第二十九話 始業式
## 第二十九話 始業式
九月。
夏休みが終わった。
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久しぶりの制服。
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久しぶりの教室。
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久しぶりのチャイムの音。
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けれど鈴木にとっては、
それ以上に大きな意味があった。
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**「話したいことがある」**
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あの日。
花本にそう伝えた。
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つまり。
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今日、言うつもりだった。
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## 朝
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教室へ入る。
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窓から入る風が少し涼しい。
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夏とは違う匂いがした。
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「おはよ。」
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花本だった。
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いつも通り。
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でも。
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鈴木だけがいつも通りじゃない。
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「お、おはよう。」
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「緊張してる?」
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「してない。」
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「してる。」
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即答だった。
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花本は笑う。
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その笑顔を見るだけで。
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やっぱり好きだと思う。
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## 昼休み
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鈴木は落ち着かなかった。
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パンを食べても味がしない。
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友達と話していても上の空。
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田辺には。
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「今日だろ?」
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とだけ言われた。
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そして。
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「逃げんなよ。」
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背中を押された。
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## 放課後
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チャイムが鳴る。
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クラスメイトたちが帰り始める。
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夕日が教室へ差し込む。
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あの日と同じだった。
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花本は窓際の席に座っていた。
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「話ってなに?」
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先に聞いたのは花本だった。
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笑っている。
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でも。
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少しだけ緊張しているようにも見えた。
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鈴木は深呼吸する。
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心臓がうるさい。
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逃げたい。
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でも。
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逃げないと決めた。
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「花本さん。」
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「うん。」
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夕焼けが教室を赤く染めている。
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最初に話しかけられた日も。
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雨の日も。
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体育祭も。
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夏祭りも。
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全部思い出す。
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そして。
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ようやく。
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ようやく言えた。
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「俺。」
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花本が静かに待つ。
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「ずっと気づいてなかった。」
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花本の目が少し揺れる。
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「聞こえてなかった。」
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鈴木は笑う。
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少し情けない笑顔だった。
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「花本さんの気持ちも。」
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「……。」
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「自分の気持ちも。」
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沈黙。
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教室には誰もいない。
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聞こえるのは風の音だけ。
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「でも。」
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鈴木はまっすぐ花本を見る。
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「今はちゃんと聞こえてる。」
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花本の目に涙が滲んだ。
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タイトルの意味が、
ようやくここで繋がる。
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「花本さん。」
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「うん。」
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「好きです。」
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静かな教室だった。
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けれど。
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その言葉だけは、
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誰よりもはっきり届いていた。




