第二章 データの力
第二章 データの力
麗華はノートをつけ続けた。
来店した客の名前。
職業。
趣味。
好きな酒。
家族構成。
誕生日。
前回話した内容。
小さなことまで記録した。
最初は自分のためだった。
しかし、ある日気づいた。
自分一人で管理するには限界がある。
店には何百人もの顧客がいる。
しかも、お客様は様々なキャストの席を回る。
一人だけの情報では足りない。
そこで麗華は思い切った行動に出た。
仲の良いキャバクラ嬢たちに声をかけたのだ。
「お客様の情報をみんなで共有しない?」
最初は反対された。
「ライバル同士なのに?」
「自分の顧客を取られるかもしれない。」
当然の反応だった。
しかし麗華は説明した。
「誰かが休んでも、お客様を大切にできる。」
「お客様も店全体から歓迎されていると感じる。」
「結果的に店に来る回数が増える。」
半信半疑ながら数人が協力した。
さらに店長も興味を示した。
店長は古いパソコンを用意し、顧客情報を入力できる簡単なデータベースを作らせた。
来店履歴。
指名履歴。
好み。
会話内容。
特記事項。
キャスト全員が確認できるようになった。
変化はすぐに現れた。
「先週、ゴルフの大会でしたよね。どうでした?」
「娘さんの受験、結果出ましたか?」
「お誕生日おめでとうございます。」
お客様は驚いた。
担当以外のキャストまで自分を覚えている。
店全体で歓迎されていると感じた。
来店頻度が増えた。
ボトルの注文も増えた。
売上は右肩上がりになっていく。
その中で最も恩恵を受けたのは麗華だった。
彼女はデータを読むことに長けていた。
どんな客がどの曜日に来るのか。
どんな話題が盛り上がるのか。
誰と誰が相性が良いのか。
数字から傾向を見つけていった。
まるで未来を予測するようだった。
半年後。
店の売上ランキングが発表された。
一位。
神崎麗華。
店内がざわついた。
かつて指名ゼロだった女性が、名古屋でも有数の人気キャバクラ嬢になったのだ。
表彰の後、店長が声をかけた。
「麗華、お前は接客業の人間じゃない。」
「え?」
「経営者の考え方をしている。」
麗華は笑った。
その時は意味が分からなかった。
だが彼女の頭の中では、さらに大きな構想が生まれていた。
もし一店舗ではなく、複数の店で同じ仕組みを使ったらどうなるだろう。
もし何万人もの顧客データを分析できたら。
人が求めるものを予測できるのではないか。
夜の街で始まった小さな実験は、やがて未来の AI 事業へとつながる種になりつつあった。
そして麗華はまだ知らない。
この成功が、彼女を愛知から東京へ、そして日本一のキャバクラ嬢へと押し上げる第一歩になることを。




