第33話 撃滅
それにしてもこいつら、ユイハが倒したハイオークより強い気がする。
喋る上に頭を使って戦うし、最初に僕が戦ったハイオークに近い気んじゃないかなぁ。
『こいつらはレベルが高いか、特殊な成長をした個体群なのかもしれないな』
扉の解錠作業をしながらマモルも同意してくれる。
ユイハが倒した最初の一匹は不意打ちだったから、ああも簡単に倒せたのかもしれない。
二匹目以降はそれを学習して近づいてこない。
だけど膠着する分には問題ない。
マモルが扉を開けてくれれば、三人で向こう側に退避して今とは逆に敵を一体ずつ囲むことも出来るだろう。最低でも一対一で戦える。
奴等もそれを見越したのか、仲間達と目配せをして攻撃の意志を統一している。
「イッセイニ、イクゾ!」
「オウ! グルァアァァァッ!」
四匹のハイオーク達は咆哮を上げると一斉に飛び掛かってきた。
それを迎え撃つユイハは刀を鞘に収めた状態で構えたまま、腰を静める。
「今の能力ならば、これで――疾風剣!」
ユイハも必殺技を出した!?
床石にヒビが入るほどの踏み込みと共に繰り出された斬撃は、単純な居合いの一閃に見えた。
けれど技名を口にするほどの一撃がただの攻撃であるはずがない。
「グギッ!?」
「ギギャアッ!?」
「ガァアァアァァッ!?」
「ウグガッ、アァアァァ……!」
ハイオーク達の口から痛苦の叫び声が上がる。
三匹のハイオークの腕や足が切り飛ばされ、残り一体は胴体が寸断されていた。
致命の一撃を受けたハイオークはそのまま崩れ落ち、残りの体勢を崩した者達にはユイハの冷静な追撃が加えられる。
「せいっ、やっ、はぁぁっ!!」
一匹は袈裟懸けに斬り捨てられ、一匹は股から脳天まで真っ二つに斬り上げられ、最後の一匹は翻った斬撃で首を飛ばされた。
「――終わりです」
全てのハイオークが地に伏して動かなくなったのを確認すると、刀を一振りして黒い血を振り払って鞘へと収める。
先程までの第一種な感じの警戒態勢を解いたユイハを見て、周りにいたハイオークを全て倒してしまったのだと理解した。
「いっ、今の……何!?」
「疾風剣――一薙ぎで複数の斬撃を与える剣技です」
ユイハまで必殺技を!?
この世界の戦士は必殺技を使えるのが普通なのだろうか。
「この技は技量や、込める魔力の量によって発生する斬撃の数が変わるのです」
驚いて固まってしまった僕に説明を続けてくれる。
「今までの私では二つの斬撃で精一杯でしたが、アストラさんの魔法のおかげで四つの斬撃を放つことができました。ありがとうございます」
「え、いや、うん……どう、いたしまして?」
マモルさんのおかげなんですけどね。補助魔法半端ない。
ユイハさんはもっと半端ないっす。
話を終えるとユイハは前方を見据える。
そうだった、ペトラさんがまだ戦ってたんだった!
のんびり話してないで彼女の加勢に行ってあげたほうがいいんじゃないか、と思ってしまったけれど『伏兵がいるかもしれないからな』というマモルの言葉を聞いて納得した。
そして僕もペトラさんのほうに目を向けて、その考えの正しさを更に理解する。
「おらっ、どうした! お前らの力はそんなもんか!」
「グルルルゥッ! ニンゲンゴトキニ……!」
挑発しながらハイオーク達を翻弄するペトラさんの姿が目に入った。
そして彼女を囲むハイオークの数は既に半分に減っていた。
彼女自身は傷らしい傷を負っていないのに、もう五匹も敵を倒していたのだ。
「ほらほら、気を付けな! 足元がお留守だよ!」
どこかの神様のようなことを言いながら、容赦無く足を薙ぎ払う。
数が減ったことで連携に穴が空き、そこを突いて更に隙を大きくさせているようだ。
この様子ならユイハが加勢するまでもなく終わってしまいそうだ。
「さぁて、そろそろ終いにしようか。赤刃――!」
と考えている間にまたペトラさんの必殺技が!
