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第30話 新装備

「んぁ……?」

「よかった。気がつかれましたか」


 気付くと宿屋の自室にあるベッドだった。

 すぐ脇にある椅子に座っていたユイハが心配そうに声を掛けてくる。

 友達が出来たことはまさか夢だったのかと落ち込みそうになったけれど、あの会話の後に突然気を失ったことを教えられて安心した。


 と、話をしていたら窓からシロが入ってきて僕にすり寄ってきた。


「お。昼間に来るなんて珍しいな」

「ニャァン」

「お腹すいたのか? 今日はいい肉があるんだぞ~」


 倒した後に少しだけ確保しておいたオルトロスの肉を小さく切り分けて与えると、美味しいのかニャグニャグ言いながら夢中で食べていた。

 食べ終わって満足そうにしている背中を優しく撫でてやると気持ち良さそうに喉を鳴らす。


「……」


 視線を感じて横を振り向くと、羨ましそうにシロを見ているユイハと目が合った。

 少し頬を赤らめて視線を逸らしたけれど、目線はシロに向けられている。

 シロに構いすぎてほったらかしにしてしまったけれど、彼女も猫に興味津々だったようだ。


「優しく撫でてあげると喜ぶよ」


 シロを抱き上げてユイハに近づくと、恐る恐る手を伸ばして白い毛並みに触れる。

 そろりそろりと撫で始めると、シロと一緒に彼女の顔もふにゃーんと蕩(とろ)けていた。

 どうやら彼女も猫派だったようだ。


 そうしてしばらく二人でシロの毛並みを堪能していたのだけれど。

 急にむずがって僕の腕から飛び降りると、パッと窓から出ていってしまった。


「ようやくお目覚めかい?」


 二人でシロの消えた窓を名残惜しく見ていると、ペトラさんが部屋に入ってきた。

 彼女が恐かったのかな? やっぱり獅子だもんね。


「あっ、はい……その、ご心配お掛けしました……」

「いいさ。あれだけの大物だったからねぇ」


 どうやらオルトロスとの戦いの疲れが出たと思われているようだ。

 壁に寄り掛かりながら後処理のことを話してくれる。

 倒した魔獣の巨体は冒険者ギルドの人達が解体と運び入れをしてくれたらしい。ありがたいことだ。


「それにしても、どうしてあんな大物がこんなところに出たのかねぇ」

「あっ、それは――」


 オルトロスは塔の門番のような存在で、ユイハを追ってきたのではないかという推測を話した。


「まぁた、例の魔法使いの仕業かい。ったく、迷惑な野郎だよ。……ん? 門番ならどうしてあのときオルトロスじゃなく、あんた――ユイハがいたんだい?」

「あっ、確かに。どうして?」

「はい。あの男は何者かに頼まれ、魔獣を連れて出掛けていました。それで代わりに私を配置したようです」

「門番としては、その、申し分のない戦力だったもんね……」

「……申し訳ありませんでした」

「あーっ、やっ、そういう意味ではっ」

「帰ってきたところを闇討ちしたのですが、失敗してしまいしたし……」


 その後、逃げた彼女を僕が見つけたという流れなわけだ。


「ふぅむ……ユイハが返り討ちに遭うような奴なのに、更に仲間がいるのかい? 少し厄介(やっかい)だねぇ」

「そうですね……もう友達も出来たし、無理に行かなくてもいいんじゃないかなぁ」


 魔法使い一人でも強そうなのに、仲間までいるとしたら厳しすぎる。

 それならもう無理に戦いにいく必要はないんじゃないかと思えてきてしまった。

 そこまで絶対に帰りたい理由もないし。元の世界に戻ったら、せっかく出来た友達がいなくなってしまうじゃないか。


「今さら何言ってんだい。というか、友達? 何のことだい?」

「えへへっ、実はですねっ――」


 ユイハ、ヨーゼフさん、サリちゃんと三人も友達が出来たこと、前々から友達になりたいと思っていたことを嬉しさを抑えきれない感じで話した。

 せっかくなのでペトラさんにもお願いしてみた。


「あたしは遠慮しとくよ。お前さんのこと、まだよく知らないしねぇ」

「う……そう、ですか。残念です……」


 けれどすげなく断られてしまい、少し落ち込む。


「友達、ねぇ? ユイハはまぁ、歳も近い同郷だからいいが……ヨーゼフやサリを友達っていうのはちょいと厳しいんじゃないのかい?」

「えぇっ!? でも、二人とも快く友達になってくれましたよ」

「二人の側じゃなく、あんたの問題さね。年端もいかない子供や、親子ほども離れたおっさんと、初めから友達になりたかったって考えがあたしにはちょいと分からないねぇ」

