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2限《勧誘》

唐突になげかけられた質問の意味がわからなかったわけではないが、あまりにも唐突ですごく間抜けな声が出てしまった。

「は?」

「今の状況を考えてみたんだが、やっぱこの実験乗らない手は無いと思うんだ、考えてみろ100万円だぜ。だけど実験といっただけで具体的に何するのかはわかんねぇときてる。だけど実験にマジに取り組むなら、ここで何もせずに時間をつぶすのは愚の骨頂だ。そこで俺はチームを組んで十二時以降の探索を有効に進めようと思うんだ。現にほかにもチームを組んでるやからは居るみたいだしな。」

 言いながら雄介は視線を動かし体育館の教壇の左脇の辺りで固まっている四人組みに目をやった。俺もつられてそちらに視線をやると、向こうもこちらを気にしていたのか視線が交錯した。まぁすぐに逸らされてしまったのだが、理由はわからなくも無い。こっちは見るからに乱暴な見てくれが二人と女子一人に対し、向こうは勉強しかしてこなかった風な男連中だ、避けたくもなるだろう。その中の一人は小脇にパソコンを抱えているようだった。

「でだ、チームを組むにも馬鹿じゃあどーしようもねぇと思ってたところに聡明そうなお二人さんが現れたからちょいと話しかけてみたってわけだ。」

 雄介の言い分を聞いてなるほどなと思った。だから雄介は情報をわざと小出しにして俺の推理力やら何やらを試したのか。どうやら見かけによらず頭は回るらしい。

「そういうことなら。実験の内容もわからないんだし、腕っ節の強そうなやつも一人入れておこう。誰かあてになりそうなやつはいないか?」

「あのぉ、あの人なんてどうかなぁ・・・」

 ずっと俺たちの会話を聞くだけだったゆかりが珍しく口を開いた。ゆかりの視線の先には見かけでは得に屈強という感じでもないが、俺と同じくらいの体型の男が腕組みして仁王立ちで壇上をにらんでいた。

「なんであいつなんだ?」

 俺は思ったまま質問を投げてみた。

「立ち姿がぶれないの。私たちがここに来てもう20分位たつけどその前からあの立ち姿なんだとしたら体幹もしっかりしてて強い人だと思うよ。」

 弓道においても体幹は重要なんだろうか。全国レベルのスポーツ選手はその身のこなしで相手の力量が測れるものなんだろうか、疑問にも思ったがここはゆかりの意見を尊重することにした。

「雄介もあいつで良いか?集めるチームはこれで十分だろう、これ以上増やすと反って動きづらくなりかねない。」

「おけ、じゃあとりあえず勧誘と行きますか。時間的にもラストアタックになるかも知れねぇしな。」

 体育館の壇上の上に配置された大きな時計に目をやると、時刻は11時30分を指していた。なるほどここで勧誘をかけてその後行動予定を立てるとしたら確かにラストアタックといったところだな。やはり頭の回転は悪くは無いようだ。

「じゃあ雄介任せたぞ!」

 自慢じゃないが俺はあまり社交的な性格ではない。見ず知らずの他人をチームに引き入れるなんてうまくできるはずが無かった。そこに来て雄介は俺たちに何のためらいも無く話しかけてきたぐらいには社交性があるのだから、こう言う時に任せない手はない。ゆかりは見てのとおり交渉ごとには論外な正確だしな。

 雄介は俺の振りに笑顔で親指を立て、仁王立ちを解かないままの男のもとへ歩み寄って言った。男の下へたどり着くと早速交渉を始めたようだ身振り手振りを交えて何かを話しかけている。その間も笑顔が崩さないんだからやはり交渉事向きな性格なんだと思う。

 さて、雄介が頑張っている間に状況を整理しておくか。とりあえず入学式はまず間違いなく行われなさそうだな。12時まではこのまま何もおきないだろう。そして12時からは自由に校内を散策して良いと、んでなんだかわからん実験に参加する報酬として金一封百万円だ。欲しくないわけではないがとりあえずこんな事を企むやからの顔が見てみたくなった、というのが俺が雄介の誘いに乗った理由の大部分であった。

