異変
始めまして、この作品、作者の麦穂佑騎と申します。
もともとは漫画家志望なので文章力は乏しいですが思いつきで投稿してしまいました。私の頭の中の妄想を楽しんでいただければ幸いです。
学園鬼獄児
―――何を怨めばいい――――
―――何を憾めばいい――――
その腕の中で無力に横たわり、ピクリとも動かなくなったその少女の身体を抱きかかえながらただ無力にないていたのは、確かに俺だった。
これが夢だとはわかっている。たまに見るのだ、夢だと自覚している夢を、そしてそうした夢のいくつかは稀に現実になる。なんと言っただろうか、あぁそうだ、正夢…だったな。夢が覚める直前、俺たちの後ろに蠢く黒い影を見たような気がした。あれは…鬼…?
1限 《異変》
カーテンの隙間から差し込むまぶしい朝日に顔を焼かれながら、夕べ見た夢の最悪な余韻ともうすぐ怒鳴り散らしてくるであろう母の怒鳴り声にいつも以上にうんざりするような朝を向かえた。
「竜弥!起きてるの? 起きてるなら早くいらっしゃい、朝ごはんが冷めてしまうわ。」
「へいへーい。」
予想通りの母の声にすでに最悪の目覚めを感じていた俺は適当に答えつつ、ほとんど使われることのない木製の勉強机の上の時計に目をやった。
「うわぁ、入学早々遅刻じゃねーか。…ま、いいけど。」
時計の針は10時を指していた。俺の家から新しい学校までは徒歩で約三十分かかる、そして入学の式典は10時半からだ。別に急ぐ気はさらさらないが、完全に遅刻である。俺は中学のときからお世辞にも優等生とは言えず、遅刻や無断欠席などは日常茶飯事だった。だから母が俺を起こす時にも特には時間のことを言われることは少ない。
「今日は、何時にも増して顔色が悪いわね。入学式だって言うのに、…何かへんな夢でも見たの?」
いつものように気だるさを全身に滲ませながらリビングへと足を運ぶと、やはり母親という生き物だからなのか、俺の顔色を見ただけでいろいろと悟って、そしてそれが大概あたっているところはすごいと思う。
母は俺が時たま夢を見て、それがたまに正夢になることを知っている。以前には、母の旅行先で地震による大事故が起こる夢を見て旅行を中止させたことがある。当時は小学生で母を亡くすことが恐ろしく、行かないでくれと泣いて懇願したのだ。そしてその夢は現実となり事故のニュースは日本全国を駆け巡った。母は俺が引き止めたので現地には行かず無事であった。
「まぁね、あまりいい夢とは言えなかったし、あたらないことを祈るさ」
母に適当な返答をしながら朝食に手をつける。今日の朝食は目玉焼き、サラダにコーンスープ、ここまでなら素敵な朝食なのだがその中で一際存在感を放っているものがいた。ハンバーグだ、おいおい朝からハンバーグは重くねぇか?いくら食べ盛りの高校生でも朝からハンバーグは応えるぜ。ハンバーグはむしろ好きな部類に入るのだが、その重たい朝ハンバーグを何とかやっつけ、軽く身支度を済ませる。そして新しい制服を軽く着崩して玄関に向かう。
(…あの夢、この新しい制服もぼろぼろだったな…いったい何があったんだろう。まぁ今日は少し用心して過ごしてみるか。)
「んじゃいってきゃーす」
そんな不安を感じながら玄関を出ると、階段の下に幼馴染の姿が眼に入った。俺の住む家はよくドラマに出てくるようなボロアパートの二階にある、かんかんと音を鳴らしながら下りる階段の下にいたのは、ショートカットで俺のそれよりかなりサイズの小さい真新しい紺のブレザーをきちっと着こなした幼馴染の遠藤ゆかりだった。幼馴染であると同時に夢の中で俺の腕の中にいたのもゆかりだった。
「ゆかり、完全に遅刻だぞ、何で待ってんだよ。」
「竜弥が遅いからだよぉ、私一人じゃ学校行けないもん。」
この常に浮かべている不安そうな表情は何とかならんものか。
ゆかりと初めて会ったのは小学校の時だった。俺の住むボロアパートの隣に俺の遊び場だった空き地があったのだが、その空き地にでっかい一軒家が建つことになった。遊び場を失った小学一年生になったばかりの俺は、そこの住人が越してきた当日に一言文句を言ってやろうと、その一軒家の真ん前で呼び鈴を鳴らした後、仁王立ちを構えていた。玄関の扉が半分ほど開くと、その隙間からこれまた半分だけ顔を覗かせたのは、今と変わらず不安そうな表情を浮かべたゆかりだった。
《・・・・・・・・・・・・》
《…えと、何か御用でしょうか?》
一目惚れだったのだと思う。ゆかりの可憐な姿に見とれていた俺は用意していた盛大な文句などはきれいさっぱり消え去りただ見ていることしかできなかった。来訪者が何もしゃべりださないので仕方なく用件を尋ねたゆかりの一言で我に返った俺は、今思い出すと笑ってしまうような文句を言った。
