第27話 強襲
ユイハの陰腹事件の翌日。
「今日はいかがしますか?」
「そっ、そうだね。今日は二人で、魔物の討伐……して、みようか? あいつと戦うにも、ほら、連携とか……取らないと、でしょ?」
「それは重要ですね。是非やりましょう」
またユイハが変な事を言い出す前に、戦いの提案をしてみた。
お腹の調子とかが心配なのでもう一日くらい休んで欲しかったのだけれど、また何か思い詰めて陰腹を召されても嫌だ。
それに連携訓練は絶対にしたほうが良いと思う。
ユイハの剣の技量は凄まじかった。ぶっつけ本番で連携が取れるとはとても思えない。
ペトラさんは冒険者としてパーティを組んでいた経験もあってか僕に合わせてくれていたけれど、ユイハもそうだとは限らない。
連携の訓練をするように昨日マモルからアドバイスを受けていたのだ。
それともう一つ、切実な問題がある。
装備にポーションにとお金を使いすぎ、手持ちのお金が銀貨一枚を切ってしまったのだ。
今日明日の宿代くらいは大丈夫だけれど、魔法使いとの戦いに備えるのに所持金一万円未満は厳しい。
連携の練習と共に資金稼ぎもしなくてはならない。
ユイハの了承も得られたところで冒険者ギルドに行った。
ギルド内の視線をユイハが独占していたけれど、特にからまれることもなかった。
ユイハは凛とした美人さんだしね。声を掛けるのためらっちゃうよね。わかる、わかるよ。とても。
受付のカティヤさんに引き攣った笑顔を向けられながら、討伐依頼を受けた。
カティアさんが、また綺麗な人と……とかつぶやいていたけれど、この町でも上位に入るという美人のカティアさんから見てもユイハは美人さんらしい。マモルが小さい溜息をついたので問い掛けたが、何でもないというので町を出て森へと向かった。
「それでは、私の実力をご覧に入れましょう」
小一時間も掛からず森に辿り着くと、目を爛々と輝かせて僕の前を歩き始めた。
道中は「足腰を鍛える訓練です」とか言ってずっと走り通しだったのに元気なことだ。
きっと魔法使いに捕らわれていたときには満足に動くことも出来ず、そうとうに鬱憤が溜まっていたのだろう。
本人がやる気のようだし、マモルも少し様子を見てみようと言うので、背後を守るように後ろを付いていったのだけれど。
僕の出る幕は全くなかった。
「はぁっ!」
「せいっ!」
「しぃっ!」
出てくる魔物は全て、姿を見せると同時に一太刀で斬り伏せられてしまうのだ。
巨大バチは抜き打ちの一撃で、大グモは切り払い、オークは袈裟斬りにと、それぞれ両断していった。
「すっ、すごい綺麗に……切れてるね。僕がやっても、切断面がギザギザに、なっちゃうんだけど……」
さすが本職の剣士さん。力任せに叩き切ってる僕とは違うなぁ。
彼女の斬り筋が見事すぎて、自分との違いが思わず口に出てしまった。
まぁ、断面は相変わらずグロくて油断すると吐きそうになっちゃうんですけどね。
「それは刃筋が立てられていないせいかもしれませんね。私でよろしければ剣の振り方を後でお教えしましょう」
「うっ、うん、是非!」
そんな僕のちょっと後ろ向きな呟きを拾ってくれたユイハが前向きな提案をしてくれた。
剣道もやったことがないズブの素人な僕がそんな簡単に出来るようになるとは思えないけれど、魔法で器用さを強化してもらっていれば違うかもしれないしね。
後から付いていくだけなのも何なので、せめて刀身に保護の魔法を掛けようかと思ったのだけれど、刀に魔力を這わせることで同様の効果が得られるようで必要なかった。
魔物の血脂も刀を一振りするだけで綺麗に落ちていた。
「そういえばアストラさんは魔法を使うときに詠唱をしていませんね」
「えっ、あっ……それは、その……」
「無詠唱のスキルを持っておられるのですか?」
「うっ、うん。そう、頭の中で唱えてるんだ。あはははっ」
役に立つどころか不審な行動につっこみを入れられてしまった。
やはり魔法を使うときは詠唱するのがスタンダードなようだ。
何となく彼女の話に乗っかる形で答えておいた。
嘘はついていない。唱えているのは僕じゃなくてマモルだけどね!