「え、う、あぅ……」

「ま、あの二人はいいさ。でももう少し距離感って奴を考えないと、どっかで足を掬(すく)われちまうよ」


 苦言を呈されてしまった。

 でも確かにちょっと友達を軽く考えていたかもしれない。

 もし現代でサリちゃんと友達になりたいなんて言ったら確実に事案だし。

 ヨーゼフさんは気の良い人だったからOKしてくれたけど、普通のおじさんが僕みたいな若造に友達になろうなんて言われたら怒り出しかねない。

 友達を百人も作りたいわけでもないし、今後は慎重にいったほうがいいだろう。


「大丈夫ですよ。アストラさんの足を掬いそうなものがあったら、私が斬り伏せますので」

「えっ? あっ、ありがとう……?」

「はい、友達ですからね」

「おぉぉっ……そうだよね、友達だもんね!」


 何かすごく物騒なことを言われたような気がしたけれど、友達という言葉で吹き飛んでしまった。

 うんうん。友達同士、助け合っていかないとだよね。


「はぁぁ……ったく。行かなくていいなんてさっき言ってたけどね、その大事な友達が狙われてるんじゃないのかい?」

「はっ、そうだった!」


 奴はユイハに瀕死の重傷を負わせた上に追っ手を差し向け、ヨーゼフさんに怪我を負わせ、サリちゃんを怖がらせたのだ。


「あの野郎、僕の友達に手を出しやがって! 絶対に許さない」

「ちょいとあんた、性格変わってないかい。興奮しすぎだよ」

「いいえ、奴を倒さなければ!絶対に!」

「アストラさん、私のためにそれほど――ありがとうございます」

「当然だろう、友達なんだからね!」

「はいっ!」

「あんたら……まぁいい。約束したからね、あたしも付き合うよ」

「ありがとうございます、ペトラさんっ」


 ペトラさんは何故かちょっと呆れた様子だけれど、ユイハも僕と同じくやる気満々だ。

 無理矢理召喚されて捕らわれ、操られていたんだからあたりまえか。


「そうと決まればさっそく準備だ」

「了解ですっ」

「まずは装備品かね。アストラの鎧もボロボロだしね」


 いつの間にか脱がされていた鎧が部屋の隅に置いてあった。

 ペトラさんの言う通り、胸当て部分がグシャグシャになってしまっていた。これでは修復も無理そうだ。

 鋼鉄製だから皮製の鎧より長く使えると思っていたのに、僅か一日で壊れてしまった。金貨一枚もしたのに……。

 それに命を救われたのだから文句は言えないけれど。


「新しい鎧が必要だろう」

「はい、でも……先立つものが」


 その鎧を買うために使い果たしてしまい、もうポーション一つ買うお金も残っていない。


「安心しな。十分あるよ」


 そう言ってペトラさんがジャラリと音のする革袋をテーブルの上に置いた。

 金貨二十枚以上ありそうだ。日本円にして二千万円超え!


「オルトロス討伐の報奨と、魔石や素材の代金だ。全部売っぱらっちまったけど問題はないだろう?」

「はい、大丈夫です! おぉぉっ、あいつそんなに高かったんですね」

「そりゃあAランクの討伐対象だからねぇ。あのまま町が襲われたときの被害を考えりゃあ安いもんだよ」

「確かに……」


 あそこで食い止められなくて町の人達が食い殺されていたらと思うとゾッとする。

 本当に倒せて良かったよ。


「等分にしても一人金貨八枚だ。それとは別にあんたらはグレイウーズやらも狩ってきたんだろう?」

「はい。先ほど換金していただいてきて、合計で金貨二枚になりました」

「ほらね。いい装備が買えそうじゃないかい」

「そうですね! 鋼鉄より強くて、今度こそ壊れない鎧を手に入れたい……!」


 そんな決意を胸に、宿を出て武器防具店へと向かうのだった。



「また派手に壊したもんだな」

「すみません……」


 一応持参した鎧を見せると、呆れた声で迎えられてしまった。


「まぁ、お前さんが無事だったなら鎧も本望だろうよ」

「そう言っていただけるとありがたいです」


 やはりここまでメタメタになってしまうと修復するより買い直したほうがいいらしい。

 胸当ては鋳潰(いつぶ)して原料行きだけど、他の部位はほぼ新品なので下取りしてもらえた。


「お前さん、魔法が使えて制御も出来るそうじゃねえか。それでデカい魔獣を倒したんだろう? ならコイツを使いこなせそうだな」

「これは……?」

「ミスリル製の軽鎧だ」


 おぉぉっ、これが噂のファンタジー金属!

