奪い取れば勝ち。
6、そして、つかみ合いが基本的な戦い方法だが、殴るのは原則禁止。
7、大将首をとれば、その時点でその組の負けとなる。
ということだそうだ。
なんかこの学校、蟲毒が好きだなぁって思っているうちに、そろそろトモミたちが出撃となるらしい。
話を聞いているうちに私も食事が終わったので、トモミになんと声を書ければいいのかを考えあぐねているうちに、トモミは一言、言葉を残していった。
「ハラさん、もしかしたら私は、少々卑怯な手を使いますが、勝てば官軍。
ですよね。」
あまりにも不穏な発言なので、引き留めようとしたときには既に並び始めており、そのポケットには明らかに卵のふくらみがあったので、引き留めてその卵を寄越せと言う前に、トモミは戦闘位置へと移動し始めたのだった。
それぞれの組が戦闘初期位置へと配置されるまで、なんとも言えない気持ちだったが、騎馬を組んでいるところで異変が起こった。
今まであまり動きがなかった4組に、明らかに異様な集団がいたのだ。
なにやら不良のような長ランを着た騎馬、そしてその上にはスケバンのような学生服を着ている、明らかに運動会にそぐわない騎手と騎馬が居たのだ。
そのことでざわめくかと思えば、別にざわめいた様子がない周りに、認識異常でも起こしているのかとも思うが、私がおかしいのかと逆に疑ってしまう。
そこにシンリュウ、いやトウサカ先生が止めに入るかと思えば、明らかにデータをとろうとしている顔をしたトウサカ先生が、実況席に居たので、私としても傍観するしかなくなる。
「それでは、女同士の血で血を洗う戦い、リボンの騎士を開始します!」
騎馬戦の横に書かれていたリボンの騎士というのが競技名だったらしい、それを言われると同時に鬨の声が上げられ、そして銃声と共に開戦したらしい、それぞれの騎馬が反対側に居る騎馬に向かって突っ込んでいく。
トモミたちの騎馬を見ると、確かに騎馬自体が強そうな印象を持つ人たちで固められていて、大将首の印を身に着けている。
そしてモガミはトモミの隣に居て、勇ましく騎手として戦いに挑んでいる。
確かに、こうやって見ると一組のトモミが2組のやつらをなぎ倒していく様はすごいが、四組のドンが蹴散らしているさまを見ると、その勢いがかすんでしまう。
「三組と四組、強いです、五組頑張ってください。」
早々に全騎馬退場した五組を置いて、三組と四組がバッチバチの戦いを繰り広げていたが、一組と二組もなかなかな戦いをしているが、なぜか一組の大半が崩れたところで二組が軒並み退場となったようであった。
「のこったのは、一組と三組、四組と六組です。
三組が四組に負け、残りは一組、四組、六組です。
がんばってください。」
無常な放送と共に、ヨウカとワタベのクラスが敗退し、ついに蟲毒が始まった。
明らかに人数が多い四組と六組だが、やはりというか、残ったモガミとトモミの騎馬に襲い掛かり、即座に終わらせようとするのが見てとれたが、ここで二騎馬の連係が発揮された。
同じ組ならば一対一以外でも一対多数を容認している、そんななかでモガミたちの騎馬がおとりとなり、その隙にトモミがどんどんと騎手のハチマキを奪い取っていく。
もしもモガミのハチマキが取られそうになれば、トモミがそれをかばっている間にモガミ自身がハチマキを取りに行き、トモミが襲われればモガミが率先して取りに行く。
そしてハチマキを結びなおしてもいいらしく、たったの二騎だけでどんどんと四組の雑魚と六組の雑魚をなぎ倒していく。
それぞれの大将首は四組と六組が戦っており、ザコをこちらに寄越して、お互いを戦わせることでこちらを無視する形にしているらしい。
が、あまりにもトモミとモガミが無双すぎる。
そのうち、ほとんどの雑魚を一掃したらしいトモミとモガミを含めた騎馬隊は、一旦組みなおしを許され、騎馬の人たちは手を揉んだりして疲れをとっていた。
そして、六組の騎馬を打ち取った四組の大将首と戦うことになったわけだが、四組は明らかに異様な雰囲気をまとっていて、自信のようなものが見てとれた。
「結局、あんたと最後にはぶち当たることになるんだね。」
何やら、四組の大将が口に出すのが五号を通して聞こえてきたので、私は耳を五号にくっつける。
「最後にはって、君さぁ、そんな力手に入れてでも一番になりたかったの?
もう六組には勝てないし、これ以上戦ったとしても、勝てないかもだよ?」
モガミの声が聞こえてきて、それと同時に四組の大将首と戦うことになったが、モガミは気づけばハチマキをとられており、あっけにとられている。
「あははっ!やっぱり、噂は本当だったんだ。
道端に落ちているキーホルダーを手に入れれば、どんな人でも強くなれる。
弱い人でも、こんなに強い騎馬になれる、こんなに人を使って無双できるなんて!
