第三話 既読がつかない夜
## 第三話 既読がつかない夜
その日の夜。
鈴木はベッドの上でスマホを見つめていた。
部屋には、ギターの小さな音が流れている。
勉強をするつもりだったのに、気づけば動画を見て、気づけば音楽を流していた。
そして今は、LINEの画面をぼんやり眺めている。
『今日はありがとう』
送られてきたのは、花本からのメッセージだった。
その下には、猫が頭を下げているスタンプ。
鈴木は少し考えてから、
『こちらこそ』
とだけ返す。
送信。
既読はすぐについた。
『ちゃんと聞こえてた?』
続けて送られてきたメッセージを見て、鈴木は少し首を傾げる。
『なにが?』
『もういい』
怒っているような、呆れているようなスタンプが送られてきた。
「……?」
鈴木には、よくわからなかった。
とりあえず困ったとき用の犬のスタンプを返しておく。
そのままスマホを置こうとして――。
通知欄に、別の名前を見つけた。
佐々木真帆。
思わず姿勢を起こす。
『今日のプリントって提出明日までだっけ?』
ただ、それだけの連絡。
なのに、少しだけ心臓が跳ねた。
鈴木はすぐにトーク画面を開く。
『うん、明日までだったと思う』
送信。
既読はまだつかない。
なんとなく落ち着かなくて、スマホを見つめてしまう。
五分。
十分。
二十分。
既読はつかなかった。
その頃。
花本は、自分で送ったLINEを見返していた。
『もういい』
送ったあとで、少しだけ後悔した。
「めんどくさい女みたいじゃん……」
ベッドに顔を埋める。
本当は、
“今日はちゃんと私を見てくれてた?”
って聞きたかっただけなのに。
でも、そんなことを素直に言えるほど、花本は器用じゃない。
スマホが震える。
反射的に画面を開く。
でも表示されたのは、グループLINEの通知だった。
「……はあ。」
小さくため息をつく。
その頃、鈴木はまだ佐々木さんからの返信を待っていた。
雨は止んでいた。
窓の外では、夜風が静かにカーテンを揺らしている。
けれど鈴木は、そんなことにも気づかないまま、スマホの画面を見つめ続けていた。