 ミスリルはものすごく軽い上に、魔力を流し込む事で硬度や重量を飛躍的に上げることが出来るらしい。

 武器だったら軽さで素早く振りかぶり、インパクトの瞬間に重くして威力を上げる、なんてテクニカルなことも可能なのだとか。


 防具の場合、耐えて守る重戦士ならともかくスピード勝負の軽戦士は困るんじゃないかと思ったけれど。

 ミスリル製の装備は流し込む魔力の質や量を調整することで、重量をそのままに硬度だけ上げることも出来るのだそうだ。

 武器でも防具でも使いこなすには相当な技量が必要らしいけれど、僕ならば何の問題もない。

 マモルが完全に制御してくれるからね! ……何か言っててさみしくなるけど、俺の力は明日虎の力だとマモルが励ましてくれた。


「はい、これにします!」


 ミスリル製品は鉄や鋼鉄とは比べものにならないくらい高かった。

 金貨八枚、日本円にすると八百万円相当だ。

 高級車が買えちゃうお値段ですよ! 異世界では売っていませんけど!


 オルトロスの討伐金が全て吹き飛んでしまったけれど、命には換えられないので仕方がないか。

 何だか金銭感覚が狂ってしまいそう。でも、これは散財ではなく必要経費なのだから問題ないだろう。

 武器はほぼ無傷だったし、ミスリル製のを買うお金は残っていないのでそのまま使うことにした。


 というわけで、さっそく装備してみたのだけれど……。


「ふむ。相変わらず何というか……のう?」

「あー、ちょいとねぇ……。ま、見た目は性能に影響しないさ」


 また遠回しに似合っていないと言われてしまった。

 日本人に西洋風の鎧が似合わないのは仕方ないじゃない! 和風の鎧兜作ってよ!

 ……まぁ、そっちも似合わない可能性が否定出来ないけどさ!

 自分で考えていて落ち込んでしまったのだけれど。


「良くお似合いですよ、アストラさん」


 ユイハは鈴の鳴るような声でそう言ってくれたのだ。

 お世辞かなと思ったけれど、彼女の顔は至って真面目だった。

 ヒュウガ人的に見ると本当に似合っているのかもしれない。


「うんっ、ありがとうユイハ!」

「まぁ、感性は人それぞれ違うもんだしね」


 初めて鎧姿を褒められた喜びが溢れ、満面の笑みでお礼を言った。

 ペトラさんの呟きは聞こえないふりをしてスルーする。僕は褒められて伸びるタイプなのだ。



「ユイハも何か防具を買おうよ」


 僕の装備が終わったら次はユイハの装備だ。

 彼女は振袖と袴しか身に付けていない。

 森の中でもさっきの戦闘でも危なげなく避けまくっていたけれど、彼女がいつ攻撃を受けてしまうかと僕は内心ヒヤヒヤしていた。

 本当は連携の訓練へ行く前に買いたかったのだけれど、あのときはポーション一本すら買うお金がなくて断念した。

 でも今は彼女自身が金貨九枚も持っているのだ。

 刀はこのお店には売っていないし業物を持っているので武器はそのままとしても、何か防具を装備して欲しい。


「甲冑ですか? 速度を損なう装備は剣の妨げとなりますので、このままで構いません」


 しかしキッパリと断られてしまった。

 ミスリルや皮製の軽鎧でも動きが阻害されてしまうので装備したくないらしい。

 僕の精神衛生のためにも、部分的にでも何か装備して欲しいとお願いする。


「そうですね……。この手甲――籠手だけならば」


 難しい顔で色々と防具を見定めていたユイハは、僕のと同じミスリル製の籠手を手に取った。

 彼女の気が変わらない内に速購入した。

 さすがにミスリル製だけあって籠手のみでも金貨二枚した。二百万円、普通車が買える値段だね!


「これは――なかなか良いですね。使えそうです」


 軽い上に魔力を通すと鋼鉄以上に硬くなるので攻撃の幅が増えそうだと気に入っていた。防具だよ?

 ユイハの要望で指と手の平部分を切り取るという改造が施されてしまったけれど、彼女ならば指を切られるような戦い方はしないのだろう。


 本当は脚甲も付けてもらいたかったのだけれど、固辞されてしまったので断念した。

 ヒュウガの剣士は防ぐことよりも避けることを良しとするらしい。

 当たらなければどうということはない、ということなのだろうか。確かにものすごく速いしね。


 ペトラさんは特に装備の故障なども無いようなのでそのままだ。

 後は商店でポーション等の消耗品を購入して準備は完了したのだった。


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