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第三章 歌舞伎町からの誘い

第三章 歌舞伎町からの誘い


東京・新宿歌舞伎町。

日本最大の歓楽街。

毎晩数千万円が動く夜の世界の中心地だった。

その一角にある中堅キャバクラ「クラブ・アステリア」。

派手な大型店ほどの知名度はないが、堅実な経営で固定客を集めていた。

店長の黒崎誠司は、深夜の営業終了後も事務所に残っていた。

売上表を見ながら頭を抱える。

「あと一歩足りない……」

大型店との差が縮まらない。

広告費を増やしても効果は限定的。

有名キャストを引き抜く資金力もない。

何か突破口が必要だった。

そんな時だった。

名古屋出張から戻った幹部が雑談の中で言った。

「面白いキャバ嬢がいましたよ。」

「どんな?」

「売上だけじゃありません。」

「店全体の顧客管理を変えたらしいです。」

黒崎の手が止まる。

「顧客管理?」

「客の好みや来店履歴を共有して、店全体で接客する仕組みを作ったとか。」

「名前は?」

「神崎麗華です。」

黒崎は初めてその名前を聞いた。

だが妙に気になった。

数日後。

彼は独自に調査を始める。

業界関係者。

元従業員。

取引業者。

情報を集めるほど驚いた。

麗華が移籍した店は次々と売上を伸ばしている。

しかも本人の売上だけではない。

店全体の数字が改善している。

普通の人気キャストとは違った。

「客を呼ぶ人材じゃない。」

黒崎はつぶやく。

「店を変える人材だ。」

その言葉に自分でも驚いた。

キャバクラ嬢に対して抱く評価ではなかった。

だが確信していた。

この女性は何かが違う。

翌週。

黒崎は愛知へ向かった。

名古屋・錦。

麗華が在籍する店の近くのバーで、彼女の接客を観察する。

指名客が次々と来店する。

だが黒崎が驚いたのは別の部分だった。

席を離れる時、麗華は必ず周囲のキャストに小声で情報を伝えている。

「〇〇さん、来週ゴルフです。」

「△△さん、娘さんが大学受験中。」

「□□さん、日本酒好きだから新しい銘柄すすめて。」

情報が自然に共有されていた。

店全体が一つのチームのように動いている。

営業終了後。

黒崎は確信した。

欲しいのは売上ランキング上位のキャストではない。

この人そのものだ。

翌日。

黒崎は正式に面会を申し込んだ。

高級ホテルのラウンジ。

麗華は警戒した表情で現れる。

「東京の方が私に何の用ですか?」

黒崎は単刀直入に言った。

「歌舞伎町へ来ませんか。」

麗華は少し笑った。

「東京には私より売れている人がたくさんいますよ。」

「そうでしょう。」

黒崎は即答した。

「でも、店を変えられる人はいない。」

麗華の表情が変わる。

初めてだった。

売上ではなく、自分の考え方を評価されたのは。

黒崎は続けた。

「あなたが欲しいんです。」

「ナンバーワンだからじゃない。」

「仕組みを作れるからです。」

ラウンジに沈黙が流れる。

窓の外には都会の夜景が広がっていた。

麗華はコーヒーカップを見つめながら考える。

愛知で積み上げた実績。

慣れ親しんだ仲間たち。

そして、まだ見ぬ東京。

歌舞伎町という巨大な舞台。

心の奥で何かが動いた。

挑戦したい。

もっと大きな世界を見てみたい。

だが同時に、不安もあった。

もし失敗したら。

今まで築いたものを失うかもしれない。

黒崎は静かに言った。

「すぐに返事はいりません。」

「ただ一つだけ。」

「歌舞伎町は日本で一番厳しい場所です。」

「だからこそ、あなたがどこまで通用するか見てみたい。」

その言葉は、麗華の胸に深く刺さった。

彼女はまだ知らない。

この誘いが、やがて歌舞伎町の勢力図を塗り替える大きな物語の始まりになることを。

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