第十一話 いないはずなのに
## 第十一話 いないはずなのに
翌日の朝。
鈴木はいつもより少し早く教室へ着いた。
まだクラスには数人しかいない。
窓際の席では、朝日が机を照らしている。
鞄を置いて座る。
そして何気なく後ろを見る。
花本の席は空だった。
「まだ来てないのか。」
そう思って前を向く。
別に珍しいことじゃない。
それなのに。
なぜか少しだけ気になった。
ホームルーム五分前。
花本はまだ来ない。
チャイムが鳴る。
先生が教室へ入ってくる。
それでも来ない。
「花本、体調不良で欠席だそうだ。」
先生が何気なく言った。
クラスの誰かが、
「まじか。」
と呟く。
それだけ。
それだけのことなのに。
鈴木は無意識に後ろの空席を見ていた。
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昼休み。
パンを買って教室へ戻る。
いつもなら。
「それ絶対足りないでしょ。」
とか、
「またパンだけ?」
とか。
何か言われる時間だった。
でも今日は静かだ。
鈴木は席に座りながら、妙な違和感を覚える。
教室はいつも通り騒がしい。
何も変わらない。
なのに。
何かが足りない。
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放課後。
鈴木は帰り支度を終えて立ち上がった。
いつもなら、
「まだ帰らないの?」
と声が飛んでくる頃だ。
でも当然、今日はない。
「……。」
気づけばスマホを取り出していた。
LINEを開く。
花本とのトーク画面。
最後のやり取りは昨日。
『今日、先帰るね』
その一文のまま止まっている。
送ろうとして。
指が止まる。
なんて送ればいいかわからない。
『大丈夫?』
重い気がする。
『風邪?』
なんか変だ。
結局。
何も送れなかった。
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帰り道。
空は少し曇っていた。
鈴木はイヤホンをつけたまま歩く。
でも今日は音楽が頭に入らない。
信号待ちで立ち止まる。
その時。
ふと気づく。
最近ずっと。
放課後になると花本がいた。
昼休みも。
朝も。
帰り際も。
当たり前みたいに。
そこにいた。
「……。」
信号が青になる。
それでも鈴木は少しだけ立ち尽くしていた。
胸の奥にある違和感は、
まだ名前を持っていない。
けれど確実に、
少しずつ大きくなり始めていた。




