第六話 放課後の教室
## 第六話 放課後の教室
その日の放課後。
教室には、部活へ向かう足音が少しずつ遠ざかっていく音だけが残っていた。
窓の外は、夕方の色に変わり始めている。
鈴木は一人、机に向かっていた。
シャーペンを動かす音。
ページをめくる音。
それ以外は、静かだった。
「……まだ帰らないの?」
後ろから声がして、鈴木は顔を上げる。
花本だった。
鞄を肩にかけたまま、教室の入り口に立っている。
「ちょっとだけ。」
「その“ちょっと”で、いつも遅くなるじゃん。」
「今日は本当にあと少し。」
「昨日も聞いた。」
花本は呆れたように笑いながら、鈴木の前の席へ座った。
「花本さんは帰らないの?」
「帰るよ。」
「じゃあなんでいるの。」
「……なんでだと思う?」
鈴木は少し考える。
「忘れ物?」
「違います。」
「先生待ち?」
「違います。」
「……?」
花本は小さく息を吐いて、窓の外を見る。
夕焼けが、教室の床をオレンジ色に染めていた。
「鈴木くんさ。」
「ん?」
「この前、“真帆”って呼んでたじゃん。」
「あ……。」
鈴木の動きが止まる。
「べ、別に普通じゃない?」
「普通ではないかなあ。」
花本は笑う。
でもその笑顔は、少しだけ無理しているようにも見えた。
「……嫌だった?」
鈴木がそう聞くと、花本は一瞬だけ目を丸くする。
「え?」
「なんか、元気なかったし。」
花本は少し黙ったあと、小さく笑った。
「そういうとこだよ。」
「?」
「鈴木くんって、変なところだけ気づくよね。」
「変って。」
「肝心なところは気づかないのに。」
窓の外で、カラスの鳴き声がした。
静かな放課後。
扇風機の風だけが、ゆっくり教室を回っている。
花本は机に頬杖をついたまま、鈴木を見ていた。
「……ねえ。」
「ん?」
「もしさ。」
少しだけ、声が弱くなる。
「鈴木くんの好きな人が、鈴木くんのこと好きじゃなかったらどうする?」
突然の質問だった。
鈴木はシャーペンを止める。
「……わかんない。」
「そっか。」
「でも。」
「?」
「それでも好きなら、仕方なくない?」
その言葉を聞いて。
花本は、少しだけ困ったように笑った。
「……ほんと、まっすぐだね。」
夕焼けが、二人の影を長く伸ばしていた。