そんなこんなとありながらも森の中を突き進んでいく。
あまりにもサクサクと倒してしまうためにかなり深い場所まで入ってしまい、スライムの上位種であるグレイウーズに遭遇してしまった。しかも二体同時に。
本来はこんな場所にいる奴だったんだ、不味いヤツに遭ったと焦ったのだけれど、ユイハは恐れる素振りも見せずに対峙する。
そして、周りの魔物達を僕が牽制している間に斬り掛かり、それぞれ一太刀で真っ二つに斬り飛ばしたのだ。
あのときの僕の苦戦は何だったのか。
正に剣鬼という言葉が相応しい戦いぶりを見せられてしまった。
もうちょっとこう、剣も使えるたおやかなお嬢様という想像をしていたのだけどなぁ。
どうやら彼女は剣一筋に生きてきた、生粋の剣士さんだったようだ。
それにどうも助けられてから今まで僕に頼り切りだったので、挽回しようと奮闘しているようだ。
そんなこと気にしなくていいのに。まぁ、それで彼女の気が済むのならいいだろう。
操られていたユイハと戦ったときに彼女の実力は嫌と言うほどこの身で味わっていたけれど、改めてその凄まじさを感じさせられたのだった。
「えっと……今日はもう、これくらいに、しておこう」
「そうですね。少々物足りない気もいたしますが、初日ですしこんなものでしょうか」
「あぁ、うん、そうだね……ははは」
あれだけ暴れ回ったのにまだ足りませんか。
内心の驚愕を表に出さず、曖昧に笑っておいた。
一応、溜まっていた鬱憤は晴れたのか、とても良い笑顔を返してくれた。
僕が何かする間もなく魔物を全て倒してしまうので連携の訓練には全くならなかったけれど、討伐数は十分以上に稼げたので良しとしよう。
僕ほとんど何もしませんでしたけど。
帰りも別のルートを通ったのでなかなかの数の魔物を討伐した。
ときおり先導しつつ無事に森を抜けると、「方向感覚が優れていますね」とお褒めの言葉をいただいた。お役立ちですよ、マモルさん。
帰りはさすがに走ることなく町へと向かっていたのだけれど。
マモルがふと一つの疑問を口にした。
『あの魔術師はユイハのことを探しに来はしないだろうか』
えっ、あの塔から落ちたんだし、死んだって思ってるんじゃないの?
『だが死体が無いだろう』
それは、あのでっかい魔物が食べちゃったと考えるんじゃないかな?
『門番を務めたこともあって魔物と対面する可能性がある彼女のことを、害するなという命令をしていてもおかしくない』
でもユイハのことを殺そうとしたんだよね? わざわざ始末するために探すかな?
『勢いで反撃したが、彼女のことを有用と考えているなら捕縛してまた利用しようとするんじゃないか?』
うわぁ、あるかも。あいつ、彼女のことを捜しに来ちゃうよ!
そんな脳内会話を繰り広げていたせいだろうか。
悪い予感が当たってしまったようだ。
あと三十分も歩けば辿り着くというところでユイハの表情が険しくなり、刀に手を掛けた。
「戦いの気配があります」
「えっ?」
慌ててマモルに視力強化を掛けてもらい、町のほうを見ると確かに門の手前で何か大きなものが動いている。
「町が襲われている可能性があります。急ぎましょう」
「うっ、うん!」
走り始めたユイハを追いかけ、速力も魔法で強化してもらって隣に並ぶ。
前方を睨み据えていた少女の目が鋭くなる。
「あれは――ヤツ、ですね」
「ヤツ? ……あっ!」
近づいたことで動いていた大きなものが何であるかに気付いた。
硬そうな毛並みをした後ろ姿は犬のように見えるけれど、アフリカ象を超えるような大きさがそれを否定する。
そして何よりも普通でないのは、胴体から生えた二つの頭。
その巨体と姿には見覚えがある。
塔から落とされた際、僕を食べようと口を開けていた魔物だった。