彼女の手にした戦斧、その鋼色だった刃の部分が真っ赤に染まっていく。
刃先の部分は空気が揺らいでいるように見える。赤熱しているのかもしれないとマモルが推測を教えてくれた。
「黒豚共が、覚悟はいいかい?」
黒豚! なんて高級で美味しそうな響き。
『なら普通のオークは緑豚だな』
そっちはあんまり美味しくなさそうだね。
この世界では魔物も食べるみたいだけれど、人型をしたオークとかも食べるのだろうか。
『大ネズミを食うんだし、オークくらいは食いそうな気がするな』
うわぁ……。ハイオークは喋る奴もいるし、僕は遠慮したいなぁ。
なんて場違いな脳内会話に興じてしまっていたけれど、会話を終えてもまだペトラさんの黒豚呼びの直後だった。
本当にマモルとの会話中は体感時間が長くなるのね。
アクションゲームで戦闘中にポーズボタンを押して、友達と攻略法を相談してるみたいな感じにも使えそう。
スキルってすごい。
「受けられるなら、止めてごらん!」
「グルァアァァッ!?」
赤熱した斧で斬り掛かると、ユイハでさえ斬れなかったハイオークの武器があっさりと真っ二つになって切り飛ばされた。
武器を破壊された奴も驚いていて、それがまた致命的な隙になる。
ペトラさんはそのまま斧を振り回しながら立ち回り、決定的に連携が乱れてバラバラになったハイオークの間を舞うように駆け抜ける。
赤刃乱舞という中二っぽいネーミングが頭に浮かんでしまった。
「ギャギィイィィンッ!?」
「グガァアァァッ!」
「ウグルゥウッ! ニンゲン、メェッ……ギィアァアッ!」
武器や手足を切り飛ばされ、胴体を薙がれ、頭をかち割られてハイオーク達が次々に屠られていく。
「お前で、終わりだぁっ!」
「ガハァアァァァッ!」
最後の一匹は左の逆袈裟から右の逆袈裟へと流れるような動きで斬り上げた。
四つに裂かれたハイオークの身体が倒れると、しばし残心した後に斧を振るう。
オークの黒い血液は蒸発してしまったのか血飛沫が飛ぶことはなかったけれど、赤かった刃がそれで元の鋼色に戻った。
広間の中に立っているのは僕達三人だけで、他に動くものは残っていなかった。
全てのハイオークを二人で倒し尽くしてしまったのだ。
『こちらも終わったぞ』
二人の強さに呆然としていると、マモルが扉の結界を破ったことを教えてくれた。
扉を押して開くのを見せながら二人にそれを告げる。
「ユイハ、ペトラさん、お疲れ様。あ、こっちも……その、終わった、みたいです」
「ご苦労。早かったね」
「お疲れ様でした、アストラさん」
二人の活躍を労ったら僕まで二人に労われてしまった。
いや、僕は全然疲れてませんけどね。ただ見てただけなんで。
「それにしても……二人とも、すごい必殺技持ってるんだね。あれ、最初からその、必殺技を使えば良かったの……では?」
「無茶をお言いでないよ。そんなにポンポンと出せるもんじゃあないのさ」
「アストラさん、剣技も斧技も、武技と呼ばれるものは全て魔力を闘気にまで練り上げて放つものなのです」
「戦う前から闘気練ってたら魔力切れで気を失っちまう。維持するのにも魔力を消耗するんだからねぇ」
二人に聞いたところ、必殺技は武技と呼ばれているらしい。修練を積んだ人間が放つ、魔力を帯びた技。
力も魔力も魔物や魔族に敵わない人族は、技によってそれに対抗する術を編み出した。そして練り上げてきた人類の武器だと誇らしげに教えてくれた。
魔法を使うよりも遥かに小さな魔力消費で大きな威力を発揮出来るけれど、代わりにちょっとやそっとでは身に付けられないのだそうだ。
絶え間ない修練と努力によってのみ習得出来るらしい。
使ってみたいけど、僕にはとても身に付けられそうもない。
マモルの魔法を必殺技みたいに叫ぶだけで我慢しておこう。そうしよう。
無事にハイオーク軍団も倒せたし、扉も開いたことだし先に進むとしよう。
そう思って広間から出ようとしたところで後ろから制止の声が掛けられる。
「待て」
振り向くと、ハイオーク達が現れたものよりも倍くらい大きな魔方陣が床の上に浮かび上がり、輝きを放っていた。
その中から醜悪な顔をした巨体のオークが現れる。先ほどの声はこいつだったようだ。
ハイオークに比べて二回りほども大きく、身長は三メートル近いのではないだろうか。
横幅も相応に太くて威圧感がすごい。
肌の色はハイオークよりも濃くて漆黒に近い。ハイオークの更に上位種なのかもしれない。
と、そのオークに注目していると魔方陣からもう一人が姿を現わした。
一匹ではなく、一人。
ついに魔法使いの登場かと思ったけれど違った。
男ではなく、妙齢の女性だった。
肌の色は病的なくらいに青白いけれど、出るところが出て引っ込むところが引っ込んだグラマラスな体型をしている。
その身を包むのは身体の線がはっきりと出る、というか肌を過剰に露出した扇情的な衣服だ。目のやりどころに困ってしまう。
しかし何より驚くべきは点は彼女の頭部にあった。
側頭部から山羊のような少し捻れた二本の角が伸びているのだ。
もしかしたら山羊の獣人なのかもしれない。
「気を付けて下さい、アストラさん! あれは危険です」
「ふぅむ……ヤバい奴が出てきたねぇ。気を引き締めな!」
またぼうっと眺めていたら、ユイハとペトラさんが臨戦態勢を取って警告してきた。
巨大オークのほうかなと思ったら、二人の視線は女性のほうに集中している。特にあちらがヤバいらしい。
僕には綺麗でエロいだけに見えるんだけど、どうやら二人は相対しただけで敵の強さとかが分かってしまうようだ。
この人達、気とか見えちゃったりしてるのかな。
山羊獣人の女の人、ものすごくヤバいらしい。どうしよう!




