第二十八話 会いたい理由
## 第二十八話 会いたい理由
八月の終わり。
夏休みも、残りわずかになっていた。
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鈴木はスマホを見つめていた。
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トーク画面の相手は花本。
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文字を打つ。
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消す。
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また打つ。
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消す。
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十分くらい、それを繰り返していた。
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「……。」
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こんなに緊張するものだっただろうか。
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前までは普通に送れていた。
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なのに。
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今は一言が難しい。
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好きだと気づいてしまったから。
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だからこそ。
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簡単に送れなくなった。
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それでも。
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鈴木は意を決して文字を打つ。
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『今度、二人でどこか行かない?』
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送信。
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その瞬間。
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心臓が大きく鳴った。
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## 数分後
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返信が来る。
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『珍しいね』
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その一文に。
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鈴木は苦笑した。
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確かに珍しい。
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今までは。
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花本が誘ってくれていた。
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自分から誘うことなんて、ほとんどなかった。
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『たまには』
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そう返す。
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少しして。
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『いいよ』
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その文字が届いた。
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胸の奥が少しだけ温かくなる。
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それだけで嬉しかった。
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## 当日
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待ち合わせ場所は駅前だった。
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夏休み最後の日曜日。
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空は高く、少しだけ秋の気配が混じっている。
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鈴木は約束の十五分前に着いていた。
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落ち着かない。
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何度も時間を確認する。
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その時。
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「お待たせ。」
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聞き慣れた声。
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振り返る。
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花本だった。
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私服姿。
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制服じゃない。
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それだけなのに。
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なぜか少し緊張した。
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「待った?」
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「いや。」
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嘘だった。
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でも花本は笑った。
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「絶対待ってたでしょ。」
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見抜かれていた。
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## 昼
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二人でショッピングモールを歩く。
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雑貨を見たり。
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アイスを食べたり。
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くだらない話をしたり。
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特別なことは何もない。
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でも。
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鈴木は楽しかった。
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今までで一番。
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自然に笑えている気がした。
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## 夕方
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帰り道。
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駅へ向かう途中。
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空が少し赤くなっていた。
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「今日はありがと。」
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花本が言う。
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「こちらこそ。」
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少し沈黙が流れる。
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そして。
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鈴木は立ち止まった。
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言わなければ。
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今しかない。
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そう思った。
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けれど。
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言葉が出てこない。
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好き。
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たったそれだけなのに。
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難しかった。
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「鈴木くん?」
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花本が不思議そうに見る。
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鈴木は深く息を吸った。
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そして。
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「夏休み終わったら。」
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「うん。」
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「話したいことがある。」
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花本の目が少しだけ揺れる。
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何かを察したように。
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でも。
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何も聞かなかった。
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「わかった。」
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ただ。
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優しく笑った。
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その笑顔を見ながら。
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鈴木は思う。
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今度こそ。
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ちゃんと伝えよう、と。




