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『聞いてる? 鈴木くん。』  作者: ともり。


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第五話 名前で呼ぶ

## 第五話 名前で呼ぶ


 昼休み。


 教室には、弁当の匂いと話し声が広がっていた。


 窓際では男子たちがスマホゲームで盛り上がり、後ろの席では女子たちが新しく出たカフェの話をしている。


 そんな中。


 鈴木は、一人でパンを食べながら参考書を開いていた。


「また見えてない。」


 呆れた声と一緒に、目の前の席へ誰かが座る。


 顔を上げると、花本だった。


「今日は何。」


「英語。」


「いや、そうじゃなくて。」


 花本は鈴木の参考書を閉じる。


「昼休みくらい休みなって。」


「別に疲れてないし。」


「そういう問題じゃないの。」


 花本は自分のストローをくるくる回しながら、小さく息を吐いた。


「鈴木くんってさ。」


「ん?」


「なんか、ずっと急いでる感じする。」


 その言葉に、鈴木は少しだけ考える。


 でも、自分ではよくわからなかった。


「……そう?」


「うん。」


 花本は頷く。


「ちゃんと休まないと、いつか倒れるよ。」


「倒れないって。」


「そういう人ほど倒れるんですー。」


 先生みたいな言い方をして、花本が笑う。


 その時だった。


「鈴木くん。」


 聞き慣れた声がして、鈴木が振り返る。


 佐々木さんだった。


「あ、佐々木さん。」


「昨日のプリント、ありがとう。」


「いや、全然。」


 自然と鈴木の表情が柔らかくなる。


 花本はその様子を見ながら、ストローを咥えたまま黙っていた。


「あとさ。」


 佐々木が少し笑う。


「“佐々木さん”って、なんか距離あるよね。」


「え?」


「真帆でいいよ。」


 一瞬。


 鈴木の動きが止まる。


「……ま、ほ。」


「うん。」


 佐々木は楽しそうに笑った。


「じゃ、またね。」


 軽く手を振って、教室を出ていく。


 その背中を、鈴木はしばらく目で追っていた。


 静かになる。


 数秒後。


「……よかったね。」


 花本が言った。


「え?」


「名前呼び。」


 その声は、いつもより少しだけ小さい。


 鈴木は気づかない。


「う、うん。」


「顔赤かったよ。」


「え、嘘。」


「わかりやす。」


 花本は笑った。


 ちゃんと笑っていた。


 でも。


 机の下で握っていた指先には、少しだけ力が入っていた。


 窓の外では、夏みたいな日差しが校庭を照らしていた。


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