第13話 初めてのパーティ
猫がいないことに少しガッカリしたけど、野良猫ならまた会えるだろうと気を取り直す。
マモルに浄化の魔法を掛けてもらって顔を洗うと、食堂へ降りていつもの定位置であるカウンターの隅っこに陣取り朝食を頼んだ。
朝は時間が掛かる料理はないらしく硬いパンにシチュー、サラダといういつも通りのメニュー。
さすがに毎回同じなのはどうなのかと思われそうだけど問題無い。
僕は一人暮らしをしていたときにお徳用のいっぱい入った肉を買ってきて、朝昼晩を一週間の二十一食連続同じメニューを食べたこともあるからね!
そんな自慢にもならないことを考えながら黙々とボッチ飯を楽しんでいると、場違いなくらい明るい声を掛けられる。
「あ~っ、お兄ちゃん! うちに泊まってたんだぁ」
「えっ、サリちゃん?」
昨日ヨーゼフさんに預けて別れた幼女、サリちゃんが現れた。
どうして彼女がここに、と思う前に答えは言われていた。
「うちって、もしかして宿屋さんちの子だったの?」
「そうだよ! サリ、やどやさんっ」
確かに店主さんとサリちゃんの髪と目の色が一緒だなと思ったけど、まさか親子だったとは。
一緒に薬草を採りにいく約束をしたものの、住んでいる場所も知らないのにどう連絡したものかと考えていたのも杞憂だった。
ヨーゼフさんには良い店を紹介してくれてありがとうと、僕がここに泊まっていることも告げてあった。
彼は当然ながらサリちゃんがここの娘と知っていたから連絡先の話が出なかったのだろう。
「お父さん、あのねあのねっ。きのう言ってた助けてくれたひと、このアストラお兄ちゃんなんだよっ!」
「そうだったか。娘が世話になった」
「あっ、いえ、そんな」
サリちゃんの言葉を聞いて、店主さんは僕に深々と礼をしてシチューのお代わりまでくれた。
親父さんは口数こそ少ないものの、すごく感謝しているのが伝わってきて恐縮してしまう。
そういえばまだ聞いていなかった名前を教えてくれた。ラウリさんというらしい。
僕もアストラと名乗っておいた。
特に反応はなかったのでホッとする。やはりこの世界では特に問題無い名前なのだろう。
「お兄ちゃん、ごはんおいしい?」
「あぁ。親父さんのご飯は絶品だよ」
自己紹介も終わって朝食を再開すると、サリちゃんも僕の隣に座ってご飯を食べ始めた。
自分の父親の料理が褒められたら嬉しいだろうなと思い、ニッコリ笑ってパンをサックリかじって見せた。
実際に美味しいしね。
「わぁっ!?」
「?」
そんな僕を見たサリちゃんが目を白黒させて驚いている。
何故驚くのだろうか。美味しいのに。
そういえば昨日もオヤジさんに驚かれていたような。何か変なのか?
「お兄ちゃん、ハもつよいんだね!」
どうやら硬い黒パンをそのまま食べているのが仰天ポイントだったようだ。
普通はシチューに浸し、柔らかくしてから食べるらしい。
そういうことは先に教えてくれよ……。あー、この世界の常識なのか。
「どうすればそんなにつよくなれるの?」
「んー、補助してもらえば一発だよ」
「ほじょってな~に?」
「助けてもらうことだよ」
「そっか、なにかすっごい力に助けてもらうんだね」
適当だけど本当のことを言った僕に、よく分からないものの何かすごそうだとサリちゃんはうんうん頷いている。
「そういえばさ、この辺で猫を見たことない?」
「ネコちゃん?」
せっかくだからと昨晩部屋に入ってきた白猫のことを聞いてみた。
毛色の白い、目の色が左右で違う猫だと言うとサリちゃんはすぐに分かったようだ。
「知ってる! うちのちかくにすんでいるネコちゃんだよっ」
この辺に住んでいる野良猫で、サリちゃんも時々エサをあげているらしい。
どうやら彼女も猫派のようで嬉しいかぎりだ。
猫のどこが可愛い、どんな猫に会ったことがあると二人でしばらく盛り上がった。
「あのね、白いネコちゃんけがしてたの」
昨日草原に一人でいたのは、白猫が怪我をしているのを見かけて薬草を取りにいっていたからだった。 ラウリさんに手伝ってもらって治療したのだという。
猫の足に巻いてあった布はその治療跡だったらしい。