《…こっ、こここ、ここには俺の遊び場があった!俺の遊び場に越して来たんだからこれから毎日俺の遊び相手になれ!》
《…私、遠藤ゆかり。あなたのお名前は?》
《…え、遠藤竜弥だ、竜弥でいい。》
《…じゃあ、私もゆかりでいいよ。》
転校して初登校する前に友達ができたことがうれしかったのだろう、俺はそのとき初めてゆかりの笑顔を見た。それ以来ずっと同じクラスで苗字も一緒と来ているんだからこれはもう紛れもなく腐れ縁だ。
そんな昔の妄想にふけっていると学校までの道のりはそう時間を感じなかった。
黒い車。俺を妄想から引き戻したのは、なんとなく非日常を感じさせる違和感に気づいたからだ。校門まで約100m手前の交差点には、黒塗りに中を窺い知られる事の無いように張られた黒のウィンドウの普段見慣れないような車が止まっていた。軍用か?よく見ると校門の向こう側俺たちの直線上にももう一台停まっているのが見えた。
(何かあったのか?)
俺が何かを感じ取ってる様子に気づいたのか、ゆかりが俺の袖をつかみ小さく震えていた。
「なんでもない、それより入学式はどこでやっているんだろうな?」
「体育館、が相場だよね?」
俺が平静を取り繕って何気なく投げた会話にゆかりが返してくれる。これだけで少しは俺の中の不安が消えてくれるから不思議だ。同じようにゆかりも感じてくれているといいのだけど。でかでかと祝入学の文字が書かれた看板の飾られた校門を抜けると正面にメイン校舎、右手に校庭、左手に多分あれだろう、体育館が見えた。
「あれだな、真っ最中ってとこだろうが、行ってみるか。」
「そだね、入学早々怒られちゃうかなぁ?」
「とりあえず素行不良の問題児ってレッテルは初っ端から頂いたな!」
そういってゆかりの前で親指を立ててみせる。
「いらないよぉ・・・そんなレッテル・・・」
俺の親指を折らんとばかりに握り締めぐいぐいやるゆかりの顔はいつも以上に困り顔をしていた。ゆかりはこんなおとなしい顔をしているが、実は体育会系で、弓道部に所属している。まぁ、イメージと合わなくもないが、全国レベルの実力の持ち主だったりするから驚きだ。それ故に冗談でも親指をぐいぐいやられると、マジで痛い。
『おはようございます!』
開き直って勢いよく大戸を開け放ちなんの打ち合わせも無く声をそろえて挨拶した俺たちが拍子抜けするまでに、そう時間はかからなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
怒られるであろうと待ち構えていた俺の目に映ったのは、豪勢に飾られた校門とは対照的な簡素な何の飾り付けも無い体育館だった。そこにはパイプいすも並べられておらず、見渡す限り教師らしき人影も見えない。いたのは俺と同い年であろう新入生たちが特に整列することも無くそこに集まっているだけだった。あるものは座り込みスマホをいじっている、ある控えめそうな男子は教壇の上で行ったりきたり落ち着きが無い。またあるものは、神経が図太いのか完全に眠りこけている。得にすることが無い連中は新しく現れた新入生のほうに特に言葉を発するでもなく注目した。
「なんだこりゃあ・・・」
「さぁ・・・なんだろうな・・・」
俺のつぶやきに答えた声は後ろからした。扉から勢いで入ったので気づかなかったが、おそらく扉のすぐ脇にでもすがって立っていたのだろう。俺よりやや高めの身長の男は、人懐っこそうな顔立ちに金髪ですでにブラザーは脱いで腰に縛り付けていた。まぁ、四月とはいえ今日は暑いからな。しかし見るからにこいつも素行不良仲間になれそうなタイプだ。
「式典は十時半開始だっただろう、今はもう、十一時回ってるぞ、ずっとこのままだったのか?」
「見ての通りだ、教職員の姿はおろか上級生の姿すら見当たらない。最初こそみんな起立してなんとなく整列してあの教壇のほうを見てたんだが、十分も何の動きも無きゃあ秩序も何もまだ俺たちの中には生まれてすらないんだ、どうしていいかもわからんさ、んで、こうなる。」
そういうと男は、みんなのほうを一通り手のひらで指す。確かに上級生や教職員はいない、見るからに異様な空気が流れている。校舎の方も今考えると、不気味なほど静かだったように思える、もしかして、今この敷地内にいるのは俺たちだけなのか?だとしても、俺たちが来るまでの間誰一人ここを出ようとか帰ろうとか、様子を見にいこうとか言い出す人間はいなかったのか?