「一応賞金確認しておくか。」

「・・・私もついていく」

 俺が思いついたとき、ちょうど交渉中の雄介と目があったので賞金を見てくることを指で軽く壇上を指すことで伝えた。おそらく俺たちのことを紹介でもしているタイミングだったのだろう、どんな紹介の仕方かは知らないが。意思の疎通が図れたのを確認した後、俺たちは壇上に向かった。演台のそばには相変わらず控えめそうな男子がうろちょろしていたが。気にせず演台の裏を覗き込む。

「・・・っ!」

「何?・・・怖い・・・」

 俺が息を呑んだのとほぼ同時にゆかりがつぶやいた。そいつは圧倒的な存在感を放っていた。札束をピラミッド状に積み重ねた現金の周りには俺の予想したように誰にも触られないよう強化プラスチックで保護されていた。こんなもの普通の高校生は見たことがないだろう、心臓の鼓動がやけに耳に衝き体温が上がっていくのが分かる。ギャンブル漫画でしか見たことのないような札束の山が目の前にあるのだ、平常心でいられるほうがおかしい。これは長時間見ていていいものではないな。

「いいい、何時まで見てるんだよ・・・早くあっちにいけよぉ・・・」

 さっきから壇上の周りをうろうろしていたやつが不意に声をかけてきた。その目には明らかに狂気が宿っていた。こんな大人しそうな奴が俺にどけと言って来るぐらいだ。大金を目の前に置かれる、そしてそれを触ることすら許されず目の前に置かれ続けるという心理状況は、当事者にとっては毒が体中に染み渡っていくのと同様の効果があるだろう。現に俺も一瞬で平常心ではいられなくなったのだから。

「わるかったな、だがあんたも余りここにはいないほうが良いぞ、心を持っていかれる。」

 効果はないだろうと分かってはいたが、少しの助言を残して俺たちはすでに交渉を終えた様子の雄介たちの下へと歩いていった。

「おかえり、あまり見ていて気分のいいものでもなかっただろう?とりあえずのメンバーはこんなところかね?」

 戻ってきた俺たちに気を回しつつ交渉が成功したことを雄介が伝えてきた。俺は内心はまだ平常心には戻れていなかった。気を紛らわすためにも平常心を装い、軽くうなずき新しいメンバーに自己紹介を促した。

「俺は遠藤竜弥だ竜弥って呼んでくれ、こいつは幼馴染の遠藤ゆかりだ。急場しのぎのチームになっちまったが、よろしく頼む。」

 近づいてみて始めて分かったのだが、細身の割には確かに屈強そうなそれでいてしなやかな筋肉をまとっていた。肌もスベスベデさわり心地がよさそうだ。ん?すべすべ?無駄下処理?俺の疑問が頭を埋め尽くしかけたとき男の硬い表情が一変した。

「んまぁああああ!私好みのイケメン!タッツンて呼んでも良いかしらぁん?いやだめって言っても呼んじゃうけどねぇん♪私の名前は聞いてくれないのぉ?ねぇたっつぅん?」


 おっふ

 

「お名前は?」

「タッツンに聞かれちゃったら答えないわけには行かないわねぇ♪私のなまえわぁ松下大五郎よぉん♪大ちゃんって呼んでねぇん♪」

 いやまて、自分でねだっただろうが。俺の超棒読みな質問に答えた大ちゃんに心の中で突っ込みを入れる。ついでに隣で目をパチクリさせているゆかりに、とりあえずチョップをかましておく。

「あう、痛いよタッツン!」

「どうすんだ?これ、ってかタッツン言うな!」

 たまにお茶目なところもあるゆかりだが、このスーパーキャラが濃い男には面食らってしまったようだ。つーか高校生でこんなやついるんだな。驚きだ。あ。あまりのインパクトにさっきの札束の衝撃がきれいさっぱり消えてしまっている。グッジョブだ、ありがとう大ちゃん。

