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『聞いてる? 鈴木くん。』  作者: ともり。


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第八話 少しだけ、離れる

## 第八話 少しだけ、離れる


 その日の放課後。


 教室には、夕方前のゆるい空気が流れていた。


 鈴木はノートをまとめながら、何度か後ろを振り返る。


 でも今日は、花本が来なかった。


 いつもなら、


「まだ帰らないの?」


とか、


「また集中してる。」


とか。


 何かしら話しかけてくるのに。


「……帰ったのかな。」


 小さく呟く。


 その時。


「鈴木くん。」


 聞こえた声に顔を上げる。


 佐々木だった。


「あ、真帆さん。」


「今帰り?」


「うん。」


 佐々木は少し迷うように視線を揺らしたあと、


「駅まで一緒に行く?」


 と、笑った。


 一瞬、心臓が跳ねる。


「え、あ……うん。」


 二人は並んで教室を出た。


 廊下には、夕方の光が差し込んでいる。


 窓の外では、運動部の声が遠く聞こえていた。


「鈴木くんって、ほんと真面目だよね。」


 階段を下りながら、佐々木が言う。


「そうかな。」


「うん。なんかちゃんとしてる。」


 その言葉が嬉しくて、鈴木は少しだけ笑った。


 でも。


 昇降口へ向かう途中。


 窓際に座ってスマホを見ている花本の姿が目に入る。


 一瞬だけ、視線が合った。


 花本は少し驚いた顔をして。


 それからすぐに、小さく笑った。


「……。」


 鈴木が何か言おうとした時には、もう花本は視線を戻していた。


「鈴木くん?」


「あ、ごめん。」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。」


 二人はそのまま歩き出す。


 でも鈴木は、さっきの花本の顔が少しだけ頭に残っていた。


 その頃。


 花本は、一人で昇降口のベンチに座っていた。


 スマホの画面は、もうとっくに消えている。


「……ばか。」


 小さく呟く。


 本当は今日。


 一緒に帰れたらいいな、と思っていた。


 コンビニで新作アイスが出てるから、寄ってみようかな、とか。


 そんなことを考えていた。


 でも。


「まあ、そりゃそうだよね。」


 鈴木くんは、佐々木さんが好きなんだから。


 わかっていたはずなのに。


 胸の奥が、少しだけ苦しかった。


 外では、夏みたいな風が吹き始めていた。


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