きょうは何て良い日なの?!」
明らかに自己に陶酔している様子だが、放送は未だに同じことを言っている。
「一組、頑張ってください、四組、頑張ってください。」
その声と共に、一時休みをとっていると取られたようだ、せかす声が聞こえてくる。
「あの、言っては何ですが、貴女が手にしている力というものは、自身を滅ぼすような力なのですが。
それを運動会ごときで使って自身を滅ぼすなんて、愚の骨頂だと思いません?
それをたった一刻の勝ちのためだけに使うなんて、それはおかしいことだと、気付かないのですか?
なにより、その力を持っても大丈夫だと言った人は、何物ですか?」
トモミが問うのに対し、相手は高笑いして答える。
「そんなの、黒い男性に決まってるじゃない!
ほら、かかって来いよ、さっさとぶっ倒して、私たちこそ一番だって証明してやるんだから!」
その言葉に、トモミはため息を吐き、ポケットに手を入れたのが見えたと思ったら、合言葉を言ったらしい、服装がエフェクトと共に変わる。
相手がスケバンならば、こちらは異世界物のかわいらしい制服といったところか。
「これで、あなたと同等の力を手に入れられたと思います。
さぁ、戦いましょうか。」
トモミのギラリとした目が遠くからでもよくわかる。
トモミが相手に挑発するような手をすると、すぐに相手はトモミの騎馬に襲い掛かった。
「一組、頑張ってください、四組、がんばってください。」
その声と同時に、大将戦へと移行したそれぞれの騎馬だが、トモミの騎馬は明らかに疲れが見え、相手の騎馬の方が有利に戦闘が進んでいるように見える。
だが、お互いに相手のことを落とそうと押し合いや引き合い、つかみ合いにリボンをとろうとする戦いと、なかなかにすさまじい戦いが繰り広げられ、見ているこっちとしてはまさに命をとるような戦いに見えないこともない。
「おらぁ!敵取れ四組!一組に負けるなぁ!」
「一組!なんでもいいから四組に勝てぇ!どんなからくりかは知らないけど!その服は何なんだぁ!」
そんな声がそこかしこから聞こえてくるが、騎馬が押され、四組の騎手が下につきそうになったところで、その騎馬は変容を始めてしまった。
と、そこでトウサカ先生から私へと連絡が入る。
『かおりん、確か卵勢ぞろいしているんでしょ?
騎馬の状態だったら、ルールに反していないから、きっと受け入れられる。
制圧よろしく。』
それに苦い思いにはなるが、即座にテラ、イルル、アインス、カゲリ、リオンに指示を出し、イルルとアインスで姿を偽装したのちに、テラ、カゲリ、リオンを女体に変更、そして私は謎の騎手として、いつもの潜入時の姿になって、中央にテラ、右翼にカゲリ、左翼にリオンを配置して、入場門から飛びいる。
その間も四組の人は変化を終え、変化した形というのが、ハチマキが兜となり、騎馬が三つ首の馬となり、そこに乗っている騎手は明らかなスケバン武将となり、その声があたりに響く。
「わが名はクルセイドシスター……たたかいを、もとめるもの成り。」
明らかに異形となり、普通ならばここで競技が終了となりそうなものだが、未だに普通に実況されているので、ちらりと周りを見渡せば、ほかの人たちが陽炎のように揺らいでいるのが見えた。
「トモミ、助太刀に来たぞ。」
私がトモミの隣へとたどり着き、そういえば、トモミはボロボロなままにこちらを見た。
「は、ハラさん?!これは、私の戦いです、邪魔しないでください!」
トモミはそう言うが、もう騎馬が持ちそうにない、このままでは負けてしまい、どうなるかもわからないという中だったのだ、トモミには謝りつつ、作戦を言ってしまう。
「トモミ、騎馬の皆さん、あとどれくらい体力は残ってますか?」
私がトモミたちのクラスのハチマキを付けていたからだろう、即座に答えてくれる。
「しょ、しょうじき、もう……」
「わたしたち、もう、きつくて……」
「だれか、助けてもらえたらッて……」
下に居た体育会系の人たちも、十分に騎馬としての力は発揮したようだ。
未だに騎馬の足が下についていないのが奇跡だと言えるほどだ。
「わかった、トモミ、一旦足を引き上げてちゃんと騎馬の人たちの体勢を整えてから、戦いに加わってくれ。」
私が言えば、トモミは驚きの声をあげる。
「そ、それでは……!」
「あぁ、ここからは。
私たちが相手だ。」
私はそう言うが、相手の方が大きさ的には明らかに大きく、相手はあざ笑ってくる。
「はんっ!そんなに小さい騎馬で何ができるとでも?」
「その減らず口、いつまで続くかな?!」
私がそう言って、三体に命じると、三人は勢いよく飛び上がり、私は相手に掴みかかる。
「はぁ?!なんだそれ?!」
相手がそういうのを無視し、私は兜が外れないかを確認するが、どうにも外れそうにない。
「やっぱり、相手のことをなぎ倒すしかないか!」
そう言って、着地したあとに更に飛び上がってもらい、相手の横から騎馬を倒そうとするが、相手もこちらのその手には引っかからず、こちらに掴みかかってくる。
「あんたみたいなチビ、さっさと倒れればいいのよ!