「俺は相原、相原雄介だ、出席番号が決まったら九十パーくらいの確立で一番になる自信があるぜ!んで?あんたは?」
聞いてもいない自己紹介を始めた相原に聞かれるまま俺は自己紹介を返した。出席番号のくだりはきっと決まり文句なんだろうな。
「あ、あぁ、俺は遠藤竜弥だ、こいつは幼馴染の遠藤ゆかりだ家が隣で小学校のときからの腐れ縁だ。」
「・・・よ、よろしく・・・」
「見かけによらず力が強いから握手はやめておいたほうがいいぞ!」
ゆかりが差し出しかけた手を見てあわてて助言する俺。
「・・・・・・・・・・!」
その助言を聞いたゆかりが無言で俺をポカポカ殴ってくる。そんな様子で漫才をやっている俺たちを笑いながら雄介は見ていた。
「はは、腐れ縁って言うだけ合って漫才も息がぴったりだな!なるほどなるほど、竜弥にゆかりちゃんね、俺のことは雄介って呼んでくれ!んでほかに聞きたいことはあるかいお二人さん?二人が来るまでの三十分間の出来事くらいしか話せることは無いけどな。」
その質問に対して少し思案した俺はひとつだけ聞いてみた。俺たちが現れるまでの間に三十分しかなかったわけだから、それまでの間に特に何かが起こったとは考えにくい。それに雄介は三十分も何も無かったからこの状況だとさっき説明した、その間の質問を投げるのは時間の無駄だ。おそらく何かがあったとしたら一番最初だけだろう。
「車・・・。雄介はその口ぶりでは式典の開始時刻より前にはここに来てたんだよな?そのときに、門の両脇100m位のとこに黒くてゴツイ軍用車を思わせるような車は停まっていたか?」
「車は停まってなかったなぁ。俺が感じた違和感は校舎がやたら静かだったことと、このなんのかざりっけも無い体育館くらいなもんだな。」
「そうか、とするとあの車は10時半より後、ほかに見た人間がいないのだとすると、40分くらいから俺たちが来るまでの約20分の間にあそこにいたことになる。まぁ、特に関係ないかもしれないが。雄介もうひとついいか?」
俺は雄介の答えを聞いた後独り言のように思案をまとめつつもうひとつ疑問を投げかけてみた。
「なるほどなるほど、なんだね?」
「普通、こんだけ長時間何も無けりゃあ、帰るやつや探索に出るやつがいてもおかしくないよな?何かあったんじゃないのか最初に、んであったとしたら十時半ジャストだろう。」
「ふふ、思ったとおり竜弥は頭がいいな。最初に疑問を抱くやつってのは頭がいいんだよ。・・・あったぜ放送が。」
《ようこそ新入生諸君、諸君には今日一日実験に協力してもらう。報酬は一人百万円だ!信じられないものは壇上の上の演台の裏を見てみろ。既定の条件を満たしたものにはさらにボーナスもつける。まずはこの放送後静かに十二時まで過ごせ。十二時を過ぎたら自由時間だ校舎内を自由に歩き回りたまへ。我々からの以来は以上だ。》
「金ってのは恐ろしいもんでな、高校生にとっちゃあ百万円なんて大金だ。それが手に入るってんだからみんな、やんちゃななりしてるやつまでくそまじめに静かに過ごしてるってわけよ。」
「なるほどな。にわかには信じがたい話だが。その金を取ってそそくさ退散するやつもいないんだからそれが支払われるのは、実験が終わった後。信じさせるために用意した金は鉄格子かプラスチックケースかわからんが触れられないようにしてあるんだな。」
一通り話を聞いたが、正直胡散臭いことこの上ない。さてこれからどうするか、どう考えてもまともに入学式が執り行われるわけではなさそうだ。かといって実験に付き合う義理も無い。ふむ。
「ものは相談なんだが竜弥。俺と組まないか?」
1話目ということでどのあたりで切るのか難しかったのですが、とりあえず区切りになるところで切ってみたら5000字ちょっとだったのでそのあたりで毎回進めてみようかと思っております今後ともよろしくお願いします。