「とりあえず後10分ちょっとで探索が開始できるわけだけど、まずはどうする?」

インパクトに圧倒される俺とゆかりを見て雄介が話の舵を戻してくれた。

「あ、あぁそうだな。俺も少し考えてみたんだが、食堂をさがしてみないか?この後何時間拘束されるかも分からないし水分や食料の確保は重要だと思うんだ。」

「そおねぇ、食料は重要ね食堂がどんな状態なのかは分からないけど行ってみる価値はあるわねぇ、さっすがタッツン♪」

 同意してくれたのはうれしいが、いちいちその呼び方はしないで欲しい。

「っふっ・・・くくっ・・濃い目だな。」

「目じゃない。明らかに濃いんだ!」

何がおかしいのかとても愉快そうに笑う雄介に即効で突っ込みを入れる俺。いかんいかん。時間がないんだ話を戻さねば。

「んじゃ最初の目的地は、食堂で異論無いとして。そこからどうしよう?」

「食堂の場所ってどこなんだろう?みんなが食堂に着いちゃったら食料充分に確保できないかもしれないよね?」

 今度はゆかりが口を開いた。お、良い事言うじゃないか。確かにそうだ、言ってしまえば早い物勝ち競争になってしまうかもしれない。情報の収集は重要だな。

「誰か校内地図みたいなもん見かけたりしたやついないか?ちなみに俺とゆかりは見てない、遅刻してきたし脇目も振らずに体育館だったからな。」

「残念、俺は少しはうろついたけど地図は見なかったなぁ。」

 となるとあとひとり。あ、この顔は知ってるな?もうすでにドヤ顔が出来上がっている。しかしなかなか言い出さないところを見るとこいつ、待ってやがるな。俺は困った表情で雄介に目をやると、ニヤニヤしながら目配せで《早く振れよ》といってくる。いい性格してやがる。よし、ぜってー後で泣かす。ゆかりはゆかりで困り顔で俺を見つめるだけだった。まぁこっちは予想の範疇である。

「はぁ、だいち・・・大五郎は?どうだった?」

「えぇやだぁ!愛情こめて大ちゃんって呼んでよぉう。ねぇたっつぅん。一人じゃ恥ずかしいなら私も言うからぁ、せぇの♪ウルトラプリティ?だいっ」

「うるせぃっ」

 危うく期待通り大ちゃんと呼びそうになったがこらえた。それが不満だったのか大ちゃんはぶーたれて、あ、心の中では面倒くさいので大ちゃんと呼んでやる事にする。アイドルがよくやるコール的な何かに乗せて俺に愛称を呼ばせようとし始めたので、問答無用でぶった切る。

「んなことはどーでもいいから、早く食堂の場所を説明しろ。時間が惜しい。」

「はうっ、ドSなタッツンもス・テ・キ♪」

 だめだこいつ、死ななきゃ治らんらしい。

「食堂の場所はぁ、私お腹空いてたし式が終わったら真っ先に向かおうと思ってたから調べてからきてたのよん♪だからここを出たらまっすぐ向かえるわよぉう♪」

 知っているなら話は早いな。こいつに案内させればいいか。その後のことは移動中にでも考えようとりあえず最初の進路は決まった。時計を見ると11時59分になるところだった。そういえば俺たちが着てからは放送もなけりゃぁ予鈴やらベルの類はならなかったが。昼休憩的なもののベルはなるっ


《キーン》《コーン》《カーン》《コーン》


 ベルはなった、一般的な音階のチャイムが流れたが、精神的なものも合わさってか一般的なそれよりひどくゆっくりに聞こえた。そしてベルが鳴り終えると、誰一人口を開かない沈黙とともに静寂が訪れ。なんとも言い表せぬ緊張感だけがただ、体育館を埋め尽くしていた。

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