ほらぁ、こんな攻撃でも揺らいだり……あ、あれ?
なんでつかめないの?!」
そう、その通り、私はイルルを装備しているため、相手が掴みかかると同時にその手を外すことができ、その上で、相手の脇腹に一撃を入れる。
「くっそぉ!」
どちらの声かはわからないが、そういいながらつかみ合いは続く。
「がんばれ~!」「どっちも負けるなぁー!」「すごい戦いになってきました!」
そんな声が聞こえてきて、どっちが勝つとかのことが薄れている。
「あはははははっ!こぉんな攻撃をいなせないのぉ?
ざぁこざぁこ!さっさと倒れなよぉ!」
騎馬の三つ頭がぶんぶんと頭を動かすと同時に、私の騎馬にあたって、テラが崩れそうになるのを必死になって受けてもらっている。
「しゅじん、がんばる。」
その言葉がどちらの意味なのかは、その時にわかることだ。
「はらさんに、てぇだすなぁ!」
私が負けそうになったところで、トモミが乱入し、ついに私は崩れ去ってしまったが、どうやらペナルティは少しはあるようだ。
「な、何だこの霧?」
トモミが乱入してきたことで驚いて落ちたわけだが、その時に霧が私の周りにまとわりついたのだ。
「おらぁ!コレでおしまいぃ!」
トモミがその声と共に倒されそうになるが、相手の様子が変わる。
「あ、あれ?」
「これでおしまいと、貴女は言いましたね?
あなたのほうが、もう下についているんですよ。
ざんねんでしたね。」
トモミの言うとおりに相手の騎馬が崩れ去り、相手の大将が下についているのはそうなのだが、私の周りにまとわりついている黒い霧は消えそうにない。
「と、トモミ!助けてくれ!」
黒い霧が私を巻き込んでどこかに移動しようとしているのがありありと見てとれたため、トモミに助けを要求したら、リオンが私のことをトモミの方に投げてくれた。
「リオン?!」
そして、カゲリとテラを含めた三体が、黒い霧へと吸い込まれていき、そのまま相手が霧と共に掻き消えてしまった。
「え、え?」
突如として、奪われてしまった三体に私は呆然とするしかないが、周りでは勝利宣言がなされていた。
「一組が勝ちました、この競技、一位が一組、二位が四組、三位が六組と決まりました。
みなさん、おつかれさまでした、退場の用意をお願いします。」
まるで何事もなかったかのように退場の音楽が鳴り、私は下に落ちていた、今回はクルセイドシスターというらしい、を手に取り、皆と共に退場をする。
退場したあとに親が探しに来たのだが、気付けば先ほど吸い込まれた人と似た人がそこにはいて、普通に親と談笑しているのが確認できたのだ。
「は、ぁ?あいつ、さっきこの中に吸い込まれたよな?」
そんな問いが、思わず出てしまったら、そこにほかの者たちが走り寄ってくる。
「なぁなぁ!さっきの人、そこに吸い込まれたはずだよなぁ?!」
トモシゲが自身の理解を否定するかのように叫ぶのに、私は無言でうなずく。
「おい、これ、呪われた品ってのは、わかってた、つもりだけど……さぁ。
どうして、親や友人だと思われる人たちが、あの偽物と楽しそうに話しているんだ?」
フジキも恐怖しているような表情だったが、一番ヤバいのはユシタンだ。
「そ、それが噂の黒い男のキーホルダーなのか?
やっぱり呪いの品じゃねぇか!
そのおぞましいものを近づけんなよ?ぶっ殺すぞ?」
明らかに過剰反応だが、未だに穢れ水晶は黒いままだ。
「この中に入っているのは、なにも人だけじゃない。
私の卵も、吸い込まれてしまったんだ。」
私がそう言えば、この場に来たみんなが驚愕の表情をする。
「やっぱそうだよねぇ?私なんかぁの見間違いじゃぁ、なかったよね?」
ヨリカの言葉に、アマチャンがこぶしを手に叩きつけながら苛立ちを示す。
「あんなことがあったのに、あたしが参戦できねぇのが一番イラつくぅ!
なんだったんだよ!私が殴り込もうとしたら、まるで障壁のようなもので中に入れなかったんだけど?!
あー、ムカつくぅ!」
アマチャンの言葉で、シンリュウの言葉がわかった。
「あの結界の中には騎馬の状態じゃないと入れなかったんじゃないのか?
シンリュウから、騎馬の状態でツッコめって、指示があったからな。」
私が言えば、皆が納得した顔をした。
「して、今後はどうするのだ?
三体が飲み込まれ、ハラ自身も疲れておろう、中に入る方法だというものは、理解しておるのか?」
ハジメにそういわれるが、頭を悩ませるしかない。
そうしているうちに、三年生の競技が始まるらしい、アマチャンとヨリカが呼ばれて召集され、そのまま竹取物語という名の棒の取り合いが行なわれ、最終的にはヨリカのクラスが勝ったようであった。