依頼達成のために分けてもらってしまったけど、残った分でも十分足りたようでよかった。
「あの猫はなんていう名前なの?」
「名まえはまだないよ。そうだっ、お兄ちゃんがつけてあげて!」
勝手につけていいものだろうかと思ったけど、野良猫はエサをやる人によって複数の名前がついていることもあるし問題無いのだろう。
少し思案してから思い付いた名前を口にする。
「じゃあ、シロでどうかな」
「シロちゃんだねっ。うんうんっ、かわいいとおもう~っ」
白猫だからシロ。安直と言われるかもしれないけど、見た目に隔絶した名前を付けられるくらいなら普通の名前を付けてもらったほうがよっぽど良い。名前で苦労した僕はそう思っている。
普通で何が悪い。普通が一番だ。
サリちゃんとの猫談義が終わると、宿を出て冒険者ギルドへ向かう。
昨日は忙しかったのだから今日はのんびり過ごしてもいいかもしれないけど、ボッチながら学校では皆勤賞を逃したことのない僕は落ち着かなかった。
勤勉な日本人の血が騒いでしまうのだ。
到着すると昨日のように採取系の依頼が書かれた掲示板へ足を向けたのだが。
「どこ行くんだい? 狩るならこっちだよ」
すぐに後ろから声を掛けられた。
振り向き目にした人を見て、まさかとやっぱりという相反する感情が同時に浮かぶ。
「あっ、姉御さんっ!?」
そこには赤毛の獣耳女冒険者さんが立っていた。
昨日とは違って金属製の部分鎧を着け、背中には大柄な戦斧を背負っている。
「あんたまで姉御なんて呼ぶんじゃないよ。……って、そういやぁ名前も名乗ってなかったね。あたしはペトラ。あんたは?」
「えっ、あっ、はい、ぼっ、僕は……その、アストラ、です」
「ふぅん? 名前もちょっと似てるね」
獣耳がピコンと嬉しそうに揺れた。
ペトラとアストラ。確かに響きだけ聞くと姉弟と思えるくらいに似ている。
彼女のほうは名前に全く負けていない堂々とした戦士だけど。
黒々とした瞳で、同じ色をした俺の目を覗き込んでくる。
今も塔に捕らわれているであろう女の子のことをまた思い出してしまい、少し胸が痛む。
あの子の名前はなんというのだろう。
「そうかい。じゃあアストラ、何を狩りたい?」
遠くに逸れ掛けてしまった意識をペトラさんに戻す。
似ていることに興味はもったものの、名前自体に思うところはないようで、あっけらかんと受け入れてくれた。
やはり僕の名前は西洋的な世界では問題ないのかもしれない。
「かっ、狩りたい……魔物、ですか?」
「約束したろう? ちょいと鍛えてやるってさ」
宿屋の食堂で彼女とした約束。
酔っていたので覚えていないか戯れ言の可能性が大きいと思っていたのだが、忘れてもおらずどうやら本気で言っていたらしい。
昨日の感触を思い出し、つい胸元に目が行ってしまいそうになるのをどうにか抑える。
「でっ、でも、僕は……あの」
『いい機会じゃないか。魔物の討伐はいずれ必ずやらなきゃならない。俺の魔法だけでもいけるとは思うが、上級者が手伝ってくれるというならこんなに心強いこともないだろう』
うっ、そっ、そうなのか……な。
今日も薬草採取の依頼を受けようと思っていたのでどう断ろうかと思案していたのだけれど。
マモルは僕のことを守ってくれるけど、戦闘の指導までさすがに出来ない。それをペトラさんがやってくれるなら大助かりだ。
確かに彼の言うことはもっともだ。
他の冒険者にも一目置かれている彼女が付いてきてくれるなら安全だろうしね。
でもそんなことを、会って間もない人に頼んでしまっていいのだろうか。
「どうした? 何か問題かい?」
「いっ、いえっ! その、ご迷惑じゃ……ない、ですか?」
「はっ! ルーキーがそんなこと、気にするんじゃあないよ。あたしが見てやるって言ってるんだ。あんたはただ狩りたい魔物を言えばいいのさ」
僕の心配を笑い飛ばして任せろと言ってくれた。獣耳もピンと立っていて何だかカッコいい。
ペトラさんの裏表のない性格と気っぷの良さには思わず引き込まれてしまうものがある。
まだ会って一日の仲だけど、彼女が姉御と呼ばれて慕われる理由が分かる気がする。
「はっ……はいっ!」
素直に返事をすると、ペトラさんは満足げに頷いてくれた。




