最終話 聞いてるよ
## 最終話 聞いてるよ
花本の目から、一粒だけ涙がこぼれた。
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窓の外では、九月の風がカーテンを揺らしている。
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誰もいない教室。
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夕焼け。
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静かな時間。
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鈴木は返事を待っていた。
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今までで一番長く感じる数秒だった。
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花本は俯いたまま、小さく笑う。
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「遅い。」
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最初の言葉は、それだった。
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鈴木は苦笑する。
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「ごめん。」
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「ほんとに遅い。」
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花本は涙を拭く。
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でも。
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その顔は泣いているのに笑っていた。
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「私。」
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花本がゆっくり顔を上げる。
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「どれだけ待ったと思ってるの。」
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「……。」
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鈴木は何も言えない。
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だって本当にその通りだから。
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花本は何度も話しかけてくれた。
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何度も隣にいてくれた。
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何度も気持ちを向けてくれていた。
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それなのに。
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自分は気づかなかった。
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「ごめん。」
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もう一度言う。
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すると。
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花本は少しだけ困ったように笑った。
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「今日は謝る日じゃないでしょ。」
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「え?」
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「こういう時は。」
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花本が少しだけ顔を赤くする。
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「返事を聞くんだよ。」
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鈴木の心臓が跳ねた。
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花本は深呼吸する。
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そして。
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ずっと言いたかった言葉を口にした。
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「私も好きです。」
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夕焼けが二人を包む。
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教室の空気が少しだけ柔らかくなった気がした。
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鈴木は思わず笑う。
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花本も笑う。
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そして。
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二人同時に吹き出した。
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「なんで笑うの。」
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「わかんない。」
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「私も。」
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そんな会話ができることが嬉しかった。
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## 帰り道
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校門を出る。
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空は少しずつ暗くなっていた。
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夏は終わる。
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でも。
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何かが終わった気はしなかった。
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むしろ。
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ここから始まる気がした。
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歩きながら。
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花本が小さく言う。
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「ねえ。」
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「ん?」
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鈴木が振り向く。
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花本は少しだけ笑った。
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そして。
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あの日から何度も言い続けてきた言葉を口にする。
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「聞いてる?」
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鈴木も笑う。
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もう間違えない。
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もう聞き逃さない。
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ちゃんと届いている。
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だから。
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まっすぐ答えた。
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「うん。」
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秋の風が吹く。
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夕暮れの帰り道。
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二人の影が並んで伸びていた。
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「今は、ちゃんと聞いてるよ。」
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### 完




