第14話 動物型
「スライムと大ネズミ、そして大コウモリの討伐依頼、承りました」
まぁ、何と戦うのがよいか分からなかったので結局彼女に決めてもらったんですけどね。
討伐依頼を発行してもらうときにカティヤさんに少し心配されたけど、昨日スライムを倒したこととペトラさんが付いてきてくれることを話したら安心して受理してくれた。
「ま、そんなところかね」
「ペトラさんがご一緒なら安心ですね」
いきなり一度に三種類も討伐するのはどうなのかと思ったけれど、同じ場所に出る魔物なのでそうしたほうが効率が良いらしい。
ギルド証にペトラさんとの臨時パーティと依頼、二つの登録をしてもらった。
討伐依頼は特に証明する部位などを切り取ってくる必要はなく、倒すだけでギルド証に記載されるらしい。
パーティ登録もしておくと、パーティメンバーの誰が倒しても依頼達成となるのだという。
ほんと魔法って便利だなー。
楽でいいなと思ったけど、魔物の身体部位は武器・防具や薬の材料にもなるので出来れば解体して持ち帰ったほうが良いと言われた。
その辺もしっかり仕込んでやるとペトラさんは笑っていた。
動物型の魔物なら肉は食用にもなるらしい。今回討伐する大ネズミも対象だという。
ネズミ食べるの!? という気持ちが表情に出てしまったのか、「大ネズミは町中にいるネズミとは違います」とカティヤさんにたしなめられてしまった。
そういえば元の世界でも大型のネズミであるカピバラなどは食用にもされて意外に美味いという話を聞いたことがある。食べたことはないけど。
あとは魔物は身体の中に魔石という魔力の塊を持っているらしい。
大型の魔物ならば丸々一つ、小さな魔物でも欠片のようなものが必ずあるという。
体内に魔石を持っているかどうかが魔物と動物の違いとのことだ。
昨日のスライムのときには気が付かなかった。そんなことを気にする余裕もなかったけどね。
諸注意を聞き、「複数に囲まれるようなことがあったら逃げて下さいね」とカティヤさんに心配され、「あたしが付いてるんだから大丈夫さ」とペトラさんに請け負われてから冒険者ギルドを出た。
マモルの提案を受けてその足ではす向かいの商店に入り、一応の備えとして回復用のポーションを二つ購入した。
初級のものでも一つ銀貨一枚もしたけど命には換えられないもんね。
ポーションの効果は即効性で、傷に振り掛ければ即座に塞がり、飲めば内臓が傷付いていてもすぐに治ってしまうらしい。
さすがファンタジーだと感心するばかりの効果だ。
準備も整ったところで大通りを通って西門へ向かう。
スライムも大ネズミも昨日行った平原の中ほどから奥地に出没するらしい。森まで行かなければ強い魔物が出ることもないとのことなので安心だ。
討伐依頼を受けたことを告げるとヨーゼフさんに心配されるけど、無理はしないと約束した上で「みんな心配性だねぇ。あたしが付いてんだから心配しなさんな」とペトラさんがまた請け負ってくれたので「それなら安心だな。頑張ってこい」と送り出された。
彼とは結構話してるし、もう友達と言ってもいいかな?
いや、心配されたり一方的に頼ってるだけだし友達とは言えないか。
ペトラさんのようにみんなから信頼されるくらいにならないとな。
いつか僕もヨーゼフさんが困っている時に助けよう。そして友達になりたいと強く想った。
町を出てから一時間弱。
ペトラさんにレクチャーを受けながら歩き続けて平原の中ほどへと到着していた。
ここに来るまではひたすら広がる草地しか見えなかったけど、ようやく一匹の魔物を発見した。
「最初には手頃な相手だね」
「……デカい」
中型犬くらいの大きさがあるネズミ、大ネズミだ。
立ち上がると百三十センチくらいありそうで、大きさはカピバラのようだけど見た目は完全にハツカネズミだった。
ネズミらしく人を見かけたら逃げるかと思ったけど、歯を剥き出しにして威嚇してきた。
どうやら魔物というヤツは見た目にかかわらず好戦的なようだ。
「危なくなったら助けてやるから、一人でやってごらん」
「はっ、はいっ!」
マモルに頼んで強化魔法を掛けてもらうと、ポワンとした光に包まれて身体が軽くなった。
「ほう、身体に力が入ったね。強化魔法か何かを使ったのか」
腰の剣を引き抜いて両手で持って正眼に構える。準備は万端、これでいつでも戦える。
だけどそこから動けない。
先制攻撃を仕掛けたほうが有利に思えるけど、敵意剥き出しの魔物にビビってしまって身体が言うことを聞かないのだ。
「う……ど、どうしよう。くっ、くるなよっ!?」
『焦らなくても大丈夫だ、やれるさ』
「慌てるんじゃあないよ。しっかり相手を見な」
二人から激励と叱咤の声を掛けられてもなかなか心が落ち着かない。
僕が動かないでいると痺れを切らしたのか、大ネズミは素早く近寄ってきて唐突に飛び上がる。
体当たりを仕掛けてきたのだ。
見たこともないデカいネズミに突っ込んでくる怖さで身体が硬直してしまう。避けられない。
ガイーンッ!
