第十話 いつもの場所
## 第十話 いつもの場所
放課後。
空は薄く曇っていた。
雨が降りそうで降らない、曖昧な色をしている。
鈴木は教室で荷物をまとめながら、何度も後ろを見ていた。
花本は、今日も友達と話している。
笑っているし、普通に見える。
でも。
やっぱり、自分には話しかけてこなかった。
「……。」
鈴木は鞄を持って立ち上がる。
その時だった。
「鈴木くん。」
また佐々木が声をかけてくる。
「今日、駅前寄る?」
「え?」
「新しいカフェできたらしくて。」
佐々木はスマホを見せながら笑った。
「あ、ここ。」
「へえ。」
「甘いの好き?」
「まあ、普通に。」
「じゃあ行こ。」
自然な流れだった。
断る理由もなかった。
「うん。」
二人は並んで教室を出る。
廊下には、部活へ向かう生徒たちの声が響いていた。
階段を下りながら、鈴木はふと後ろを振り返る。
でも、花本の姿は見えなかった。
――まあ、別に。
そう思ったはずなのに。
胸の奥が少しだけ落ち着かない。
駅前のカフェは、できたばかりらしく混んでいた。
店内には甘い匂いと、静かな音楽が流れている。
「鈴木くんって、休日なにしてるの?」
向かいに座った佐々木が聞く。
「ギター弾いたり、勉強したり。」
「真面目だなあ。」
佐々木は笑った。
「もっと遊びなよ。」
「遊ぶって言ってもなあ。」
「じゃあ今度、みんなでどっか行く?」
その言葉に、鈴木は少しだけ嬉しくなる。
「あ、いいね。」
「真帆、ボウリングしたい。」
名前を呼ばれて、一瞬だけドキッとする。
でもその瞬間。
鈴木のスマホが震えた。
画面を見る。
花本結衣。
短いメッセージだった。
『今日、先帰るね』
たったそれだけ。
なのに。
なぜか少しだけ胸がざわつく。
「どうしたの?」
佐々木が首を傾げる。
「……いや、なんでもない。」
鈴木はスマホを伏せた。
でもその後も、
頭の片隅にはずっと、
花本からの短いLINEが残り続けていた。
一方その頃。
花本は、一人でコンビニを出たところだった。
袋の中には、新作のアイスが二つ入っている。
本当は。
一緒に食べようと思っていた。
「……なにやってんだろ、私。」
苦笑しながら、空を見上げる。
曇った空の向こうで、
遠く、小さく雷の音がした。




