第七話 優しい人
## 第七話 優しい人
翌日の昼休み。
教室はいつもより少し騒がしかった。
来月の体育祭について、クラス委員たちが前の方で話し合いをしている。
「鈴木くん、体育祭なに出るの?」
花本が弁当箱を開きながら聞いた。
「まだ決めてない。」
「またギリギリまで出さなそう。」
「……否定できない。」
鈴木が苦笑する。
花本は小さく笑ってから、卵焼きを口に入れた。
その時。
「鈴木くん。」
二人同時に顔を上げる。
教室の入り口には、佐々木が立っていた。
「あ、真帆さん。」
自然に名前を呼んでしまってから、鈴木は少しだけ焦る。
でも佐々木は気にした様子もなく笑った。
「ごめん、昨日のノート借りてもいい?」
「もちろん。」
鈴木は慌てて鞄を開く。
そんな様子を、花本は静かに見ていた。
「ありがとう。助かる。」
佐々木はノートを受け取ると、鈴木の机の上を見て少し笑った。
「鈴木くんって、字きれいだよね。」
「え、そう?」
「うん。なんか真面目って感じ。」
その言葉だけで、鈴木の耳が少し赤くなる。
花本は、それをちゃんと見ていた。
「じゃ、また返すね。」
佐々木は軽く手を振って教室を出ていく。
静かになる。
数秒後。
「……よかったね。」
花本が、また同じ言葉を言った。
「え?」
「褒められて。」
「あ、うん。」
鈴木は少し照れたように笑う。
その顔を見て、花本は視線を落とした。
自分でもわかる。
今、少しだけ胸が痛かった。
「ねえ、鈴木くん。」
「ん?」
「真帆さんの、どこが好きなの?」
鈴木は少し考える。
「……優しいところ。」
「ふーん。」
「誰にでも優しいし、ちゃんと話聞いてくれるし。」
その瞬間。
花本は、ほんの少しだけ苦しそうに笑った。
「そっか。」
誰にでも優しい。
それは、佐々木の良いところだ。
でも同時に。
“特別じゃない”ということでもある。
花本はストローを軽く噛みながら、窓の外を見る。
青空の向こうで、白い雲がゆっくり流れていた。
「……でもさ。」
「?」
花本は小さく笑う。
「優しい人って、一番ずるいよね。」
鈴木は、その意味がよくわからなかった。




