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『聞いてる? 鈴木くん。』  作者: ともり。


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第九話 気づかないままで

## 第九話 気づかないままで


 翌日。


 朝の教室には、まだ人がまばらだった。


 鈴木は自分の席に座りながら、ぼんやり昨日のことを思い出していた。


 佐々木と駅まで歩いた帰り道。


 好きな音楽の話をした。


 おすすめの映画の話もした。


 楽しかった。


 ……はずなのに。


 なぜか、最後まで花本の顔が頭に残っていた。


「おはよ。」


 不意に声がして、鈴木は顔を上げる。


 花本だった。


 いつも通りの笑顔。


 でも、どこか少しだけ距離がある気がした。


「あ、おはよう。」


「眠そう。」


「昨日ちょっと遅くて。」


「ふーん。」


 花本はそれ以上聞かなかった。


 鞄を机に置いて、自分の席へ向かう。


 鈴木はその背中を見ながら、小さく首を傾げた。


 ――なんか変だな。


 でも何が変なのかは、よくわからない。


 授業中。


 先生の声を聞き流しながら、鈴木は何度か花本の方を見た。


 花本は友達と話して笑っている。


 別に普通だ。


 いつも通り。


 なのに。


 自分には話しかけてこない。


 昼休みになっても、花本は来なかった。


 鈴木は一人でパンを開けながら、無意識に後ろを振り返る。


 でも目が合った瞬間、花本はすぐに友達の方へ向き直った。


「……?」


 鈴木はまた首を傾げる。


 その時。


「鈴木くん。」


 佐々木が近づいてきた。


「昨日ありがとね。楽しかった。」


 その一言だけで、少し胸が熱くなる。


「あ、うん。」


「また話そ。」


 佐々木は柔らかく笑って、自分の席へ戻っていく。


 鈴木はその背中を見ながら、少しだけ嬉しくなった。


 でも。


 なぜかその瞬間。


 後ろから聞こえた花本の笑い声が、いつもより遠く感じた。


 放課後。


 鈴木は帰り支度をしながら、何度も後ろを見た。


 けれど花本は、友達と話しながら先に教室を出ていく。


 一度も、こっちを見ないまま。


「……なんだろ。」


 胸の奥が、少しだけ落ち着かなかった。


 でも鈴木は、まだ気づいていない。


 その“違和感”の理由に。


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