「っとと、痛っ――くない?」
衝撃を受けてたたらを踏むが、それだけだった。
全く痛くも痒くもなかったのだ。
「そのくらいじゃ死にゃあしないよ。……というか、無傷かい? 見た目に寄らず頑丈だねぇ。ま、落ち着いて反撃すればいいさ」
『ほら、大丈夫だっただろ? 明日虎には傷一つ負わせないから、俺を信じて攻撃するんだ』
二人して同じようなことを言う。つまりそれが正しい対応ということなのだろう。
攻撃されてもダメージを受けない。
その事実を身体で示されホッとしたからか身体が動くようになった。
「でも生き物を殺すのか……。血とか出そう」
現代人で都会っ子な僕は動物を殺したことなど一度もない。
家畜を絞めたり、釣りで魚をさばいたりなんて経験もしなかった。
もちろんベジタリアンではないので間接的に命を奪っていたのだろうが、自分の手を汚したことはないのだ。
弱気になっていると、攻撃的で敵意に満ちたネズミと目が合う。
ダメージを受けた様子の無い僕を警戒しているようで攻撃してこないけど、その内また仕掛けてくるだろう。
『気持ちを切り替えていけ。やらなきゃやられる。ここは平和な日本じゃなく、死がすぐ隣にある異世界だからな』
例えこちらから攻撃しなくても、相手は攻撃してくるんだ。
「そっか……やらなきゃ、だよね?」
『そうだ』と、マモルの簡潔だが力強い言葉が僕に攻撃の意志を沸き立たせてくれる。
「よしっ、やってやるぞ!」
「いい気合い、出てきたじゃないか。一気にいきな!」
『その意気だ。時代劇の侍にでもなったつもりでやってみろよ』
日本にいたときボッチで周りと話題を合わせる必要もなかった僕は、勧善懲悪で何も考えずに見れる時代劇が好きでよく視聴していた。
お話に出てくる強い侍達に憧れ、ホウキや長い定規を家の中で振り回して物を壊しそうになったものだ。
ネット通販で模造刀を買おうかなと思ったりもしたけど、実家だったので自重した。
その時の気分を思い出し、一番見慣れた大上段に剣を構えてみると大ネズミが警戒を強くする。
本物の剣であるショートソードはそれなりに重いけど、魔法で筋力を強化されているのでホウキよりも軽く感じてしまう。
何だか自分が強くなった気がしてくる。
「やってやる! 今度はこっちのターンだ!」
剣の柄をギュッと強く握り締め、声を上げて勇気を振り絞る。
そして、間髪容れず見よう見まねで大ネズミに向かって思い切り振り下ろす。
ザグンッッッ!
「ギッ!?」
「おわぁっ!?」
自分でも予想外に素早い斬撃が大ネズミを袈裟懸けにした。
勢い余って剣先が地面にめり込んでしまっている。
「あははっ。刃も立てられてないのに千切れ飛ぶとか、どんな怪力だよ」
大ネズミの上半身が冗談のようにポーンッと数メートルも飛んで行く。
手応えなんてほとんど感じなかったのに、真っ二つに切り裂いたようだ。
剣のすぐ横には血を噴き出すネズミの下半身があった。
「グロッ!? ゴア表現激しすぎるよ、X指定どころじゃないでしょコレ!?」
感心したようなペトラさんの声も耳を素通りする。
ショートソードが名前の通りに短かったことが災いし、その断面を間近に見てしまったのだ。
詳しく描写なんて絶対にしたくない。
ゾンビゲームなどが好きでよくやっていたけど、ゲームではない現実の死を目の当たりにした僕は、気持ち悪さに耐え切れずに吐いてしまった。




